7月31日、イーサリアムのレイヤー2ソリューション「INTMAX zkRollup」などを手がけるINTMAXが主催し、Japan Blockchain Weekの公式イベント及びイーサリアムの開発会議「EDCON Tokyo2024」のサイドイベントとして「PlasmaCon」が開催された。
このイベントは、イーサリアムのレイヤー2ソリューション・Plasma(プラズマ)を中心に、イーサリアムのスケーラビリティやユースケースなどに関するセッションが組まれたほか、特に「ブライバシーの重要性」に焦点が当てられた。
今回、メディアパードナーとして参加したIolite編集部が、PlasmaConの注目セッションを中心に当日の様子をレポートしていく。
“暗号学の第一人者”が語るプライバシーの重要性「Disrupting money, mobile and id with compelling use cases(魅力的なユースケースでお金やモバイル、IDに革命を起こす)」と題したセッションでは、“暗号学の第一人者”の1人と呼ばれるElixxirのデビッド・チャウム(David Chaum)氏が登壇した。
チャウム氏は、情報技術の進化により、「マネー」「コミュニケーション」「アイデンティティ」といった3つの領域において破壊的な革新をもたらすことができると主張。特にWeb3.0を活用することによりそれらを自分自身で管理することができようになることが技術革新の1つであるとした。
その上で、文明の未来はプライバシー技術の発展にかかっているとチャウム氏は述べる。その理由の1つとして、これまでSNSにより文明に大きなダメージが与えられてきたと語った。
今後、情報技術を自らの手でコントロールしていくことが求められるとし、そのためにもAIの活用がカギを握るとチャウム氏は主張する。
これまでは大企業などがユーザーの動きをトラッキングしていたものの、今後はAIによって最適なサービスや情報を得ることができるようになるとチャウム氏は指摘。それはAI自身が誇大広告などに惑わされることがないためで、プライバシーと個人情報を守ることにつながると述べた。
また、プライバシーを守るためにはお金のデジタル化が必要になると語り、それはコミュニケーションをとるためのツールであるモバイルでも同様だと主張する。さらに、アイデンティティという部分でも既存の指紋を登録するなどの手法にはデータベースの脆弱性というリスクがあるとし、今後個人で管理する重要性を説明した。
最後に、チャウム氏はAIがすべての仕事を代替するというさまざまな声について「間違っていることは明らか」と主張した。それは、AIを使用する人々による支配から人類を守るのも、また人類であるからだと述べ、その上で最終的な決定を下すのも人間だからだと語った。
イーサリアム共同設立者が語る、Plasmaの優位性 「Return of Plasma(プラズマの復活)」として始まったセッションには、イーサリアムの共同創設者であるヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)氏が登壇した。Web3.0領域を牽引するブテリン氏のセッションということもあり、会場には多くの参加者が集まった。
ブテリン氏はライトニングネットワークを提案したジョセフ・プーン(Joseph Poon)氏と共に2017年に提案したPlasmaの歴史や仕様、そして将来もたらすであろう影響などについて語った。
同氏は昨年11月に「Plasmaは再評価されるべきだ」と自身のブログで主張。それはゼロ知識証明を活用した「ZK-SNARK(ZKスナーク)」の登場により、Plasmaが抱える課題を解決しながら、より利便性の高いレイヤー2ソリューションとして使用できるようになる可能性が高まったからだ。
ブテリン氏はPlasmaについて、「トークンの所有権などを証明する上で面白い仕組みを講じている」と述べた上で、プライバシーの保護という観点でみた際に、活用を検討していくことも方法の1つだろうと見解を示した。
また、「イーサリアムはスケーラビリティを必要としている。同時に、どれだけのセキュリティリスクを軽減できるかにも焦点を当てる必要がある。Plasmaは、すでに存在するシステムを重ね合わせることで安全性を高めることができる存在だ」と述べ締めくくった。
プライバシーを念頭に次の20年で成長する領域とは 「Privacy is normal(プライバシーは当たり前のもの)」では、ブテリン氏とチャウム氏に加え、ZkmailのCo-Founder・末神奏宙氏と、モデレーターとしてINTMAXのCo-Founderである日置玲於奈氏が登壇。プライバシーの変遷について議論が交わされた。
まず、現在社会ではプライバシーに対する認識が低下しているのではないかという日置氏の問いかけに対し、ブテリン氏が「(この問題に関する)対策は進んでいないように思える。インターネット上の多くのものが保護されておらず、プライバシーを下げている状況だ」と指摘した。
また、チャウム氏はAIが人類の後ろを追う今の状況を踏まえ「重要な瞬間を迎えている」と述べ、先述した「マネー」「コミュニケーション」「アイデンティティ」の領域で特に大きな変化が訪れる可能性があるとしている。
末神氏はブテリン氏及びチャウム氏と同様、現実世界のプライバシーを巡る問題が日に日に大きくなってきているとしつつも、「暗号化技術を使うことでプライバシーの保護が可能になる」と述べた。
このほか、プライバシーの侵害についてこれまで人類が取り組んできた課題や決済の在り方などについて議論が行われた。
なかでも、「20年後にプライバシーは向上しているか?」という問いに対して、全員が「しているだろう」との認識を示した。特に決済についてはプライベートな取引が行われる際、どのような情報を相手に共有すべきかという課題などがあるものの、次の20年でより成長する領域になるだろうという認識で一致した。
社会実装に向けたユースケース作りには懸念も 最終セッションとなった「Dapps on Plasma(Plasma上のDapps)」では、日置氏がモデレーターを務め、デロイトのコンサルティングパートナーである馬渕邦美氏、ぷらっとホーム社代表取締役の鈴木友康氏、そして3AM JAPANの西窪洋平氏が登壇した。このセッションではPlasmaを活用するに至った背景などが語られた。
3名はPlasmaの活用を決めた背景として、スケーラビリティ面が以前よりも改善された点や、多くのユーザーに向けてプロダクトを提供する際に適している点などをあげた。
また、今後Plasmaに期待することとして、馬淵氏は「社会実装に向けたユースケース作り」をあげる。その上で、鈴木氏は「ユースケースを考える時に現実は複雑だ。それをどう解決して進むかを考える必要があるが、Plasmaでブレイクスルーが起きた」と指摘した。
ぷらっとホームは先月末、「モノ(Things)」を含むRWA(Real World Assets)の汎用トークンプロトコルの商用化に向け、INTMAXと事業提携を発表している。こうした動きを踏まえ、今後もPlasmaを積極的に活用していく姿勢を強調した。
一方、西窪氏は「Plasmaに限った話ではない」と前置きし、「ユースケースを生み出していく上で、現状のブロックチェーンにおけるプライバシー問題に懸念を抱いている」と述べる。さらに、現状プライバシーや量子コンピュータに関する議論をする人が少ないのも課題の1つであるとした。
こうした議論を経て、日置氏は「プライバシーについては今日登壇したスピーカーの多くが懸念を抱いている課題だ。それと同時に、ユーザーや市場のニーズもプライバシーにあるはず」と言及。今後もプライバシーという大きな課題に向け、取り組みを加速させていく意欲をみせた。
未来のテクノロジーの在り方を示す貴重な場に 以上、ここまでPlasmaConの注目セッションを中心に当日の様子をお届けした。
イベントは業界の名だたるプレイヤーたちがプライバシーというセンシティブな領域について今一度議論を重ね、その上で未来のテクノロジーの在り方を示す貴重な場となった。
また、イーサリアムの技術的なセッションも数多く盛り込まれたことから、開発者を始めさまざまなユーザーにとっても有意義な時間となったのではないだろうか。
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