
——VRを知ったきっかけとは?
せきぐちあいみ(以下、せきぐち):VRアーティストになる前はYouTuberだったのですが、とあるメディアの取材を通してVRを体験したのがきっかけでした。空間に絵を描けるなんて魔法みたいだと驚いたことを覚えています。最初は純粋な好奇心から入って、夢中になって描いていました。
——絵の勉強はされていたのでしょうか?
せきぐち:完全に独学です。幼稚園の時からお絵描きは好きで、落書きのように自由に描いていました。幼稚園の先生やお母さん、おばあちゃんから「凄いね、上手だね」とすごく褒めてもらえたことがきっかけで、純粋に絵が好きになっていきました。
ある時、幼稚園で将来の夢を聞かれて、絵描きさんになりたいといったら、「凄いね、でも絵は仕事にならないんだよ」と皆からいわれたのです。
悪気もなく良かれと思っていってくれたと思うのですが、私は「絵を仕事にしている人がいるのになんで?」と思いながら、いつしか絵を描く仕事という夢は私の将来の選択肢から外れてしまいました。
絵は趣味で描くものなのだと思い込 んでまったく別の道を歩み始めたのですが、それが今、巡り巡って絵を描ける仕事に就けたというのは嬉しいことです。
バーチャル空間で世界を創る感覚

——VRのなかで絵を描く感覚と、実際の 紙の上に絵を描く感覚は違うと思いますが?
せきぐち:逆にその違いが、すごく楽しいと思っています。私としては、2Dの絵を描くのではなく、バーチャル空間の360度広がる3D空間がキャンパスになり、世界を創る感覚です。
世界を創って誰かをあたらしい世界に連れていけることは、VRでしかできないものであり表現の幅も広い。作品を通してみてくれた人の想像力のタガを外して解放するきっかけを提供できたらと思っています。
——制作されたアート「Alternate dimension 幻想絢爛」がOpenSeaに出品されて 1,300万円で落札された時の制作秘話や、 購入していただいた時にどのような気持ちだったのかを教えてください。
せきぐち:初めてNFTとして出品した作品で、オークションで値段が付いた時は驚きましたし、嬉しかったです。それまでデジタルアート自体が売れる仕組みがありませんでした。クライアントから依頼をいただき、制作して報酬をいただくというスタイルが多かったです。
クライアントワークは、たくさんのプロフェッショナルが集まっているからこそ、自分だけでは出せないクリエイティブが生まれるといった良さはあります。
しかし、コロナ禍で仕事も減り時間も空いたので、ただただ自分の好きなものを創ろうと思って「Alternate dimension 幻想絢爛」を創りました。そのような経緯で創った作品を出品した結果、価値を付けていただいたというのは、すごく幸せでしたね。
デジタルアートだと良いものであったとしても簡単にコピーができるからということで価値が付きにくかったのですが、NFTによって本来の価値が認められるようになったことは嬉しかったですし、初めてVRアー ティストとしてのスタートラインに立てたような気がしました。
これまで多くのデジタルアーティストの方々は、ゼロから自分だけで仕事を行うという感覚でやっていた人は少なかったと思います。クライアントワークがきて、そのお仕事を円滑に回そうと思うと、気付かぬ うちに世間が求めるものを創っていくことになる。
アーティストは、世間にはなかったような視点から作品を出していくことも人を惹きつける要素であると思うので、長い目線でみて後世に語り継がれる作品を残せるかというものとはほど遠いものになってしまうと思うこともあります。
中世ヨーロッパの画家はパトロンがいて後世に残せる作品を創っておりましたが、NFTはそれに代わるあたらしい仕組みなのではないかと思っています。
▶︎Alternate dimension 幻想絢爛 せきぐちあいみさんが手がけた最初のNFTアート。古い物語を打ち破り、あたらしい次元の世界に行くというコンセプトで創られた。落札額は約1,300万円。