━━今後、NFTを活用したマーケティングをどのように拡張していきたいとお考えですか?
原口 :本プロジェクトと既存のFANCLUBを並走させて、ヘビー&ライトユーザーそれぞれをうまく取り込みつつ、海外のファンとのコミュニケーションにも活用していきたいです。NFTをチケットとしたイベントの運用、特別コンテンツの閲覧、商品制作などはもちろんですが、将来的にNFTへの理解が深まってきた時には、弊社のNFTホルダー間の交流が活発化し、最終的には、お客様間でNFT譲渡ができるようになったり、プロジェクト始動以前に考えていたデジタルなアート資産としての価値も持つようになったらいいなと思います。集めたグラフィックをファン同士でやりとりできたら面白いですよね。
関 :具体的にいうと、「30個集めると特典と交換できる」という条件があるなかで、20個しか持っていない人が「残りを譲ってほしい」と思う場面があります。
NFTであれば、10個だけ譲渡したり、場合によっては売買が成立したりする仕組みを設けることが可能です。
こうした二次流通を実現できれば、ブランドにとってはロイヤリティの高いユーザー同士の熱量を活かしつつ、副次的な収入も得られます。結果として、集める楽しさがさらに強まり、ポジティブな循環が生まれるでしょう。
原口 :ほかのアパレルブランドとのコラボレーションも可能性として考えています。コラボ期間中にNFTを提示すれば限定アイテムがもらえる、といった仕組みができれば面白いと思います。
関 :まさに相互運用性の強みですね。NFTを持って店舗に行けば、別ブランドでも特典を受けられる仕組みがあれば、デジタルアイデンティティとしての価値がさらに広がります。
手塚 :NFTを活用する大きな価値は、まさにこの「コラボレーション」と「相互運用性」にあります。技術的なハードルがさがれば、ぜひそこを目指していきたいですね。
原口 :実際に「ほしいNFTを揃えられなかった」というお客様も出てきており、交換や共有のニーズは芽生え始めています。そうした動きは、未来の方向性を示しているようにも感じます。
──さらに伸ばしていきたい領域やあらたに挑戦したい取り組みはありますか?
手塚 :今後の機能拡張としては、まずユーザーがより「ワクワクする体験」を得られる仕組み=ミッションを増やしたいと考えています。
現在は「メールアドレス登録」「X(旧Twitter)でのアクション」「アンケート」「キーワード入力」「特定のNFTを保有している」といったミッションが中心ですが、たとえば「NFTを誰かにプレゼントできる」といったようなミッションの機能が加わると、ファン同士の交流がさらに広がると思います。
また、店舗体験と連動したGPS認証なども検討余地があります。運用面の課題はありますが、「実際に店舗に訪問した人しか得られないNFT」があれば、より強い来店動機を生み出せるでしょう。
一方で、ビジネス成果を見据えた改善も欠かせません。特にアナリティクス面を強化し、ユーザーのエンゲージメントをより深く可視化できる仕組みを整えたいと考えています。
さらに長期的な構想としては、MintMonster自体が「ミッションをクリアすると独自トークンが付与される」仕組みに発展できれば理想です。
そのトークンをさまざまな形で活用できれば、ファンにとっての体験価値がさらに高まります。ただし、トークン発行には規制面のハードルがあるため、今後の制度整備を踏まえながら段階的に検討していく必要があります。
──NFTやWeb3.0の取り組みを検討している他社に向けて、実際の導入経験を踏まえたアドバイスをお願いします。 原口 :私の立場からお話するとすれば、まずは「信頼できるパートナーをみつけること」が一番大切だと思います。
NFTは未知の領域で、分からないことやリスクも多いですが、メリットだけでなくデメリットも正直に伝えたうえで、一緒に課題を考え、解決策を提案してくれるパートナーがいるのは非常に心強いです。
アパレル業界からするとWeb3.0はまったく馴染みのない分野であり、どこから調べてよいのか分からないのが正直なところです。
そのパートナー企業様とはもちろんのこと社内でも理解し合えるまで何度でも話し合うことが必要だと思います。あとは、「難しく考えすぎず楽しむ気持ちを忘れずに!」という考え方も大切かもしれません。
関 :ヒステリックグラマー様の事例は「NFTをマーケティングの軸に据えるとここまで成果が出る」という貴重なケースだと思います。
多くのブランドは単発施策で終わってしまうのですが、継続的に取り組むことでユーザーの熱量が高まり、SNS上での自然なアクションも増えていく。実際にそうした変化が数字として可視化されているのが特徴的です。
また、導入企業にとっては「伴走者」の存在が欠かせません。現状では私たちのようなWeb3.0事業者がサポートするケースが多いですが、今後は広告代理店がNFTをマーケティングツールの1つとして扱うようになれば、より一般化していくでしょう。
かつてECやWEB広告が導入当初はハードルが高かったものの、今では当たり前の手法となっています。NFTも同じようにブレイクスルーの瞬間が訪れるはずです。ヒステリックグラマー様の事例が、その突破口となるのではないかと考えています。
━━最後に、今回の対談を通じて読者に届けたいメッセージがあればお願いします。
原口 :読者の皆様は知識や関心が高い方が多いと思いますが、私自身はNFTに対して「難しそう」というイメージが先行していました。
実際に取り組んでみると、マーケティングツールとして非常に面白く、可能性を感じられるものでした。ですから「難しいからやらない」のではなく、「気軽に試してみる」ことが大事だと思います。ぜひ身近な体験としてNFTに触れてみてほしいです。
関 :NFTは気軽に試すところから始められます。そのために、MintMonsterのようにWeb3.0を意識させないUI/UXを備えたツールが存在しています。
まずはトライアルでも触れていただければ「こんなに簡単に発行できるのか」と驚かれると思います。NFTはデータを蓄積し、マーケティングに有効活用できる仕組みでもありますので、ぜひ多くの事業者にチャレンジしていただきたいです。
手塚 :世の中でもWeb3.0や暗号資産に対する空気が少しずつ変わり、「使ってもいいかもしれない」という雰囲気が出てきています。
しかし、NFTは「配って終わり」の事例が多く、実際に成功事例として語られるものはまだ少ないのが現状です。今回の記事を通じて、NFTやWeb3.0を活用することでビジネストの成果を出しつつ、ファンにロイヤリティを感じてもらえる世界が実現できることを伝えたいと思います。
NFTを単発で活用するのではなく、長期的かつ計画的に施策を実行することで必ず成果は出せますし、近い将来に気付けば多くの人が当たり前のようにNFTに触れる日が来るはずです。この記事がその最初の一歩になることを願っています。
Profile 左:Aki Haraguchi、中:Sumihito Seki、右:Yasuo Tezuka 関 清仁| Sumihito Seki 株式会社 z game studio 代表取締役 2012年株式会社サイバーエージェント入社、ソーシャルゲーム運用で、複数タイトルを運用し実績を残す。2020年に堀江貴文らとともに株式会社ZATSUDANを立ち上げ、代表取締役に就任(現任)し、音声・動画メディアサービス「ZATSUDAN」を提供。2022年に株式会社z game studioを立ち上げ、代表取締役に就任(現任)し、Web3/NFTを活用したサービスを複数展開。
原口 亜樹|Aki Haraguchi 株式会社オゾンコミュニティHYSTERIC GLAMOUR事業部 プレス 2000年に株式会社オゾンコミュニティ入社。ファッションブランドHYSTERIC GLAMOURのプレスチームに配属。以来25年にわたり同ブランドのメディアプランニングおよび広告宜伝に関するクリエイティブやコンテンツの制作を担当。
手塚 康夫|Yasuo Tezuka 株式会社クリプトリエ 代表取締役 2006年に株式会社ジェナを設立し、2021年の株式会社マネーフォワードによるM&A後に同社を退任。現在は2023年に設立した法人向けにWeb3ビジネスを展開する株式会社クリプトリエの代表取締役を務め、NFTのビジネス活用を簡単かつ迅速に実現するプロダクト「MintMonster」を提供し、企業におけるWeb3/NFT活用の普及を目指す。
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