
Grokとは、ロバート・A・ハイライン氏が1961年に発表したSF小説「見知らぬ土地のストレンジャー」に因んだもの。Grokは火星人を指している。批評家たちはこの言葉の正確な定義について議論を重ねてきたが、何かに対して非常に深い共感性や直感を抱くという解釈に落ち着いている。Web辞書のMerriam Websterでは「深く直感的に理解する」ことを意味する他動詞として定義している。
xAIは、元OpenAI、DeepMindのスタッフからなるチームとして7月にスタートした。設立当時、「宇宙について集団的な理解を促進するため」人口知能を開発すると説明している。
マスク氏は依然、今日のAI開発企業は「政治的に正しい」システムに偏りすぎであると批判している。xAIの使命は、あらゆる背景や政治的理解を持つ人々に向けたAIを開発することであるという見解だ。GrokはAIのアプローチを「公の場」でテストする手段と述べている。
ウォルター・アイザックソン氏の書いたイーロン・マスク氏の自伝によると、マスク氏は「10年くらい前から人口知能が暴走し、意思のようなものを持って、人類を脅かす日が来るのではないかと心配している」という。そして、そういう心配はほかの知性体より人類のほうが大事だと考える「種差別」だと、Googleの共同創業者ラリー・ペイジ氏に否定され、2人の関係にヒビが入った。
AIの先駆者として有名なデミス・ハサビス氏が立ち上げたディープマインドをGoogleが買収しようとした際に阻止を試み、それが失敗するや非営利のAI研究所「OpenAI」をサム・アルトマンと立ち上げた。しかしAIの方向性についてマスク氏はアルトマン氏とすれ違い、OpenAIの取締役から追い出された。
原因はAIの暴走に対する懸念だった。OpenAIを去った後、マスク氏は技術者アンドレイ・カルパシー氏をテスラのオートパイロットチームの主任として引き抜いた。一方、アルトマン氏はOpenAIに営利部門を作り130億ドルの投資をMicrosoftから受け、カルパシー氏を再び引き抜く。
OpenAIのChatGPT4は2023年3月に公開された。Googleも対抗して「Bard」というチャットボットを公開している。人間と普通に会話ができ、テキストベースで知的作業をこなす製品の開発競争が、「OpenAI・Microsoft」vs「ディープマインド・Google」という形で始まった。
マスク氏が懸念していた深刻化する事態に発展してしまったのだ。MicrosoftとGoogleが絡んでいるということもあり、チャットボットやAIに政治的な意味合いがつくのではないかと心配した。「ウォークマインド・ウィルス」に感染することも懸念した。
さらに、自己学習型AIは、いつか人類に反旗を翻す可能性もあるとマスク氏は考えている。AIチャットボットを利用し、X(旧Twitter)にデマや偏見、詐欺をあふれさせる輩が出てくることも考えられた。
だからこそマスク氏は、そういう懸念事項を解決するAIを開発する必要があった。OpenAI対Googleの一騎打ちに3人目のグラディエーターを参戦させるべきだと考え、OpenAIには1億ドルもの資金を出したのにも関わらず、結局追い払われた。