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国内最大級のWeb3.0カンファレンスとして存在感示す 「WebX」イベントレポート

Iolite 編集部
2023/07/26

国内最大級のWeb3.0カンファレンスの1つとして、「WebX」が7月25日、26日の2日間にわたり東京国際フォーラムで開催された。

世界各国からWeb3.0領域の主要プレイヤー及びスタートアップ、投資家、政府関係者らが登壇するとあって、日本国内はもちろんのこと、海外から多くの一般来場者が参加し、早朝から受付では長蛇の列がみられた。

本カンファレンスは国内暗号資産・Web3メディアのCoinPostが企画・運営するもので、Ioliteもメディアパートナーとして参加。今回のレポートでは、Iolite編集部が注目するセッションを中心にまとめていく。



1日目


——政府として日本をWeb3.0ビジネス拡大の場にする


開会にあたり、自民党の政務調査会長である萩生田光一衆議院議員が挨拶を行った。萩生田氏は、「Web3.0事業推進に向けた環境課題を日本の『骨太の方針』のなかに成長戦略として組み入れる。民間政府が一体となりWeb3.0に取り組んでいる。日本をWeb3.0の世界のハブにする」と語った。


▶︎登壇する自民党・萩生田氏


続く基調講演では、岸田文雄内閣総理大臣がビデオメッセージで登壇した。

岸田首相は「政府はWeb3.0の環境整備を実施していく。ブロックチェーンは世界を変える。アイデアの裾野の拡大を目指す」とコメント。さらに、「日本は今後、Web3.0領域のプレイヤーが集結するようなWeb3.0ビジネスを拡大する場となる」と強調し、カンファレンスを通じて「日本の大手企業がメタバース空間で価値ある経済圏を構築する大型プロジェクトを発表することに強く期待している。社会的課題を解決できるWeb3.0の技術に期待している」と述べ、国としてこれまで以上にWeb3.0の発展へ注力していく姿勢を打ち出した。


▶︎ビデオメッセージで登壇した岸田首相


政府関係者のセッションでは、自民党の塩崎あきひさ衆議院議員がSalesforce Web3 Studio共同創設者のマシュー・マーク氏と会談。マーク氏は現在「クリプトの冬」といわれているなかでも、「日本は熱い市場だ」と語り、世界の情勢としてWeb3.0の主要プレイヤーがブロックチェーンからAIに移行していると述べる。

これに対し、塩崎氏は「世界的な流れとして、AIの進化を止める傾向にあるが、日本はあたらしいテクノロジーをサポートする方針を決定した。AIテクノロジーにおいて、日本はリーダーシップを取っていく」と語り、今後も国としてAI分野へ注力する姿勢を強調した。


▶︎左からマーク氏、自民党・塩崎氏


25日午前に多くの参加者が集まったセッションとしては、YugaLabsのアレグレ・ダニエルCEOと経済産業省大臣官房Web3.0政策推進室課長補佐の板垣和夏氏の特別対談があげられる。

アレグレ・ダニエル氏は世界第3位のゲームソフト会社アクティビジョン・ブリザードの社長兼COOで、YugaLabsには2023年前半に参画した。ダニエル氏は、CEO就任から4ヵ月が経った過程で、「ゲームがWeb3.0により大きく変わることを実感した」と述べる。それはコミュニティの発展やゲームにおけるペルソナ設計等が背景にあるようだ。

一方の板垣氏は、政府としてWeb3.0の良いビジネス環境を構築していく方針だとし、「日本はIP資産が多くある。ポテンシャルの高い人も多い。ドリームジョブを実現するにあたり、収益性の面で諦める場合があるが、Web3.0ではトークンを発行できる。Web3.0テクノロジーがあれば日本から世界に出ることができる。皆で資金を出し合い、あたらしいスタートアップをつくり、社会課題を解決できることが可能だ」と力を込めた。

ダニエル氏も日本のIPや規制面が世界的にみても優位にあるとした上で、「規制がクリアな国こそが世界のリーダーになる」と語った。


▶︎左からダニエル氏、経産省・板垣氏


——日本のWeb3.0領域に流れ込む世界の潮流


正午過ぎからは、大きな注目を集めていた「2ちゃんねる」創設者の“ひろゆき”こと西村博之氏が、暗号資産取引所bitFlyerの代表取締役である加納裕三氏と「ビットコイン・Web3は世の中に必要か」をテーマとして対談を行った。会場は立ち見で溢れ返り、入場制限がかけられるほどであった。なおこの対談はユーチューブの「ReHacQ」を手がける高橋弘樹氏がモデレーターを務めた。

ひろゆき氏は暗号資産について「ゲームと同じで、社会では不要で必ずしも必要ではない。なくてもかまわないものだ。現状ではこれは儲かるよといわれ参加すれば詐欺にあう。ビットコインのように何百倍になるのはレアケース」と指摘。

これに対し加納氏は「過去にはセミナーで知ったトークンが何千倍になったというケースもある。しかし現在では成熟期を迎えた。たとえばトヨタの株が今さら何十倍にもなるかといえば、そうはならない。それと同じ状況」と述べ、一部の意見については同意するシーンもみられた。

また、ひろゆき氏はNFTの不明瞭さについても指摘。現状、「NFTは具体的に何の権利を取引しているのかがわからない」と述べた。加納氏も民法的にはデジタルの所有権は認められていないため、「NFTを購入してもデータの所有権は得ることができない」とし、実際に取引されるのは「所有する感覚」だけであると語った。

続けて、ひろゆき氏はWeb3.0全体についても投機で儲けたい人やそれを利用して詐欺を働く業者が多く、Web3.0を社会的に構築することをモチベーションとする人は少ないのではないかとも指摘した。加納氏もこれについては同意。ただし、イノベーションが出た時の黎明期では詐欺師が出てくることは歴史をみればわかると返している。

このセッションで加納氏はステーブルコインについて少額決済で使用する面で未来があると述べた。さらに暗号資産の良い点はトランザクションが1円から可能である点だとし、たとえば自転車で排気量を測ったりして報酬を得たり、マンホールをみつけることで報酬を得るというサービスが始まるなど、未来は明るいと期待も寄せた。


▶︎左からbitFlyer・加納氏、ひろゆき氏


続く「Web3の最新トレンド 日本で世界の潮流を知る」セッションには、日本発のパブリックチェーンであるアスターネットワークのファウンダー・渡辺創太氏や、バイナンスジャパンの代表である千野剛司氏、そしてAnimoca Brands株式会社の代表取締役社長である岩瀬大輔氏が登壇。モデレーターはWeb3メディア「あたらしい経済」の編集長である設楽悠介氏が務めた。こちらのセッションも立ち見が出るほどの熱狂に包まれていた。

渡辺氏は「Web3.0を進める上で良い環境をつくった国に良い人材が集まっていく」と言及。Web3.0事業を立ち上げたはいいが、後から背中を刺されるような国からは人材が流出すると釘を刺した。また「今後3、4年で、サービスの裏側でどのチェーンを使っているのかはわからなくなり、良いアプリが載っかっているチェーンが残っていく。実は裏側でアスターが使われているみたいな形をつくっていきたい」と述べた。

Animoca Brandsの岩瀬氏は「Web3.0領域にマスアダプションを知り尽くしたWeb2.0の大物が参入しつつある」と指摘した。また、「P2E(Play to Earn)ではなく、本当に楽しめるゲームをつくることこそマスアダプションの鍵になる」とし、「Web3.0のマスアダプションは、ゲーム、チケット、金融の3つが柱になるだろう」と語った。

そしてバイナンスジャパンの千野氏は、「バイナンスが日本でステーブルコインを発行する計画がある」と述べ、大きな注目を集めた。さらに、バイナンスのCEOであるCZ氏もビデオメッセージで登場し、「日本は食事も美味しいが、Web3.0の環境も良い。日本の今後は楽しみだ。日本における我々の活動にも注目してほしい」と述べ、改めて今年8月より日本市場でサービスを展開する予定であることを明らかにした。

このほか、バイナンスでは日本で大きなプロジェクトをローンチする予定だとも述べている。


▶︎ビデオメッセージを寄せるバイナンス・CEO氏



2日目

——日本を変える“イノベーション”と規制のバランス


2日目の日本ステージは、西村康稔経済産業大臣が来賓挨拶を行いスタート。西村大臣は国内の成長を妨げる少子高齢化問題をWeb3.0やAIを活用した革新技術により克服することが重要だと語る。

また、革新の推進力となるのは「若い世代とスタートアップの挑戦的な姿勢」と言及し、なかでもブロックチェーンは「社会に革新をもたらす技術の1つだ」と語った。特にAIとブロックチェーンの相乗効果に期待を寄せ、「社会変革が現実になる可能性を秘めている」と位置付けた。

西村大臣は挨拶の後半で“イノベーション”という言葉を多用し、「人類が抱える課題を乗り越えるにはイノベーションが必要」と声を大にして強調した。


▶︎登壇する西村大臣


西村大臣の挨拶により朝から熱気に包まれた日本ステージでは、続いて「日本の暗号資産規制のグローバルな影響力」と題したセッションを実施。bitFlyer代表にしてJBA(日本ブロックチェーン協会)の代表理事である加納氏、ビットポイントジャパン創業者兼代表取締役にしてJVCEA(日本暗号資産取引業協会)会長の小田玄紀氏、金融庁・チーフフィンテックオフィサーの牛田遼介氏が登壇した。

このセッションのモデレーターを務めたのはbitbank代表取締役CEOで、JCBA(日本暗号資産ビジネス協会)の会長でもある廣末紀之氏だ。JBA、JVCEA、JCBAという国内の暗号資産に関連した代表的な団体の長が集まったこともあり、会場は再び立ち見で溢れ返っていた。

セッションではまず昨年に発生したFTX事件に関連して、海外の規制動向の整理が加納氏を中心になされた。その過程で、規制整備を行う立場である牛田氏が改めて顧客保全に注視した現状の日本の市場環境を評価した。

また、小田氏は国内暗号資産取引所で取り扱い銘柄が増加していることに触れ、JVCEAとしては今年5月時点ですでに91種類の暗号資産について審査を終えていると明かした。

その上で今後はレバレッジの倍率を上げていくことに注力していき、国内暗号資産市場の流動性を高めていく姿勢をみせた。具体的には、まず国内におけるビットコイン取引の流動性を15%ほど上昇させたいとした。

加納氏もレバレッジ倍率の変更について賛成し、「日本は規制も進みやりやすい事業環境になっている。日本が世界をリードできる可能性がある」と語気を強めた。

こうしたやり取りを踏まえ、廣末氏は「大企業の関心は高まっている。参入しやすい環境になればさらに市場が活性化する」と述べ、「民間の力が今後必ず必要になってくる」と締めた。


▶︎左からbitFlyer・加納氏、ビットポイントジャパン・小田氏、金融庁・牛田氏、bitbank・廣末氏


2日目午前のセッションを締めくくったのは、アスターネットワークの渡辺氏、デジタルガレージ取締役共同創業者伊藤穰一氏、自民党Web3プロジェクトチーム座長の平将明衆議院議員、そしてCoinPost代表取締役CEOである各務貴仁氏の4名。「日本のWeb3国家戦略 今後5年で進むべき道を徹底議論」と銘打ち、濃密な話が繰り広げられた。

なかでも、「利益・収益をWeb3でどのように上げるか」というテーマでは、それぞれの考えを垣間見ることができた。

まず渡辺氏は「10年単位で考える重要性」を打ち出し、あのGoogleも最初から収益を考えて事業を行っていたとは考えにくいとコメント。また伊藤氏はメールが使われるようになった頃を引き合いに出し、「メールで収益を上げようなんて話もなかったし、ロングターンでやっていく必要がある」とした上で、Web3.0によって解決できることを考えていくべきだと述べた。

平氏は観光業など既存のアナログ的な価値を最大化すべきだとし、日本のIPや文化は有効活用できるとの考えを示した。

最後に「ここから5年後の業界展望」について語られた。

渡辺氏は「5年以内に日本発のプロジェクトが時価総額トップ10に入ることができるとインパクトがある。そのためには大企業の参入が重要だ」と述べた。また、伊藤氏は規制当局を始め官民がWeb3.0に興味関心を寄せており、知識を重ねている段階だとした上で、「過度に消極的になりすぎないことが大事」と言及した。

さらに、平氏は政治的な課題として安定的な電力供給と暗号資産税制が課題になるとし、それを変えていくために政治家役職や選挙の動向でモメンタムが変わらないことも重要だろうと見解を語った。


▶︎左からアスターネットワーク・渡辺氏、デジタルガレージ・伊藤氏、自民党・平氏、CoinPost・各務氏


午後に入り最も盛り上がったセッションの1つとしては、著名経済学者の成田悠輔氏やSBI金融経済研究所の研究主幹である副島豊氏、トヨタファイナンシャルサービス・CBDCチームの上野直彦氏が登壇した「日本円がデジタル化 その先に見える未来は」があげられる。

このセッションでは、成田氏が開口一番投げかけた、「社会がデジタル化された際、お金はそもそもいらないのでは?」という論点に注目が集まった。

成田氏は「すべてトラックを記録できるようになり価格のやり取りはなくなっている。やりすぎてはいけない範囲もなんとなく決まっていて、逸脱する存在がいればお金は必要なくなる」と持論を展開。その一方で、デジタル化された通貨が出てくれば「再分配の仕組みとして良い」とし、一定の理解を示した。

副島氏は「お金というのは即座に支払い行為ができ、きっちり誰かの手にわたる大事なツールだ」と言及。その上で、CBDCが流通した際には「どのような情報は吸い上げてもいいのか」「民間企業がオラクルになって良いのか」という課題は解決すべきだと主張した。

また、デジタル円が流通した際、「ステーブルコインとの共存はあり得るのか」というテーマで、上野氏は「共存可能」との見解を示した。一方で、銀行間決済などでステーブルコインが利用されるのは限定的かもしれないとの持論も述べた。

副島氏はCBDCとステーブルコインの共存は「健全な競争」につながるとしたものの、これらに固執することは未来の発展を妨げる可能性があるとし、他の決済手段についても検討しなければならないとの考えを示している。


▶︎左からトヨタファイナンシャルサービス・上野氏、SBI金融経済研究所・副島氏、成田氏、CoinPost・各務氏


まとめ


今回のWebXは東京国際フォーラムの大部分を利用して開催された。どのエリアも多くの参加者で埋め尽くされ、各々が交流を深めている様子がうかがえた。

またブースに出展した複数の企業・プロジェクトに話を聞いてみると、「これまでのイベントとは違い一般の方々が多く来場していたと思う」との声も聞こえた。実際、子供と一緒にイベントを楽しむ親子やNFTアートを楽しむ多くの参加者も見受けられたことから、まさにWeb3.0のマスアダプションに向け大きく寄与したイベントであるといえるのではないだろうか。



あわせて、先述したように各セッションでは立ち見が続出するなど、Web3.0に対する非常に高い興味関心もうかがえた。これもWeb3.0が世に浸透しつつあることをあらわす貴重なシーンだったといえるだろう。

こうした状況を鑑みても、WebXというイベントが業界の内外に与えたインパクト、そして残した財産というのは、今後の日本のWeb3.0発展につながるものであるだろうと感じられた。

画像:Iolite

Iolite 編集部