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ステーブルコイン法改正の要点 日本のステーブルコインの現在と未来

2023/07/27Iolite 編集部
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ステーブルコイン法改正の要点 日本のステーブルコインの現在と未来

ステーブルコインを取り巻く環境・法的変更点や利用ケースについて解説

現在、暗号資産に関する規制整備が各国で行われている。一方、日本は先んじて法制化を進めており、世界情勢も踏まえWeb3.0を推進する追い風が吹いている。

そんななか、世界に先行する形でステーブルコインの定義付けを明確にした法改正が6月に行われた。 これを受け、国内の暗号資産及び決済ビジネスなどはどのように変化するのだろうか。


暗号資産市場を支えるテザーの時価総額推移

▶︎CoinMarketCapより引用

2023年6月1日に施行された改正資金決済法により、ステーブルコインに関する規制が初めて明確化された。これに伴い、ステーブルコインへの注目度が日に日に高まっている。

法改正によってステーブルコインの定義付けがされたことは、すでに関連ビジネスを行う事業者、そしてこれから行うことを検討する事業者にとって大きな意味を持つ。

ステーブルコインは海外とのクロスボーダー取引や会計処理等、これまで時間を要していた決済領域を中心に効果を発揮するとされている。

また、国内で法定通貨建てのステーブルコインを発行することが可能になったことから、既存の暗号資産ユーザーにとっても前向きに捉えることができる法改正といえる。

そもそもステーブルコインとは英語で「Stablecoin」と表記され、その意味としては「安定した通貨」を指す。 暗号資産はボラティリティが非常に高いことで知られるが、ステーブルコインは裏付け資産などを有し価値を安定化させていることが最大の特徴だ。

一概にステーブルコインといっても、その種類は多岐にわたる。代表的なところでは、日本円や米ドル等の法定通貨と価値連動する「法定通貨担保型」、特定の暗号資産に価値が裏付けられた「暗号資産担保型」、金(ゴールド)や原油、プラチナ等のコモディティ(商品)と連動する「コモディティ担保型」があげられる。

アルゴリズム型のステーブルコインは非主流へ

このほか、アルゴリズムや指標等をもとに市場の需給バランスに沿って発行される「アルゴリズム型」のステーブルコインもあるが、現在は主流であると決していえない。

これは昨年発生した「テラ事件」とも呼ばれる騒動が発端としてあげられる。この騒動では、米ドルと連動するテラUSD(旧UST)の価格が乖離し、結果的にエコシステムの崩壊を招いた。

テラUSDはテラブロックチェーン上で発行されるステーブルコイン。テラブロックチェーンのネイティブトークンとしてはテラ(旧LUNA))があり、テラUSDとは密接な関係にあった。

しかしテラUSDの価格が米ドルから乖離したことでテラの価格も暴落し、負のスパイラルを招くと、完全に需給バランスは崩壊。以降、テラUSDの価格が戻ることはなかった。

米国を始め多くの国の規制当局がこの事件を問題視し、早急にステーブルコイン規制を整える姿勢を明確に打ち出している。

「デジタルマネー類似型」と「暗号資産型」

日本では改正資金決済法でアルゴリズム型ステーブルコインの取り扱いについても明記している。法定通貨建てステーブルコインについては大きく2つに分類し、具体的には電子決済手段等で用いられる「デジタルマネー類似型」とそれ以外の「暗号資産型」にわけられる。

暗号資産型

アルゴリズム型や暗号資産担保型、コモディティ担保型ステーブルコインはデジタルマネー類似型に当てはまらない全般を指し、暗号資産や金融商品として扱われる形だ。

デジタルマネー類似型

デジタルマネー類似型は日本円等の法定通貨と連動した価値で発行され、発行価格と同額で償還を約する、あるいはこれに準ずるものと定義されている。

発行者も銀行や資金移動業者、特定信託会社などのライセンス取得者に限定し、マネーロンダリング及びテロ資金供与対策の一環で疑いのある取引のモニタリング等の対応を行う必要があるなど厳格化された格好だ。

また、デジタルマネー類似型は先述の通り電子決済手段等で用いられることが前提となる。電子決済手段については1号から4号までの4つの類型に定められており、暗号資産ユーザーたちに馴染みのある米ドルに価値を裏付けられたテザー(USDT)やUSDコイン(USDC)などは「物品の購入や代価の弁済に使用でき、なおかつ不特定の者との間で購入及び売買することができるもの」として、基本的な性質としては1号に分類される。

このことからもわかるように、実は改正資金決済法によって、日本の法律では法定通貨建てのステーブルコインは暗号資産に該当しないということになる。

これにあわせて、暗号資産の取引を仲介する暗号資産交換業者と同様に、取引を仲介するためには銀行業免許、資金移動業、電子決済手段等取引業といったいずれかのライセンスを取得する必要が生じるケースもある。

日本のステーブルコイン規制は世界と比べて大きく先行

前半ではステーブルコインの基本的な種類や、法改正に伴う取り扱いについて触れた。

後半では、日本におけるステーブルコインの分類、そしてどのようなユースケースが考えられるのか等について深掘っていく。

デジタルマネー類似型ステーブルコイン

改正資金決済法に沿ってここまで説明してきたデジタルマネー類似型のステーブルコインだが、これらはさらに

・銀行預金型
・資金移動型
・信託型


という主に3つのタイプにわけることができる。それぞれ順を追って説明する。

銀行預金型

まず銀行預金型はその名の通り銀行の預金を使用して発行するステーブルコインだ。送金金額の制約こそないものの、KYC登録が済んでいるアドレスへの送金しかできないことや、銀行が破綻した際に利用者へ確実に資金が返ってくる保証がないリスクもある。

また、改正資金決済法の施行に伴うパブリックコメントにおける金融庁の見解でも、「銀行の業務の健全かつ適切な運営等と両立しない可能性が国際的にも示されている」とし、銀行によるステーブルコイン発行については慎重に検討する必要があるとの見方が示されている。このことから、現時点で実現性がみえていないのが実情だ。

資金移動型

資金移動型は資金移動業のライセンスを取得した事業者が発行可能なステーブルコイン。そのため、このライセンスを取得すれば民間企業でも資金移動業者としてステーブルコインの発行が可能となる。

銀行預金型との違いでメリットとされるのは、さらなる司法上の整理が必要ではありつつも、KYC登録がされていないアドレスにも送金できることや、取引完了までの間、利用者の預かり金を法務局に供託しなければならないため、資金移動業者が破綻したとしても顧客資産の保護がされている点などがあげられる。

その反面、民間企業であれば銀行と比べて破綻リスクが大きいと考えられ、送金等が滞る可能性があることや、1回の送金上限額が100万円までと決まっていることから、企業間での取引で使用しにくい点はデメリットとして映る。そのため、現状では個人の利用の範疇を超えるのは厳しいと考えられる。

信託型

最後に信託型は特定信託会社が発行者するステーブルコインで、3号電子決済手段として定められるものだ。特定信託会社とは特定信託受益権を発行する組織を示す。

この特定信託受益権というのは、今回の法改正で「電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値」と表現され、「電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る」とも表記されていることから、端的にいえばステーブルコインそのものを指し示すとされている。

また信託受益権は、簡単にいうと信託した財産から発生した利益を受け取る権利を指す。不動産の家賃収入がわかりやすい例だろう。

この信託型はこれまでにあげた銀行預金型や資金移動型と比べて比較的発行しやすく、なおかつ実質的に100万円を超える送金も可能だ。

さらに、万が一の際には信託会社へ償還請求も可能であることから、発行体の信用リスクも抑えられる。

そのため、現状ではこの信託型でのステーブルコイン発行が事業者にとって比較的ハードルが低いものであるとの指摘もある。

これまでにステーブルコインについてここまで定義した法律はなく、世界をみても日本は先行している形といえる。たとえば、米国ではステーブルコインの法制化に向けた動きが今年に入り本格化し、今もなお議論が行われている。

草案では発行者向けにライセンスを付与することや、規制当局による介入権限及び条件等が盛り込まれ、その上で議論に参加する超党派の議員からはステーブルコインが米国の決済システムに変革をもたらす可能性があるとの指摘もあがった。

実際、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長もステーブルコインを「貨幣の一種」と言及するなど、ポジティブな声が聞こえてくる。

その一方で、暗号資産関連事業者らの締め付けを強化するSEC(米証券取引委員会)のゲンスラー委員長は、一部ステーブルコインを含むアルトコインを有価証券とみなすなど、規制当局の間でも温度差がうかがえる。そのため、監督省庁の決定を含め法制化には少々の時間を要することが考えられる。

欧州ではEU圏における包括的な暗号資産規制「MiCA」が可決され、ステーブルコインに関する規制は2024年に施行される予定だ。この規制ではステーブルコイン発行者が十分な現金を保有することを義務付け、セキュリティに関するリスク軽減要件を満たす必要があるなど、厳格な規制整備が行われた。

また、テザーやUSDコインなどの民間企業が発行するステーブルコインの取引上限は1日あたり2億ユーロ(約310億円)までと制限されている。

このほか、暗号資産規制の整備を進めるシンガポールや香港等の国・地域でもステーブルコインに関する議論は進んでおり、今後さらに追随する国々が増えるものとみられる。

各国でもステーブルコインの利活用が今後ますます進むと考えられるが、では具体的にどのようなことができるのだろうか。ここからはステーブルコインがその能力を発揮すると考えられるシーンに触れていく。

まず多くの人が耳にしているであろう領域として、貿易や国境を超えたクロスボーダー取引での利用で有効な手段となることが考えられる。

これらの取引を既存の手法で進めると、非常に高い手数料を払う上に送金から着金確認までに多くの時間を要してしまう。

それをステーブルコインで代替することにより、手数料を安価にできるほか、従来と比べて圧倒的に早く送金と着金の確認を行うことが可能だ。

またブロックチェーンにより取引の流れを把握できるという透明性の高さもメリットの1つとしてあげられる。

このほか、スマートコントラクトを活用して法人決済を自動化することや、個人間の取引を従来の暗号資産と比べて価格変動リスクを抑えた上で行うこともできる。

現時点では暗号資産そのものの規制環境も踏まえて、どちらかというと個人よりも法人が利用するメリットの方が大きい。

また、テザーやUSDコインといった米ドルに価値を裏付けたステーブルコインを国内暗号資産取引所などで今すぐに取引可能になるかというと、それもまた厳しいといえる。厳密にいえば、海外企業などが発行した法定通貨建てステーブルコインを取り扱うこと自体は今回の改正資金決済法で可能となったが、実際に取り扱うには非常に高いハードルが存在する。

まず、大前提として海外発行体が日本でステーブルコインの発行に必要なライセンスを取得することが最も手っ取り早い。

しかし、ライセンス取得には長時間を要することが想定されるため、決して得策とはいえない。

そうなると仲介者を介して直接流通を行うケースが考えられるが、この場合、資金移動業者であれば発行体の破綻リスクへの対応を迫られるほか、送金上限も100万円と制約されてしまうため、肩身の狭いビジネスしか展開できなくなるだろう。

こうした状況を踏まえると、信託型のスキームを活用することが現状効果的ではあると考えられる。しかし、海外発行体の仲介者が当然ステーブルコイン発行に必要なライセンスを取得している必要がある。

そのため、現時点では仲介者がライセンスを取得するまで一定期間を要し、待たねばならないのが実情だ。

すでに改正資金決済法の要件にあわせたステーブルコインの発行に着手する動きが国内で広がっている。今後の展開として、まずは法人向けの利用を想定したエコシステムでの流通を目指すステーブルコインが登場する可能性がある。

その後、ブロックチェーンゲームとの親和性が高い基盤上でステーブルコインが発行され、個人間での取引も活発化されていくことだろう。

個人間での取引が活発化されることで、その先にはDeFiでの取引が可能となり、ゆくゆくは国内暗号資産取引所でもレンディングサービス等で運用が行えるようになるかもしれない。

こうしたビジネスモデルが確立されることで、日本円の存在感及び価値が向上し、好循環が生まれる可能性も考えられる。

まだ法改正が行われて間もないため、多くのユーザーが日本円建てステーブルコインを利用するシーンを思い浮かべることは難しいかもしれない。

しかし、そう遠くない将来に便利な決済手段として幅広く利用される可能性を秘めていること、そして来るべき日に利用する際にそれぞれのシーンに適したステーブルコインを選ぶべく、今から情報を得たとしても遅くはないだろう。

ビジネスシーンにあわせて活用することにより日本円の存在感及び価値向上にも期待。

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