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「Web3.0×米」プロジェクト“目指せ100万石の大名” 西会津町の風景や文化を残す「石高プロジェクト」に迫る

2024/07/28 17:36 (2025/04/04 14:20 更新)
Iolite 編集部
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「Web3.0×米」プロジェクト“目指せ100万石の大名” 西会津町の風景や文化を残す「石高プロジェクト」に迫る

西会津町の風景や文化を残す「Web3.0×米」プロジェクト

まずは自分たちが楽しいと思うこと

——「石高プロジェクト」を立ち上げた背景や目的についてお聞かせください。

長橋幸宏(以下、長橋):「石高プロジェクト」は人口6,000人にも満たない福島県西会津町が舞台となっています。西会津町では現在急速に人口減少が進んでおり、高齢化率も50%以上となっています。

そんな西会津町は、さまざまな条件や環境が揃っていることもあり、知名度は低いですが、大変おいしい米が育つ地域であり、全国食味コンクールで金賞をとる農家さんがいるなど、とても稲作の盛んな地域です。だからこそ、稲作をテーマにした石高プロジェクトが生まれてきました。

立ち上げた目的としては、もっと米を買ってもらえる状況を作ることももちろんありますが、自分たちの地域の文化や風景を残していきたいと考えた時に、なぜ残したいのかという想いも伝えていきたいという考えが背景にあります。

西会津町には、「日本の原風景」ともいえる暮らしの風景がまだ残っています。西会津町の町並みや集落の形は、江戸時代から大きく変わっていません。

つまり何百年にもわたって同じ風景が流れているということです。これは近代の経済成長の影響を受けすぎなかったことが要因の1つとしてあるかもしれませんが、こういったヒューマンスケールの暮らしが現存しており実際に生活があるということは貴重であるといえます。

社会的にもサスティナビリティに注目が集まっていますが、西会津には昔ながらのサスティナブルな暮らしが続いているという実績があります。こういった地域において技術を活用しながら地続きでアップデートしていくことで、日本らしいサスティナブルの形が提案できるのではないかとも考えています。

——プロジェクトのカギを握る存在はなんでしょうか?

長橋:やはり米作りです。稲作というのは単純に食料を生産する作業というだけでなく、「風景をつくる」行為であり、本来は暮らしや文化の基盤としての役割を担ってきたものです。

田んぼは山から来た水を蓄える場所であり、生物の多様性を担保することにもつながります。文化の面でも、集落自治や年中行事なども、稲作のサイクルをもとにして形成されてきました。

昨年度からプロジェクトを開始し、上記のような感覚に共感してくださる2人の農家が参加してくれています。彼らは「次世代のために田んぼのある風景や豊かな土を残したい」という想いで持続可能な農業を目指している農家たちです。

さまざまな課題に直面しているなかでも、自然と対話しながら、こだわり抜いて美味しいお米を作ろうとがんばっていて、私たちは彼らのような農家を「アーティスト」だと思っています。石高プロジェクトでは、そんなアーティストを支える仕組みや文化を作れればと考えています。

——石高プロジェクトの特徴を教えてください。

長橋:まず技術的な部分での特徴があると思います。

石高システムは株式会社クエストリーが開発したトークンによる貢献報酬分配のプロトコルを基礎に構築しており、米という現実資産にトークンを紐付けることで、あらたな米の購入体験を実現しています。

石高システムは、アーティストである農家を支える仕組みに加えて、ボランティアなどでこれまで西会津に関わってくれていた方々との関係性を強化する仕組みでもあります。

トークンは、譲渡不可能なNFTであるNTT(Non Transferable Token)を活用し、貢献の証明書としての機能を持たせています。それぞれ貢献をしてくれた人にNTTを細かく発行し、それに基づく貢献度から報酬を分配するという仕組みです。

現実で考えれば、1つのコミュニティのなかで貢献度が人それぞれ違うのは当然です。それをデジタル上で実現しようとしたのがクエストリープロトコルです。石高プロジェクトでは、2種類の貢献を設定しています。

まず1つ目としては、参加者は収穫前の米を購入することによって農家に金銭的に貢献します。

そして、もう1つはボランティアやイベント参加、SNS宣伝などによる非金銭的な貢献です。これら2つの貢献に対して「米ボード」「人足ボード」というNTTを発行します。

そして、米の収穫後にボード保有数に基づく貢献度に対して、報酬である「米手形」を配布します。これがNFTであり、「お米引換券」の役割です。この米手形の交換申請をすることで現物の米が手元に届くという流れになっています。

そして、石高プロジェクトの大きな特徴としては、ご覧の通り、デザインや世界観です。

「故くて新しい」という言葉をキーワードにしていて、農村の暮らしや江戸時代的な要素と、Web3.0のような技術を掛け合わせた時に、どんな世界や未来を描けるか。そんなことを考えながら、誰でも楽しく参加できるように、米ダジャレのような、ゆるい「ノリ」で仕立てています。

ほかにも、貢献度が貯まるとアプリ内のアカウントの「地位」が上がっていきます。最初は「百姓」から始まり「大名」まで長い道のりです。「目指せ100万石の大名」と謳っているのはそういう意味です。

——「収穫前に米を購入することができる」とのことですが、収穫量に応じてユーザーが得られる米の量も減少することがあるということでしょうか?

長橋:その通りです。私たちは「生産者と消費者で、不作のリスクを分かち合い豊作をともに喜ぶ」ということを実現しようとしていて、これは消費者にとっては「食べもの」との距離が近付くことであり、生産者にとっては稲作経営が安定するようにという意図です。

農家は自然相手の稲作で事業を経営しているので、不確実な天候等の影響で損益分岐点を下回るリスクが常にあります。その状況下で持続可能な農業に投資していくのは大変なことです。なので、そんな農家を少しでも支えるために、平均収穫量に対するマイナス分を消費者も分担するという仕組みにしています。

具体的には、収穫前に買った5キロのお米が、今年は不作だったから4キロとして手元に届いた。逆に豊作だったから6キロに増えた、ということもあるわけです。

これは消費者にとってはデメリットのようにも思えますが、食べ物が「自分事になる」という意味で楽しんでもらいたいと思っています。お米を買ったことで、福島県の天気予報が気になったり、現地に来て自分が買ったお米の成長をみてうれしくなったりする。そして、これらがあった上で味わうお米はより美味しく感じるはずです。

——なぜWeb3.0要素を組み入れたのでしょうか?

長橋:クエストリーさんと協働することになったのも、もともとは人のご縁でしたが、課題感や構想の話をした時に「自分たちのアセットを活かして実現してみませんか」と提案していただき、今の形になりました。

Web3.0の技術はとても可能性があるものだと思っていまして、特に金融との相性は良いでしょう。石高プロジェクトとしては、この技術を活用すれば自分たちの望む経済の在り方を実現できる気がしています。ミヒャエル・エンデのいう「腐るお金」のように、米という自然の資本をベースにした価値交換の仕組みを構築できないか。そういうチャレンジでもあります。

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