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佐々木俊尚の考える「情報通信革命の本命DX」 Tech and Future Vol.7

Iolite 編集部
2024/05/29

古い知識は役に立たない時代に——

Throw away

佐々木俊尚氏にテクノロジーと社会の未来を訊ねる連載企画。
今回のテーマは現代社会における「成長」と「学び」とは何か。

—AIの活用やDX化の推進など目まぐるしく変化する昨今の労働環境における「成長」と「学び」についてどのようなご見解をお持ちでしょうか。

佐々木俊尚(以下、佐々木):社会全体としてのマクロの視点と個人としてのミクロの視点という2つの視点で捉える必要があると思うのですが、前者の社会全体としてどのように捉えるかということに関しては、現在2つの議論が並行して行われています。

1つは人口減少・少子高齢化で人手が足りなくなり、それを補うために、たとえば高齢者雇用や外国人労働者を増やすという議論。

もうひとつはAIによって仕事が奪われるという議論。なぜかこの2つが並行して議論されていて交わっていないのが不思議なところなんですよね。

人手が足りなくなるという話とAIに仕事が奪われるという話を結びつければ、別に人がいなくなってもAIにやらせればいいという結論になると思うんですが、そうはなっていないんです。


—本来は結びつけて議論されるべき議題がなぜ結びついていないんでしょうか?

佐々木:その理由の1つとして世代交代の話があります。これは少し古い話になるのですが、1950年代に貨物船の輸送がコンテナに変わったという「コンテナ革命」ということがありました。

コンテナが登場するまでは個々の積み荷を貨物船に乗せるという作業を港湾労働者が行っていました。しかし、コンテナの登場でその仕事がなくなったわけです。

すると1960年代には港湾労働者のデモが頻発していたんですが、現状そういったデモが行われているかというとみかけないですよね。

それはそういった港湾労働者の人たちが社会から引退したからで、つまり世代交代したからなんです。

人間社会では常に技術の進化で仕事がなくなったり生まれたりするわけなんですが、過去にはこうしたサイクルが世代交代とともに時間をかけて綺麗に入れ替わるということが行われていたんです。

ところが、AIやロボットの問題は技術の進化がものすごく早いので、昨日仕事があった人が今日になり仕事がなくなるということが起きつつあります。

これはこれまで技術の進化の過程で吸収できていた世代間交代が、技術の進化のスピードが上がり吸収しきれなくなったということなんだと思います。


—従来は技術の進化に伴って世代交代も行われていったが、現代は違うと。

佐々木:そうですね。でも、これは過去にも行われてきたことなんです。出版業界がわかりやすい例だと思うのですが、ECが普及して雑誌の売り上げが悪くなったことで雑誌がなくなり、これまで紙を扱っていた編集者やデザイナーがWebサイトの制作に携わるようになり、気が付くとWebディレクターやWebデザイナーをやっているということが起きましたよね。

それでも急激な変化ではなかったと思います。それこそ5〜10年かけてゆるやかに変化していったと思うんです。

そのゆるやかなタイムラグのなかであたらしい技術を身につけたり、時代に適合したりしたと思うのですが、生成AIの時代ではその進化のスピードにともなうタイムラグが短いということですね。


—タイムラグが短いゆえに従来ではできていたリスキリングも難しくなるということですよね。

佐々木:そうですね。ここで冒頭のミクロの話になっていくのですが、さすがに現代の現役世代でインターネットやパソコンを使っていない人はいないですよね。

つまり、デジタルにまったく親和性がない人たちがデジタルに移行せよという話ではないんです。

1990年代初頭のOA化や2000年代前後のIT化は中身の本質は変わらず、外見が変わるというものでした。ここまではみんなついてきたと思うんです。

これまで紙でやってきたことをPDF化するだとか、媒体の形が変わるだけでしたから、当然、現在の現役世代の人たちはみんな理解できていると思います。

ところが、2010年代後半に入って登場したDXはこれまでのOA化やIT化とは別物なんです。中身もデジタル化せよというのがDXなわけです。

たとえばタクシーを例にすると、これまでは個人のノウハウや経験則に基づいて配車していたものが、アプリやシステムに基づいた配車を行うなど、個人のノウハウよりもAIの分析データの方に重きを置いてAIの指示で配車を行うというのがDXの本質なわけです。

そうすると、従来のITとは発想がそもそも異なるんですよね。「考え方の基本がAIやデータを中心としたデジタルである」と。

ここを理解できていない人が現実的に多い気がします。DXというのはIT化のように社長のトップダウンでできるようなものではありません。

いくら社長がDX化を部下に指示したところで、部下にしてみると会社の経営陣の決定プロセス自体が従来通りだとDX化できないんです。

社長の考え方を変えないとDXは進まないんですよ。つまりはここについていけるかいけないかで現代における「学び」に違いが出てくるのではないかと思います。

ここについていけないイコールDX時代に仕事がなくなるということを理解しないといけないと思います。


あたらしい知識のキャッチアップが重要


—経営陣こそ考えを転換させる時代がきていると。

佐々木:人間社会では社会の基盤となるテクノロジーが進化する時代というのが時々あります。古くは農業の発明や産業革命がそうですね。

2000年代の始めには情報通信革命もそうだといわれてきました。しかし、情報通信革命は蒸気機関が登場した産業革命ほどの影響は与えていないと思いますし、実は本質的には変わっていなかったと思います。

むしろ情報通信革命というものがあるならば、それは現在のDXこそが本命だったと僕は考えています。IT化というのは情報通信革命と呼ぶほどの革命ではなかったと思いますね。

DXの本質は常にそこにAIがあり、AIとともに協働していくものという風に僕は捉えていて、現在起きていることが情報通信革命の本命だとするならば、それは蒸気機関が発明された最初の産業革命に匹敵するぐらいの変化の時代だと思います。

そうすると、こういう時期というのは古い知識・ノウハウが役に立たなくなるものなんです。実際に僕も新聞記者時代があったわけですが、そこで培ったノウハウが現代で役立っているかいうと1ミリも役立っていないんですよ。

古い時代の知識が役に立たない時代になってきているのは間違いないんですよね。それに対応するためには年代問わずに古い知識に頼らずにあたらしい知識をキャッチアップして対応していくしかないんです。


—今後はさらにそれが促進していく時代になりますよね。

佐々木:今後の「成長」と「学び」は若い世代にとって重要なものになっていくと思うんです。2030年代や2040年代にはAIやロボットが当たり前になる時代が来ると思います。

生成AIの可能性について本誌Vol.6でもお話しましたが、あらゆることをAIにやらせる時代が来た時、人間の役割というのは個々の課題に対して優先順位を付ける、もしくは解決順位や目標設定を決定するということになっていくと思います。

そうなると、より高度な判断力や決断力が人間にとって必要になってくるので、そういう決断ができる人間を育てる「学び」が必要になってくると思いますし、それが「成長」につながるものになるかと思います。

実は人間は21世紀に入って複雑化する社会に適応して複雑な仕事もできるようになってきているんですよ。

だから、AIが単純作業をこなす時代が来て、人間が複雑な仕事をこなさなければならない時代になっても人間は適合するようになると思いますよ。




Book Review

『この国を蝕む「神話」解体 市民目線・テクノロジー否定・テロリストの物語化・反権力』

「権力は常に悪」「庶民感覚は常に正しい」「弱者は守られるべき存在」「人工的なものは危険」「自然由来が最良」…日本の社会に居座り続けている古くさい価値観。先端テクノロジーの進化と逆行している“神話”を解体し、未来を思考する道標としての最新論考。

佐々木俊尚 (著) 徳間書店 (2023/9/28)



Profile

佐々木 俊尚(Toshinao Sasaki)
1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。毎日新聞記者、月刊アスキー編集部を経て、フリージャーナリストとして活躍。『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『そして、暮らしは共同体になる。』(アノニマ・スタジオ)など著書多数。



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