暗号資産金融・経済

韓国企業のグローバル戦略でみえた芯を貫く強さ 的確な市場分析で成長みせる実力派企業・AM Managementに迫る

2024/07/29Iolite 編集部
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韓国企業のグローバル戦略でみえた芯を貫く強さ 的確な市場分析で成長みせる実力派企業・AM Managementに迫る

革新的なアイデアは常識を疑うことから始まる

「失敗の本質」という大東亜戦争における日本軍の敗因を分析した名著がある。1984年に初版が発行されたこの本は現代の企業戦略にも通じるものがあるとしてエグゼクティブからの評価も厚い。

かつて世界の時価総額ランキングのトップを席巻したmade in Japanのプロダクトは、この30年グローバル戦線で敗北を続けてきた。GAFAMが米国から世界経済を大きく牽引してきたWeb2.0時代はやがてWeb3.0へと移り変わる。はたしてゲームチェンジャーはどこからあらわれるのか。


マスアダプションの誤解

グローバル戦線はマスアダプションを提唱するだけで簡単に開く扉ではない。日本のWeb3.0業界に目を向けると失われた30年を取り戻すことが大義名分のようにいわれているが残念ながら企業努力だけで世の中は動かない。

政府の政策や税法などの改革、インパクトのある業界のニュースなどさまざまな歯車が噛み合って初めてマスアダプションの潮流が見え始める。その意味では、地平線のはるか遠くを見渡しながら大波を探すサーファーのように、無数のトライアンドエラーを行いながらしぶとくユースケースを固めていくフェーズが今であると思う。

グローバルへの挑戦

今回の話の主人公はおとなり韓国に本社を置くAM Management 社(以下AM)。まさに今グローバル規模で急成長している注目企業だ。

実はCEOのキム・ホジュン氏(以下、キム社長)とは1年ほど前から親交があり、先日の「TOKEN2049 in Dubai」の期間に開催されたBybit VIPのガラパーティで偶然再会した。まさか彼のチームがトレードの大会で2位に大差をつけて優勝をしたことなど知る由もなかった。

取引所が主催するVIPイベントの招待者のほとんどが個人トレーダーだ。通常VIPランクは保有資産または取引量で決定される。私はトレーダーではないが、ありがいことにさまざまな場面でお招きいただく機会が多い。今回のドバイの表彰式はヨーロッパ勢も多かっただけにキム社長が壇上で表彰される姿はアジア人としてとても誇らしかった。

韓国といえば、今年の第1四半期に韓国ウォンが暗号資産取引で米ドルを抑えて世界一(約71兆円)になったことは記憶にあたらしい(日本は約6兆円)。“キムチプレミアム”と呼ばれる他国の取引所との価格差や、暗号資産への課税がさらに2年延期になったことも取引が活発になった要因としてあげられるだろう。

キム氏によると韓国人はトレードが好きな人が多く、先物などハイレバレッジをかけて取引する人も多いそうだ。コツコツ貯め、運用はプロに任せる日本人とは真逆の性格だ。とはいえ日本の半分ほどの人口である国がグローバルマーケットに影響を与えている事実は見逃せない。

自社開発の強み

そんな韓国を拠点に活動するAMの強みは市場、チャートの分析だ。彼らは自社開発した市場分析システムを用いて大手機関投資家向けにコンサルティングサービスの提供と大手取引所や国内外のメディア向けに市場分析レポートの配信などを行っている。

AMを率いるキム社長の経歴は非常に興味深い。もともと韓国のLG電子で研究員をしていた彼は個人の趣味として触り始めたクリプトでコミュニティを形成しチャート分析についての情報を発信していた。

トレーダー界隈で有名なチャートツールであるTrading Viewでも独自の分析を配信していたのだが、アナリストとしてTOP評価をされたことがきっかけでのちにヒョンデBS&Cでクリプトの資産運用チームのリーダーを務めることになる。当時としては異例の200億円以上のクリプト資産を約3年間運用した実績を掲げ、2021年コミュニティのメンバーと共にAM社を立ち上げた。

設立当時は運用会社が資金を集めてサービスを展開する委託運用形式が韓国国内では主流となっており、当然彼らも同じ方向性を計画していたが、受託企業の不透明な運営が原因でトラブルが相次いでいた。その後、追い討ちをかけるようにFTXが破綻し、市場のクリプトに対する期待はとても冷ややかなものとなってしまった。

予定していた資金調達も困難を極め方向性を見直さなければならなかった。その結果、彼らはマーケットの分析、自社開発のアルゴリズムでリスクマネジメントを徹底的に追求した戦略システムの構築に集中した。

市場の分析と戦略コンサルティングをワンストップで提供している会社は世界的にみても少ない。蓋を開けてみるとシステムを外注している企業も多いのが現状だ。

ここでいう市場の分析とは海外メディアが流す一次情報を加工するようなものでも、チャート分析インフルエンサーが配信しているような内容でもない。

24時間365日動き続けるクリプトのチャートやオンチェーンデータはもちろん、伝統金融市場の機会も見逃さないためにNASDAQ100、S&P500、原油、金、銀など海外の先物取引でのパフォーマンスデータや世界経済のさまざまな指標や指数、経済情報などもカバーしている。

これらの要素を織り込んでアルゴリズムに落とし込み、顧客のニーズにあわせたサービスとして昇華させるのは非常に難易度の高い技である。

韓国の規制

現在、韓国の法人のクリプト保有は法律で禁止されている。つまり彼らの成長戦略にグローバル進出は必須条件だった。そんな出だしからグローバルで挑戦を行った彼らに追い風が来ようとしている。法人のクリプト保有解禁の兆しだ。

仮に解禁されれば彼らの提供するサービスは否が応でも国内のto Bマーケットで圧倒的なドミナンスを生み出すだろう。

それだけでなく、彼らのストラテジーが伝統金融で採択される未来も十分あり得るかもしれない。実際に海外の大手取引所や機関投資家だけでなく、大手投資会社や伝統金融からも提携のオファーが来るほどに彼らのシステムは評価されている。

キム社長はいう。「意外に思うかもしれませんが暗号資産の業界は専門の知識と経験を持った人がほとんどいません。我々が独自路線を築けているのは、ヒョンデ時代に当時の時価総額としては相当な金額を取り扱った密度の濃い経験のおかげともいえます」

機を待つ

ゲームチェンジャーとはぽっと出の奇跡のプレイヤーではない。できない時代にできることを積み重ね続けた人間だけが時代の波に乗ることができる。

対談の最後でキム社長にAMとしての中長期的な目標を聞いた。彼の口から出たのは3,000億円という数字。2028年までに実現を見据える彼らの取り扱い金額だ。冷静で穏和なキム社長が語る言葉に芯を感じた。彼らにとっては途方もない数字ではない。

さまざまな事業体が掲げる公約にマスアダプションは共通のGOALとして掲げられている。限られた時間のなかで公約を果たす為にどのようなステップを踏むべきなのか。資金調達で成り立っているベンチャーは特に時間だけではなく資金的な体力のリミットもある。

結果を求めることに急いではいけないが、底をつけばゲームオーバーとなる。機を読むことは難しい。だからこそおもしろい。偶然を必然にするセンスはCEOの手腕ともいえよう。


Profile

◉Hiroki Nagatomo
JADE VENTURES Founder
J-CAM MIDDLE EAST COO
1988年生まれ。横浜市立大学在学時に起業。大手通信キャリアのセールスプロモーションを主軸に人材派遣会社や飲食店など事業を複数展開。2018年事業譲渡後、ヨーロッパを中心に30ヵ国以上を渡航。グルメ、ライフスタイル、社交など文化的交流を重ねるなかで海外富裕層が暗号資産に注目していることを知る。後にJ-CAM代表である新津氏との出会いがきっかけで2022年Web3.0時代の資産形成プラットフォーム「BitLending」を立ち上げる。常識を覆す革新的なアイデアでクリプトレンディングの業界水準を上げ多くのユーザーから支持を得ている。現在はドバイに在住し、独自のネットワークとフットワークを武器にグローバル企業のBizDev領域で多くのビジネスに貢献しながら、コラムニストとしても業界の著名人へ取材活動を行っている。


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