ヒステリックグラマー、ファンの熱量をデジタルで可視化し絆を深める挑戦

2025/09/30 10:00 (2025/11/10 09:30 更新)
Iolite 編集部
文:Noriaki Yagi
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ヒステリックグラマー、ファンの熱量をデジタルで可視化し絆を深める挑戦

ファンクラブを進化させるNFT活用術

ブランド設立当初からアートやカルチャーを礎としたファッションを発信してきたヒステリックグラマー(HYSTERIC GLAMOUR)は、近年NFTというあたらしい手段に可能性をみいだした。

背景には、既存ファンクラブの活性化や若年層との接点拡大といった課題があった。

未知の領域であるWeb3.0の世界に挑戦するため、z game studio (以下、ZGS)と出会い、さらにNFTマーケティングに強みを持つクリプトリエの「MintMonster」を導入。

3社が協働することで、単なるデジタルアートの発行にとどまらず、ファンとブランドをつなぐあたらしい体験を生み出そうとしている。

本対談では、その出会いから現在に至る取り組み、そして今後の展望までを語ってもらった。


──ブロックチェーンやNFTと接点を持ったきっかけを教えてください。

 関 清仁(以下、関):もともと私たちはゲームを制作しており、その流れのなかでNFTを活用したゲーム開発に取り組んでいました。

クリエイティブとNFTには非常に高い親和性があると感じていたところ、ご縁がありヒステリックグラマー様のクリエイティブと掛け合わせることでシナジーが生まれるのではないかと考えました。

そこで、まずは小さな取り組みから始められないかと担当者の方々と話し合ったのがきっかけです。

「クリエイティブ × NFT」というものは簡単に形にできるものではありません。

しかしデジタルの領域であれば、ある程度の予算で実現でき、かつファンにとって喜ばれるものを作れるのではないか。そうした思いから今回の取り組みがスタートしました。

手塚 康夫(以下、手塚):2021年頃にデジタルアート領域でNFTが話題になり始めた頃からNFTのビジネス活用に興味を持ち、2021年の当時からNFTビジネスに取り組んでいました。

デジタルデータに現実世界における経済的な価値を与えるという発想はこれまでになく、デジタルデータの販売や、特典の付与、権利の許諾や行動の証明など、NFTをさまざまなユースケースで活用できることが非常に革新的だと感じました。

そのため、NFTやブロックチェーンは今後大きく社会を変える技術なのではないかと思ったのです。

その後クリプトリエの創業後に、さまざまな企業に対して「NFTやブロックチェーンを活用してみませんか」という提案を進めていました。

しかし当時は「NFTはハードルが高い」という声が多くありました。たとえば、ウォレットを持たなければならない、暗号資産の保有が必要、ユーザーにとって操作が複雑である、導入コストも高いなどといった課題が山積みだったのです。

NFTは素晴らしい技術であり、もっと多くのお客様に活用していただきたいと考えました。

そこで、NFTを簡単かつ安価に始められるSaaS型の仕組みを作ろうと思い立ち、2024年2月に「MintMonster」というサービスをローンチしました。

原口 亜樹(以下、原口):NFTについては、正直にいうとお話をいただいてから意識するようになりました。 

それ以前は、自分自身では触れたことのない未知の領域で、なんとなくゲームの延長上にあるようなもの、というくらいの感覚で捉えていました。

ZGS様と出会った当時、ブランドのファンコミュニティに何かあたらしい取り組みを投下したいとちょうど考えていた時だったので「これはありかもしれない」と思ったのがNFTとの初めての接点です。

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━━ヒステリックグラマーがNFT導入を検討したきっかけや背景をお聞かせください。

原口:弊社には"ガールズ アイコンと呼ばれるブランドを象徴するキャラクターのほか、アニマルキャラクターやロゴなどオリジナル素材がたくさんあります。

自社で所有するこれらの素材の活用方法を模索している時に、共通の知人を介して出会ったZGS様にNFTとWeb3.0という世界について教わりました。

ブランド設立当初より、写真集の出版やアートギャラリーの運営など芸術分野でも積極的な活動を続けてきた弊社としましては、当初はデジタルアート(財産)としてのNFTに強い関心を持ちました。

しかし、お話を進めていくなかでそれよりもマーケティングツール、コミュニケーションツールとしての側面に興味や可能性を感じ始めました。

というのも、弊社にはすでに「HYSTERIC GLAMOUR FANCLUB」というファンダムが存在していて、このファンダムの強化や活性化も課題としてあったからです。

加えて、もっと若い世代やブランドとの接点が薄い層に向けて、あたらしい形を模索していた時だったので、その1つの可能性としてNFTがあるのではないかと考えました。デジタルという形なら、より取り組みやすいとも思ったのです。

──ブランドマーケティングのあたらしい形をNFTを通して実現できないかという発想からだったのですね。NFTである必然性については、どのように考えられていたのでしょうか?

原口: NFTを使用したマーケティングの最たる利点は、場所や時間にとらわれずお客様とブランドの接点を作ることができる、というところだと思っています。 

それまでの販促活動を振り返ると、どうしても東京や大阪などの大都市や国内に限られていました。地方にも海外にもたくさんのお客様がいらっしゃるのに、です。

こうした時間的、距離的な問題を超えて、さまざまなプロモーション企画を容易に実施できるのはNFTならではの魅力だと思います。 

手塚:NFTを使うことで、さまざまなことが可能になります。たとえば、お店に来てくださったお客様に来店や購入などのオフラインの行動の証明をするためのNFTを発行したり、SNSの公式アカウントのフォローやSNSの投稿をシェアしてくれたユーザーにオンラインの行動を証明するNFTを発行する、さらには特定以上の数量のNFTを保有するユーザーに特典を提供したりするなど、多様なマーケティング施策が1つの仕組みで比較的低コストに実現できるのです。さらに、その仕組みにさまざまな追加機能を組み込むことも容易で、拡張性が高い点も大きな魅力です。

もちろん「NFTでなければできない」というわけではありません。しかし選択肢の1つとしてみたとき、NFTは最適解に近い存在であると思います。

ユーザーの評価を可視化し活用

──ファンマーケティングの観点でみると今まではどのような課題があったのでしょうか?また、実際にマーケティング施策を進めるなかで、NFTを活用したマーケテイング施策ではどのような成果がでたのでしょうか?

原口:先述した既存のファンダムは、購入実績に応じてランクが振り分けられるため、ブランドへのロイヤリティが高いヘビーユーザ一層への特典還元が手厚くできる反面、新規や若年層ファンにはハードルが高く、いまいち価値が薄いものだったように思います。

そこで、NFT施策の開始にあたり、がんばってNFTをコレクトさえすれば、新規でもFANCLUBの上位会員に近しい特典を受けられる機会を創ろうと考えました。

購入だけではなくNFTの獲得機会を多様に設計することで、課題となっていたライトユーザーの興味関心を惹き続け、ブランドに取り込んでいくということが可能になったことは成果といえると思います。

また、別の課題として、マーケティング施策が国内や東京中心で行われることが多く、海外や地方のお客様まで行き渡らないことが多かったのですが、NFTはデジタル施策のため、こういった距離や時間の壁も超えて、多くのファンの方たちとコミュニケーションできるようになったことも成果だと思っておりますし、これからさらに強化していきたい点でもあります。

Aki Haraguchi image

:従来のオフライン中心のファンの熱量は非常に高い一方で、SNSアクションには課題がありました。

そのなかでNFTキャンペーンを行う際に、X(旧Twitter)でリポストを条件にしたり、InstagramやLINEなど各種自社チャネルで発信したキーワードをNFT獲得のミッションとする仕組みを導入したことで、成果の可視化が進みました。

従来のマーケティングでは1ユーザーの「購入や来店」、「いいね」や「リポスト」といったオンラインからオフラインまでのアクションを横断的に評価することは技術的に難しかったのですが、NFTを使うことで継続的にトラッキングし、お客様の評価を可視化できるようになったのです。これは非常に大きな成果であり、象徴的なポイントだと思います。

──導入時にパートナーとしてZGS社を選ばれた理由、またクリプトリエ社の「MintMonster」を採用した決め手は何だったのでしょうか?

原口:信頼性だと思います。ZGS様には、正直、右も左もわからない新世界に足を踏み入れるということで不安しかないなか、業界用語の意味を丁寧に紐解きながら説明していただきました。

Web3.0の世界に関しての実情や可能性、他社様の事例やアパレル業界に置き換えた場合の企画案なども根気強くレクチャーしていただきました。

メリット、デメリットもあわせて一緒に考えて、弊社が最も大切とするお客様との信頼関係を壊さないように日々心を砕いてくださることにはいつも感謝しております。

:私たちの立場からみて、ヒステリックグラマー様にMintMonsterを導入いただいた理由は大きく3つあると考えています。

1つ目が「SaaS」としての包括性です。MintMonsterはNFT特有の仕組みをフルに活かせるワンパッケージ型のサービスです。SNSアクションを成果指標に組み込めることに加え、トークンゲートなどデジタルコンテンツの拡張性までサポートしています。

前年に利用していた別のプラットフォームでは、発行数や成果計測に限界があったのですが、MintMonsterはそれらを解決しました。

2つ目が優れたUI/UX。アプリのダウンロードや複雑な登録は不要で、ログインするだけでウォレットが開設できます。

開設後は、記載のミッションを達成するだけでNFTをすぐ取得できるUXが非常に優れていると感じました。事業者向け管理画面も直感的で、広告やマーケティング経験のある方であればすぐに操作でき、発行から効果測定までスムーズに行えます。

最後が開発スピードと柔軟性です。ユーザーやブランド視点、そして我々運用側からのフィードバックを迅速に反映していただける点も大きな決め手でした。

ブランドや我々運用側が「ダイレクトにNFTを発行できる管理画面機能」をリクエストした際も、スケジュールを調整して先行実装いただきました。こうした柔軟でスピーディーな対応は、パートナーとして非常に心強いものでした。

──「MintMonster」を使ったキャンペーン企画や運用の流れを具体的に教えてください。

原口:年間の計画をあらかじめ立てていて、月ごとにテーマを設定しています。その上で、各月に合わせた特別な企画を実施したり、定期的に行う施策を組み合わせたりする形です。

年間を通じたブランニングを行うことで、NFTをコレクトしたその先にどういった特典が待っているのかという全体像を見せることができ、お客様が継続的にブランドへの関心や期待値を持ち続けられるように年間ベースで施策を実施しています。

今後の目標としては、お客様が日常的にヒステリックグラマーと接点を持ち、ブランドが発信する情報を仲間とシェアしてくださる状態に育ってほしいと考えています。

当社のお客様はデジタルがやや苦手な世代も多いのですが、NFTを活用することでSNSの発信が「楽しいものだ」と感じてもらえるようになり、一緒にブランドを広めていただけるようになるのが目標です。

:「年間で何個NFTを配布するか」「どこまで到達するとどのようなインセンティブが得られるか」といった指標を明確にしておけば、お客様は主体的に行動できます。

その上で、個別の成果指標となるNFT獲得ミッションの成果地点は、ブランドマーケティングの月々のスケジュールに合わせて柔軟に調整していただければ良いという考えです。

また、オンラインとオフラインをバランスよく取り入れることも重要です。来店者向けにNFTを発行する一方で、いつ参加してもNFTを獲得できるように、常設ミッションとして自社チャネルのフォローや会員登録でもNFTを発行するミッションも設計しました。

これまでどおりロイヤリティの高いお客様を評価しつつ、新規のお客様にも開かれた設計になっています。

これにより、従来のコアファンから新規ファンまで、SNSアクションや自社メディアの閲覧強化につながり、SNSのフォロワー数が全体で5%以上増加したものもあれば、リポスト等のアクションが定着した結果、NFTミッションに設定されていないものでも、アクションの自然増につながるなど、広告換算価値としても非常に効果的でした。

こうした成果が、NFT施策の有効性を裏付けています。

デジタルとリアルがつながる稀有な事例

──ZGS社とクリプトリエ社からみて、ヒステリックグラマーとの協業において特徴的な取り組みや印象に残った点はありますか?

手塚:私たちはさまざまなお客様にNFTの配布や発行プロジェクトをご支援していますが、ヒステリックグラマー様の取り組みは特にユーザーの熱量が高いと感じています。皆さんが楽しんでNFTを集めてくださっている様子が伝わってくるブランドです。

その背景には、年間を通した綿密な企画設計があるのではと思っています。オフラインとオンラインの両軸で、ユーザー全体に向けたオンライン中心の企画はもちろん、オフラインで店舗に来店されるお客様に向けてもワクワク感のある企画が設計されており、ゲーミフィケーション的な要素も盛り込まれています。

その結果、単発でNFTを配布して終わるのではなく、マーケティングのゴールに向かって継続的に成果を出せる設計になっています。

私たちはNFT発行のプラットフォームを提供する立場ですが、ZGS様とともに設計された年間の企画のなかで、弊社MintMonsterの「ミッション達成でNFTを獲得できる」というゲーム性がフルに活用されており、大きな相乗効果を感じています。

:手塚さんのお話にもありましたが、NFTをマーケティングの中心に据えている点は非常に特徴的です。何を行うにしても「NFTをもらえる」という仕組みを軸に据えている事例はまだ少なく、私自身も初めて拝見しました。

お客様はその仕組みを徐々に理解し、熱量に巻き込まれていきます。しかもそれが短期的なキャンペーンで終わるのではなく、長期かつ立体的に設計されている点が素晴らしいです。

特にオンライン施策だけで完結させず、店舗の営業スタッフを含めて全社で取り組んでいる点は、ほかではなかなかみられない事例だと思います。

多くのプロジェクトはオンライン上で閉じてしまいますが、ヒステリックグラマー様のケースはオフラインまで巻き込みながらファンを動かしている点で、非常にユニークかつ先進的な取り組みだと感じています。

 

──導入時に社内外で苦労した点や、逆にスムーズに進んだ点があれば教えてください。

原口:1番大きな課題は私自身も含めて「NFTとは何か」を理解することだったと思います。

NFTという未知の素材を用いて今までにない価値観を創造することはもちろんのこと、どうやって実収益に繋げる仕組みにしていけるか、という企画面でずいぶん悩んだように思います。

初年度は、社員もお客様もNFTというものを勉強する一年とし、互いに勉強しながら企画をやってきたように思います(笑)。

2年目になる今年は、そこにゲーム要素が加わったり、施策が多様化したりと少しづつ変化を遂げています。 

:スムーズに進んだ点としては、ヒステリックグラマー様が非常に豊富なデザイン資産を持っていたことがあげられます。

MintMonsterでは契約プランに応じた数量のNFTを配布する仕組みがありますが、毎回違うクリエイティブを用意するのは大変なハードルです。

通常のアパレルブランドであれば、デザイン制作の負担やコストが大きな壁になります。

しかしヒステリックグラマー様はすでに膨大なグラフィックストックをお持ちで、毎回異なるデザインを提供できました。

その結果、お客様にとって「今回は何がもらえるのだろう」というワクワク感が生まれ、デジタルスタンプラリー的なゲーム性とアートコレクション性が融合しました。

ブランドの歴史や世界観が自然に表現され、ファンにも受け入れられやすい形になったのだと思います。

集める楽しさが、リアルの購買を動かす ブランドはファンによって共創される

━━導入から現在までの具体的な成果(ユーザー数、NFT発行数、ROI改善など)をどのように評価されていますか?

:MintMonsterの実導入は2025年2月からですが、約半年で10,000ウォレットが開設されました。NFTの発行数は2024年度から累計で30,000件に達しており、単発イベントによる大量配布を除けば、日本国内でも数少ない大規模な事例だと考えています。

前年比でみてもウォレット開設数は約5倍となり、MintMonsterのUI/UXのわかりやすさや、アプリ不要でスムーズに利用できる仕組みが大きく寄与したと感じています。

また、実店舗での取り組みも成果に直結しています。たとえば「インストアショッピングミッション」では、店舗購入時にNFTが付与されますが、その際にスタッフがウォレット開設を丁寧にサポートしました。

さらに、先述の通り「メールアドレス登録」や「SNSフォロ一」などの追加ミッションを提示することで、NFTの発行だけでなくユーザー行動の拡張にもつながった結果、SNSのフォロー数やりアクション数にも本プロジェクトの直接影響だけでも5%程度の増加がみられており、自然流入やりアクション増にも貢献しています。

手塚:ヒステリックグラマー様は導入企業のなかでも際立った成果をあげられていると思います。特に印象的なのは、施策を続けるほどユーザー数が増加し続けている点です。多くのキャンペーンは初動で盛り上がった後に失速する傾向がありますが、こちらの事例ではアクティブユーザーがじわじわと拡大している。これはユーザーが本当に楽しんで参加している証拠であり、企画設計や店舗スタッフのサポートが大きく貢献していると思います。

Yasuo Tezuka

━━ファンの方々からの反響を教えていただけますか?

原口:最初は「NFTって何?」という戸惑いが多かったのですが、現在は楽しんでいただいているように感じます。

もともと弊社のファンダムメンバー様は何かをコレクションすることがお好きな気質の方が多く、以前にもリアルなスタンプを集めると特典がもらえる仕組みがあったのですがそれがNFTというあたらしい形に変わったことで、再び「集める楽しさ」がよみがえったのだと思います。

NFTでは、従来にはなかった特典、たとえば非売品との交換やリアルイベントの参加券なども加わりました。

そのため「グッズをゲットしたい」「必ずイベントに行きたい」と考えるお客様が増え、ファン層の熱量が改めて可視化されたと感じています。

「デジタルのスタンプラリーですよ」と説明すると、楽しんで参加していただけるようになりました。ライトユーザーのお客様も店舗来店ミッションや記事読アミッションを通じて、積極的かつ持続的にブランドとのコミュニケーションを図ってくださっています。

:今のお話に加えると、店舗スタッフの存在が非常に大きな役割をはたしていると思います。

ヒステリックグラマー様の場合は「わからなければ店舗でスタッフに聞けばいい」と思ってもらえる安心感があります。

実際、「ミッションの期限が迫っているのに取得できない」といった問い合わせが店舗に寄せられるケースもあり、「こういう改善が必要ではないか」といって社内でフイードバックされます。

これがクリプトリエ様のMintMonsterの改善につながり、オンラインだけでは得られないリアルな声を反映できているのです。

このように、ファンからの反響はオンラインとオフラインをつなぐ大きな架け橋となっており、非常にユニークで強みのある事例だと感じています。

━━「MintMonster」の強みや他社との差別化ポイントはどこにあると感じますか?

:やはりUI/UXの優位性は誰がみても明らかだと思います。NFTの発行や利用において、事業者が「どこまで手をかけなければならないか」は大きな課題ですが、MintMonsterはWeb3.0を強く意識しなくても取り組める仕組みを提供しています。

管理ツールも直感的で、専門知識がなくても運用できる点は他にない強みです。

加えて、改善スピードの速さも特筆すべき点です。私たちの声に対して迅速に対応し、開発に反映してくださる姿勢は、他のサービスにはなかなか見られません。

そのため、単なるツール提供にとどまらず、共にサービスを育てていけるパートナーとしての価値があると思います。

手塚:NFTは優れた技術ですが、多くの人に使ってもらうには「Web3.0を意識させない設計」が重要です。MintMonsterはその点を意識しており、専門知識がなくても誰でも簡単に使える仕組みになっています。

また、NFTをもらう体験自体が「ワクワクする」ものでなければなりません。MintMonsterでは、コーザーが何らかの行動をすると、その行動の報酬としてNFTを付与する「ミッション機能」でNFTの施策にゲーム性を持たせ、デジタルスタンプラリーのような「集めて楽しい」という体験を設計しつつ、優れたUI/UXを提供しブランドのクリエイティブやファン施策と掛け合わせることで、よりリッチな体験を提供しています。

さらに、ビジネスとして成果をあげられることも大切です。そのためMintMonsterはSaaS型で提供しており、導入ハードルをさげつつ、必要に応じて柔軟なカスタマイズを行える設計になっています。

共通部分はSaaSで効率的に提供しつつ、企業ごとの要望に応じた拡張開発にも対応できる。この柔軟性が、他社との差別化ポイントだと考えています。

二次流通が生む、ポジティブな循環 “集める”から“つながる”へと発展する

━━今後、NFTを活用したマーケティングをどのように拡張していきたいとお考えですか?

原口:本プロジェクトと既存のFANCLUBを並走させて、ヘビー&ライトユーザーそれぞれをうまく取り込みつつ、海外のファンとのコミュニケーションにも活用していきたいです。NFTをチケットとしたイベントの運用、特別コンテンツの閲覧、商品制作などはもちろんですが、将来的にNFTへの理解が深まってきた時には、弊社のNFTホルダー間の交流が活発化し、最終的には、お客様間でNFT譲渡ができるようになったり、プロジェクト始動以前に考えていたデジタルなアート資産としての価値も持つようになったらいいなと思います。集めたグラフィックをファン同士でやりとりできたら面白いですよね。

:具体的にいうと、「30個集めると特典と交換できる」という条件があるなかで、20個しか持っていない人が「残りを譲ってほしい」と思う場面があります。

NFTであれば、10個だけ譲渡したり、場合によっては売買が成立したりする仕組みを設けることが可能です。

こうした二次流通を実現できれば、ブランドにとってはロイヤリティの高いユーザー同士の熱量を活かしつつ、副次的な収入も得られます。結果として、集める楽しさがさらに強まり、ポジティブな循環が生まれるでしょう。

Sumihito Seki

原口:ほかのアパレルブランドとのコラボレーションも可能性として考えています。コラボ期間中にNFTを提示すれば限定アイテムがもらえる、といった仕組みができれば面白いと思います。

:まさに相互運用性の強みですね。NFTを持って店舗に行けば、別ブランドでも特典を受けられる仕組みがあれば、デジタルアイデンティティとしての価値がさらに広がります。

手塚:NFTを活用する大きな価値は、まさにこの「コラボレーション」と「相互運用性」にあります。技術的なハードルがさがれば、ぜひそこを目指していきたいですね。

原口:実際に「ほしいNFTを揃えられなかった」というお客様も出てきており、交換や共有のニーズは芽生え始めています。そうした動きは、未来の方向性を示しているようにも感じます。

──さらに伸ばしていきたい領域やあらたに挑戦したい取り組みはありますか?

手塚:今後の機能拡張としては、まずユーザーがより「ワクワクする体験」を得られる仕組み=ミッションを増やしたいと考えています。

現在は「メールアドレス登録」「X(旧Twitter)でのアクション」「アンケート」「キーワード入力」「特定のNFTを保有している」といったミッションが中心ですが、たとえば「NFTを誰かにプレゼントできる」といったようなミッションの機能が加わると、ファン同士の交流がさらに広がると思います。

また、店舗体験と連動したGPS認証なども検討余地があります。運用面の課題はありますが、「実際に店舗に訪問した人しか得られないNFT」があれば、より強い来店動機を生み出せるでしょう。

一方で、ビジネス成果を見据えた改善も欠かせません。特にアナリティクス面を強化し、ユーザーのエンゲージメントをより深く可視化できる仕組みを整えたいと考えています。

さらに長期的な構想としては、MintMonster自体が「ミッションをクリアすると独自トークンが付与される」仕組みに発展できれば理想です。

そのトークンをさまざまな形で活用できれば、ファンにとっての体験価値がさらに高まります。ただし、トークン発行には規制面のハードルがあるため、今後の制度整備を踏まえながら段階的に検討していく必要があります。

 

──NFTやWeb3.0の取り組みを検討している他社に向けて、実際の導入経験を踏まえたアドバイスをお願いします。

原口:私の立場からお話するとすれば、まずは「信頼できるパートナーをみつけること」が一番大切だと思います。

NFTは未知の領域で、分からないことやリスクも多いですが、メリットだけでなくデメリットも正直に伝えたうえで、一緒に課題を考え、解決策を提案してくれるパートナーがいるのは非常に心強いです。

アパレル業界からするとWeb3.0はまったく馴染みのない分野であり、どこから調べてよいのか分からないのが正直なところです。

そのパートナー企業様とはもちろんのこと社内でも理解し合えるまで何度でも話し合うことが必要だと思います。あとは、「難しく考えすぎず楽しむ気持ちを忘れずに!」という考え方も大切かもしれません。

:ヒステリックグラマー様の事例は「NFTをマーケティングの軸に据えるとここまで成果が出る」という貴重なケースだと思います。

多くのブランドは単発施策で終わってしまうのですが、継続的に取り組むことでユーザーの熱量が高まり、SNS上での自然なアクションも増えていく。実際にそうした変化が数字として可視化されているのが特徴的です。 

また、導入企業にとっては「伴走者」の存在が欠かせません。現状では私たちのようなWeb3.0事業者がサポートするケースが多いですが、今後は広告代理店がNFTをマーケティングツールの1つとして扱うようになれば、より一般化していくでしょう。

かつてECやWEB広告が導入当初はハードルが高かったものの、今では当たり前の手法となっています。NFTも同じようにブレイクスルーの瞬間が訪れるはずです。ヒステリックグラマー様の事例が、その突破口となるのではないかと考えています。

━━最後に、今回の対談を通じて読者に届けたいメッセージがあればお願いします。

原口:読者の皆様は知識や関心が高い方が多いと思いますが、私自身はNFTに対して「難しそう」というイメージが先行していました。

実際に取り組んでみると、マーケティングツールとして非常に面白く、可能性を感じられるものでした。ですから「難しいからやらない」のではなく、「気軽に試してみる」ことが大事だと思います。ぜひ身近な体験としてNFTに触れてみてほしいです。

:NFTは気軽に試すところから始められます。そのために、MintMonsterのようにWeb3.0を意識させないUI/UXを備えたツールが存在しています。

まずはトライアルでも触れていただければ「こんなに簡単に発行できるのか」と驚かれると思います。NFTはデータを蓄積し、マーケティングに有効活用できる仕組みでもありますので、ぜひ多くの事業者にチャレンジしていただきたいです。

手塚:世の中でもWeb3.0や暗号資産に対する空気が少しずつ変わり、「使ってもいいかもしれない」という雰囲気が出てきています。

しかし、NFTは「配って終わり」の事例が多く、実際に成功事例として語られるものはまだ少ないのが現状です。今回の記事を通じて、NFTやWeb3.0を活用することでビジネストの成果を出しつつ、ファンにロイヤリティを感じてもらえる世界が実現できることを伝えたいと思います。

NFTを単発で活用するのではなく、長期的かつ計画的に施策を実行することで必ず成果は出せますし、近い将来に気付けば多くの人が当たり前のようにNFTに触れる日が来るはずです。この記事がその最初の一歩になることを願っています。


Profile

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左:Aki Haraguchi、中:Sumihito Seki、右:Yasuo Tezuka

関 清仁|Sumihito Seki
株式会社 z game studio 代表取締役 
2012年株式会社サイバーエージェント入社、ソーシャルゲーム運用で、複数タイトルを運用し実績を残す。2020年に堀江貴文らとともに株式会社ZATSUDANを立ち上げ、代表取締役に就任(現任)し、音声・動画メディアサービス「ZATSUDAN」を提供。2022年に株式会社z game studioを立ち上げ、代表取締役に就任(現任)し、Web3/NFTを活用したサービスを複数展開。


原口 亜樹|Aki Haraguchi
株式会社オゾンコミュニティHYSTERIC GLAMOUR事業部 プレス
2000年に株式会社オゾンコミュニティ入社。ファッションブランドHYSTERIC GLAMOURのプレスチームに配属。以来25年にわたり同ブランドのメディアプランニングおよび広告宜伝に関するクリエイティブやコンテンツの制作を担当。


手塚 康夫|Yasuo Tezuka
株式会社クリプトリエ 代表取締役
2006年に株式会社ジェナを設立し、2021年の株式会社マネーフォワードによるM&A後に同社を退任。現在は2023年に設立した法人向けにWeb3ビジネスを展開する株式会社クリプトリエの代表取締役を務め、NFTのビジネス活用を簡単かつ迅速に実現するプロダクト「MintMonster」を提供し、企業におけるWeb3/NFT活用の普及を目指す。


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