ステーブルコインは暗号資産のマスアダプションに寄与する。 あらゆる機能を兼ね揃えたXRPレジャーで現状の決済領域を変えていく。
——改正資金決済法の施行を踏まえ、今後日本ではどのようにステーブルコインが利活用されていくかお考えをお聞かせください。
吉川絵美(以下、吉川) :米国においてこれまでステーブルコインは、クリプトの投資・投機における利用が多かったものの、ここ2、3年で実需にもとづくユースケースや日常の決済での利用などが徐々に増えてきています。たとえば、Eコマースでの決済、国際送金、貿易金融などです。
ステーブルコインの発行者は現在高い米ドルの金利のために莫大な運用益を得ていますが、これは持続可能でないことは自明なので、その利益をステーブルコインのエコシステム拡大のために投資している形です。
具体例をあげれば、米国のサークル社が自社発行のステーブルコインであるUSDCの送金や企業トレジャリー、開発者プラットフォームなどの開発に積極的です。またWeb3.0業界やDAOではステーブルコインが当たり前のように使われてきていますね。
日本においては米国と違って運用益がそもそも期待できないので、事業者はビジネスモデルに頭を悩ませているところでしょう。しかし、運用益がないからこそ積極的にユースケースを模索しています。それが日本発のステーブルコインのユースケースが生まれるきっかけになることを期待したいです。
規制との兼ね合いにもよりますが、私としては国内に閉じたユースケースだけではなく、ブロックチェーンの利点が発揮されやすい国際取引に今後活用されていくべきだと思います。
ステーブルコインのメリットとは ——ステーブルコインが活用されることのメリットについてどのようにお考えでしょうか?
吉川 :さまざまな利点がありますが、パブリックチェーン基盤のステーブルコインの場合、現実資産とクリプトの世界への架け橋としての役割があります。
たとえば、ユーザーへのポイント還元や、マーケットプレイスでの売上金をステーブルコインで支払うオプションがあれば、事業者としては既存の支払い方法を通した支払いよりもスピーディーに、かつ低コストに実行することができるのに加えて、ユーザーからするとそれがクリプトへの入り口となり得ます。
少額を多くの人に配るという点で、クリプトやステーブルコインは非常に便利です。クリプトに触れたことのない方々が一旦ステーブルコインを保有すれば、そこからさまざまなWeb3.0プロジェクトの利用につながる可能性があります。クリプトの世界により多くの人を導いていく上で、ステーブルコインは参入障壁を引き下げてくれます。
ステーブルコイン領域へのユースケース提供に全力で注力 ——リップル社では今年に入りCBDCとステーブルコイン開発に特化した「Ripple CBDC Platform」が立ち上げられました。どのような目的からこの取り組みを始めたのでしょうか?
吉川 :リップルは今年5月に「Ripple CBDC Platform」の提供を開始しました。
現在、世界の中央銀行の9割がCBDCを検討しているといわれています。リップルが10年以上の経験によって磨いてきたブロックチェーンへの知見や業界でのリーダーシップにより、CBDCユースケースに対しても各国の中央銀行から注目を集めています。
これまで民間においてブロックチェーンを活用できるさまざまなソリューションを開発しており、さらにCBDCでは、プライベートな環境で安心安全にご利用いただけるように、パブリック及び分散型XRPレジャーのプライベート版を作成し、その上でプラットフォームを提供しています。
このCBDC発行プラットフォームは通貨トークンのミンティングやマネジメントなどのために包括的に使用することができ、ステーブルコインにも応用することができます。CBDCに関する協業については、今のところ発表している国で、ブータン王国やパラオ共和国、香港、モンテネグロなどがあります。
ステーブルコインの領域におけるXRPレジャーの強み ——ステーブルコイン領域におけるXRPレジャーの強みとはなんでしょうか?
吉川 :なぜXRPレジャーがステーブルコインに適しているのかというと、決済に最適なデザインになっていることが第一にあげられます。
3〜4秒でファイナリティを得られる高速決済が可能で、決済コストも低く、かつスケーラブルであるといった特徴があります。さらに主要なブロックチェーンのなかで初めて脱炭素化したブロックチェーンといわれています。
また、トークンの発行や管理・制御を行う機能が「プロトコル機能」として兼ね揃えられていて、スマートコントラクトをデプロイしなくてもすでにあるプロトコル機能で安全に発行することができる点も注目されています。
つまりスマートコントラクトの開発リスクなどに晒されず、すでにある安全なオープンソース機能で開発できるため、開発者にとっても、また利用者にとっても双方のメリットになります。
さらに、発行者がコンプライアンス要件にもとづいて細やかに管理・制御しやすい機能が揃っていることも特徴的で、たとえば発行トークンについて受け取れるアカウントをコントロールしたり、特定アカウントの残高を凍結することができます。そのほか、KYC済みのアカウントのみ受け取れるなどの設定をすることも可能です。
今後、金融機関がステーブルコインを発行するにあたり、そういった制御を可能にする機能がブロックチェーンのプロトコルレベルで備わっていることは極めて重要になってくるでしょうし、需要もより高まっていくものだと考えています。
一方で、XRPレジャーについてはまだ認知されてない部分もあります。我々としてはもっと世界で知ってもらうための活動をしていきますし、Web3.0に対して積極的な日本の事業者やユーザーと一緒にWeb3.0ユースケースでの活用を模索していきたいと考えています。
リップルは、日本と海外の架け橋となる ——リップル社として今後どのようにステーブルコインと向き合っていくのか、また注力していく分野等があればお聞かせください。
吉川 :XRPレジャーは2012年から稼働している歴史の長い実績のあるチェーンですが、当時世界初の「マルチアセット・ブロックチェーン」として誕生しました。
XRPレジャー上でさまざまな資産がトークン化されて、摩擦のない取引ができる世界、つまり「価値のインターネット」の実現がビジョンです。ステーブルコインは法定通貨のトークンとして、価値のインターネットの世界で非常に重要な役割を担います。
実際、ステーブルコインという言葉が普及する前、2012年からステーブルコインと同等のコンセプトがXRPレジャー上では存在していました。すでにXRPレジャーでは米国ドルや豪州ドルのステーブルコインが発行されています。今後、日本円を含む世界中のさまざまな法定通貨のステーブルコインが発行されて、DEXを通してトークンが交換され、流動性が高まることが期待されています。
XRPレジャーの経路探索(Pathfinding)の機能を活用すれば、マイナー通貨であっても特定のステーブルコインからほかのステーブルコインに簡単に交換が可能になり、クロスカレンシー送金などに応用することができます。
日本に限らず、世界中でステーブルコインを発行する動きは今後加速していくと思いますが、その際にはぜひXRPレジャーを有効活用してもらいたいですね。
リップル社として、日本のWeb3.0に貢献できることは世界とつながっているという点です。国内産のブロックチェーンなども出てきていますが、現状ではガラパゴス化してしまう可能性も否めません。
一方、我々は世界とのネットワークがあります。リップル社が日本と海外の架け橋になっていきたいと考えています。
Profile ◉吉川 絵美│Emi Yoshikawa 米国リップル社のサンフランシスコ本社にて、バイスプレジデントとして戦略、ビジネスオペレーション、合弁事業パートナーシップなどを統括。日本最大の海外送金企業であるSBI Remitの社外取締役も兼任。2021年にはSan Francisco Business Timesによりサンフランシスコ・ベイエリアのビジネス界で最も影響力のある女性100人にも選出。ハーバード・ビジネススクールのMBA、CFA協会認定証券アナリスト資格(CFA)を保有。
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