世界的なヒット作が生まれると即座に株価は反応し、強力なIPを持っていると持続的な成長も期待できる。
世界的にユーザーを拡大し続けるゲーム市場。今は家庭用ゲーム機だけではなく、スマートフォンやPC・タブレットでも楽しむことができ、ゲームセンターも非日常を楽しむアミューズメント施設として人気がある。こういった市場の成長に伴い注目されているのが、ゲーム関連株だ。
国内のゲーム市場の規模はプラス 2022年の店頭販売・通販における家庭用ゲー ム市場規模は、ハードが前年同期比103.4%の約2,097億円、ソフトが同104.1%の約1,650億円、合計で同103.7%の3,748億円超を記録。前年までの巣ごもり消費の反動をものともせず、強力な新作ソフトとゲーム機本体の品薄が解消されたことで、国内のゲーム市場の規模はプラスとなった。
一方、日本のスマートフォン(スマホ)向けゲームの市場は約1兆9,000億円(2022年)と10年で3倍。視野を広げると、2022年の世界のゲーム市場規模は1,844億ドル(約24兆円)と成長著しい。
家庭では任天堂の『Switch』、ソニーの『プレイステーション5』、Microsoftの『Xbox』が市場を牽引し、グローバルでスマホが普及したなか、スマホゲームの市場も拡大する一方。ゲーム市場はさらなる成長期を迎えている。
今年に入っても活況は続いている。たとえば、任天堂の『ゼルダの伝説ティアーズ オブ ザ キングダム(ティアキン)』は、5月12日の発売から3日間で全世界1,000万本、日本でも初週に100万本を売り上げる大ヒット。
4月下旬に公開された映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』も6月下旬時点では世界興行収入が約13億ドル(約1,800億円)、国内でも120億円を突破。アニメ作品では『アナと雪の女王』を超えて世界2位に躍り出た。
任天堂だけではない、スクウェア・エニックス(スクエニ)が6月22日に満を持して発売した『ファイナルファンタジーXVI』の初週売り上げも全世界で300万本、そのうち日本でも約33万本を売り上げた。
ちなみに、今年上半期のゲームソフト売上ランキングの1位は先述の『ティアキン』で、ベスト10のうち8本がSwitch向けソフト、6本が任天堂の自作品。サードパーティによるタイトルは8位の『Minecraft』(マインクラフト)のみだった。
残り2本はPS5向けの『FF16』(4位)とワーナーブラザーズゲームによる『ホグワーツ・レガシー』(10位)。ただし、ホグワーツの世界累計販売数は1,500万本を超えているので、グローバルでは大ヒットを記録したといえる。
このように、ビッグタイトルが出そろったわけだが、株価にはどう影響したのだろうか。
ビッグタイトルによる株価への影響 任天堂の場合、発売以降に年初来高値を連日で更新し、5月18日には6,000円に乗せた。いわずもがな、世界販売数が3日間で1,000万本を突破したことが大きな理由だ。その後も堅調で、6月下旬には一時6,500円を突破した。
片や、スクエニは対照的だ。同社の株価は6月に入ると発売日に向け上昇をたどり、1日の6,250円が20日は7,540円に達することに。ところが、これをピークに株価は急落し、7月上旬時点で7,400円台に落ち着いた。というのも、FF16は発売後1週間で世界300万本を売り上げたが、前作は発売初日だけで約500万本を売り上げている。2週目の国内販売数も4万本弱と振るわず、これが低調な株価にあらわれた格好だ。
ここからわかるのは、ゲーム関連株はヒット作に敏感だということ。
『バイオハザード』や『モンスターハンター』といった強力なIP(知的財産)を持ち、6月3日に発売されるや否や全世界で売上200万本を突破した『ストリートファイター6』を有するカプコンの株価は好調で、年初は4,250円だったのが7月上旬には5,600円に迫る勢い。任天堂もそうだが、人気のIPを持つゲーム会社は、大きく外さない限り業績・株価は堅調に推移しやすいかもしれない。
あるいは、スマホゲームの『モンスターストライク』をヒットさせたミクシィ、『魔法使いと黒猫のウィズ』などで知られるコロプラ、『パズドラ』 などの超ヒット作を世に送り出したガンホー・オンライン・エンターテイメントなどは、株価は10倍~100倍も上昇した。こういった瞬発力をみせるのも、ゲーム株の特徴だろう。
ゲーム業界を主導するのは 結局はハードメーカーか? 現在、家庭用ゲーム機を牽引するのは、先述の3社。世界累計販売ダウンロード数は、任天堂のSwitchシリーズが1億2,562万台、プレステ5は3,200万台、Xbox Series X/Sは1,850万台とされている。ちなみに、歴代1位はプレステ2(1億5,500万台)、2位が任天堂DSシリーズ(1億5,402万台)で、Switchがこれに続く。いうなれば、ゲームハードは日本企業の独壇場だということ。
売れるハードを作るとソフトメーカーが採用するサイクルが生まれるので、今後も3強が市場を牽引すると想像しやすい。とりわけ任天堂の場合、強力なIPを活かしつつ、斬新なUIを備えた自社ゲームの開発が圧倒的にうまい。実際のところ、任天堂は『ティアキン』のヒットを受け、6月のSwitchの国内販売数は前年同期比68%増の38万台、同月として過去最高を記録した。
一方で懸念されるのは、次世代機へのシフトだ。任天堂なら、Wiiがヒットしたのに対してWii Uは苦戦するなど、成功と挫折が交互になっている。同社は次世代機について言及を始めているが、成否によって今のポジションで居続けられるかわからない。ソフトメーカーは勝ち馬に乗れば良い。
ゲームショウ開催前後で株価は変動する? 米国の『Electronic Entertainment Expo(E3)』(2022年以降は中止)、日本の『東京ゲームショウ』、ドイツの『gamescom』は、世界三大ゲームショウに数えられ、多くのゲームメーカーが最新コンテンツを出展している。
イベント開催前後の株価への影響は、その盛り上がりに関係する。たとえば、存在感のあるゲーム機がないと、いまひとつ盛り上がりに欠けるし、ヒットタイトルの新作がお披露目されるなら、イベント前は期待による株高、発表後は失望売りが起きるかもしれない。
グローバルなゲーム市場は拡大傾向にあり、見本市が株価に影響することは否めない事実。瞬間的な変動に乗る手はあるだろう。もちろん、ゲームショウに限らず、任天堂なら「Nintendo Direct」といった企業ごとの発表会も同様だ。次世代機の発表など、株価を動かす情報を追っておきたい。
株価に影響する強いIPを持っている上場企業は? ゲーム関連銘柄で、国内外で人気のIPを保有するといえば、まずは任天堂(7974)。マリオやルイージだけでなく、クッパやピーチ姫などあらゆるキャラクターが人気の『マリオブラザーズ』、リンクを始めとする『ゼルダの伝説』などあげるとキリがない。ゼルダの新作は発売から3日で1,000万本を売り上げた。今後はIPビジネスに注力するようで、業績や株価への影響はより色濃くなるだろう。
バンダイナムコHD(7832)やカプコン(9697)も無視できない。前者であれば『ガンダム』シリーズや『アイドルマスター』シリーズがあり、ゲームだけではなくグッズや映像など、マルチでビジネスを展開している。後者も『バイオハザード』や『モンスターハンター』シリーズを持ち、海外売上高比率は約50%にものぼる。人気IPが業績に与える影響はあまりにも大きい。
やっぱり任天堂が強い3つの理由 国内ソフト売上ランキングベスト10のうち、2022年は9本、23年上半期は8本がSwitchの作品。かつ、ほとんどが任天堂の自社コンテンツ。ハード・ソフト共に圧倒的な強さを誇る。
同社は自社のIPを大切に扱い、さまざまなコンテンツに登場させることで付加価値を上げ、世界的な人気キャラに成長させてきた。『大乱闘スマッシュブラザーズ』や『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』のヒットがそれを証明している。
視覚効果やUIなど、ゲームのあたらしい遊び方も常に提案していて、飽きさせない工夫も上手だ。結果、ゲーム愛好家だけではなく、一般層も取り入れているのが強みだろう。
2023年3月期は前期比で減収減益となったが、好調は維持している。今後も、よほどのゲームチェンジがない限り、任天堂の天下は続くだろう。
今やグローバル展開が主流 海外ゲーム株に金脈が潜む かつて、家庭用ゲームといえば日本のお家芸で、流通するのも国内メーカーのタイトルがほとんど。ところが今は、海外メーカーのプレゼ ンスが圧倒的に高まっている。
たとえば、ゲームソフトの世界売上本数ランキングをみると、1位は任天堂の『Wii Sports』だが、2位は米ロックスター・ゲームス社の『グランド・セフト・オートV』、6位はスウェーデン初の『Minecraft』など、海外のゲームもランクイン。
『オーバーウォッチ』などで知られるアクティビジョン・ブリザード(米国)、『FIFA』『NBA』などスポーツ系が人気のエレクトロニック・アーツ(米国)、『コールドオブ デューティー』が人気のインフィニティ・ウォード(米国)、『アサシンクリード』を手がけるUBIソフト、『リネージュ』などでヒットを飛ばしたNCソフト(韓国)など、あげるとキリがない。
これに、スマホゲームメーカーも加えると、世界各国にグローバル展開しているメーカーがたくさんあ る。ゲーム関連株というと日本企業を思い浮かべるが、海外にも有望な会社はたくさんある。
今は日本の証券会社からも海外株にアクセスしやすく、検討に加えても良いだろう。ドメスティックな市場ではなくグローバル展開しているメーカーの方が、投資妙味を味わえるかもしれない。
実は良質なゲームを量産している要注目の中国メーカー ゲームメーカーというと日本や欧米、韓国が強いと思うが、世界トップは中国のテンセントだ。インスタントメッセンジャーやSNSアプリで成長したが、『クラッシュ・ロワイヤル』などソーシャルゲームでも中国最大を誇る。
2016年にはスウェーデンのスーパーセルを買収し、先述のアクティビジョン・ブリザードやUBIソフト、 『フォートナイト』で有名なエピックゲームなどにも出資している。
ほかにも、日本でも人気を博した『荒野行動』を開発したネットイース、『三国英雄たちの夜明け』『魔王と100人のお姫様』などが代表作の37GAMES、『原神』が大ヒットしたミホヨなどは、日本でもお馴染みのゲーム会社だ。
なお、これら中国系のゲーム会社には上場企業もあり、自国だけではなく米国市場に上場している銘柄もある。中国は人口が多いので内需はもちろん、グローバル展開にも積極的なので外需にも期待できる。有望銘柄として検討してはどうだろうか。
日本のスマホゲーム会社はどうなる?家庭用ゲームに太刀打ちできるか? 先述したように、日本でもスマホゲーム市場は伸びている。専用のゲーム機が不要で、無料で始められるコンテンツも多い。コロプラやグリーなど、世間を騒がせたメーカーもあった。ほかにも、『ウマ娘』などでヒットを飛ばすサイバーエージェントやDeNAなど、良質なゲームを作る会社は多い。
市場が大きいだけに、スマホゲーム関連銘柄もチェックしておきたい。また、『ファントムオブキル』などを手がけるgumiは、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、ブロックチェーン事業に積極的に取り組むなど、新事業の創出にも積極的だ。
ゲームに関するVRではソニーの『プレイステーションVR2』、メタの『Meta Quest2』など、さまざまなプロダクトも出そろいつつある。ヒット作が生まれることで市場は広がり、関連会社の株価にも反映されるだろう。
値上がり益だけじゃない ゲーム会社のお得な優待 ゲーム株を保有するなら、株主優待にも注目したい。ソニーなら電子クーポン、セガサミーホールディングスはゲームセンターなどで使えるチケット、コーエーテクモHDは新作・発売済み商品の4割引販売など、さまざまな特典がある。値上がり益プラスアルファを求めるなら、株主優待にも注目して銘柄を選ぶことだ。
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