マスク氏はXの収益を現在の広告主体から大きく方向転換させようとしている。
同氏は当初、TwitterをテスラやスペースXのようなテクノロジー企業と同じであると思っていた。しかしTwitterは収益を広告に頼っており、そこには広告主の存在がある。
広告主はヘイト言動や差別を嫌う。現にマスク氏も買収以来激減している広告主に対して「なんでも好き勝手がいえ、その責任を取る必要もない——Twitterをそんななんでもありの地獄絵図にすることはない」と約束するレターを送っていた。
その直後の10月30日、マスク氏は騒動を起こした。
当時の下院議長で重鎮のナンシー・ペロシ氏の夫、ポール・ペロシ氏が、自宅で寝ていたところをハンマーで襲われるという事件が発生。その際、マスク氏は「男娼がらみの可能性がある」と勝手な推測をする右翼系陰謀論サイトの記事を紹介。「もしかすると、ぱっと見以上のことがあるかもしれない」とツイートした。
エンジニアリングに関することならマスク氏は直感的に理解できるが、人間の感情については、頭の配線具合から対応が難しい。そこにTwitterの買収の難しさがあることが理解できない。広告主の感情も理解できない。Twitterは実のところ、人間の感情や関係に基づく広告メディアであるということが、マスク氏は理解できないし、しようともしない。
ポール・ペロシ氏へのツイートは物議を醸し、マスク氏はニューヨークへ飛んで広告営業チームと善後策を打ち合わせ、広告主やそのエージェントに安心してもらう働きかけをする必要があった。実際マスク氏はニューヨークへ向かい翌日午前3時には到着した。
その後のマスク氏は終始激昂していたようだ。「4月に買収が表沙汰になって以来、ずっと攻撃されている。広告契約をしないようにと活動家が寄ってたかって圧力をかけてくるんだ」と述べたという。
さらに「Twitterは、いつの日か10億人など、幅広い人々に興味を持ってもらえるものにしたいと考えている。そのためにも安全性が大事だ。ヘイトスピーチのつるべ打ちをみたり、攻撃されたりしたら、みんな使わなくなってしまう」と述べた。
ポール・ペロシ氏の件については「私は私でしかない。私のTwitterアカウントは私という個人の延長だ。そして、私という人間は、ばかなこともつぶやいたりするし、間違うこともあるわけだ」と開き直り、謝罪どころか身も蓋もないことを述べて関係者を呆れさせたという。
その翌日には、広告業界から信頼を寄せられているTwitter幹部が大勢辞めた。その結果、多くのブランドや広告代理店がTwitter広告を当面取り下げると発表。月間売上は80%も下落した。しかし、マスク氏はそんな圧力に屈するのは許さないといきり立ったという。
マスク氏はしばし“気まぐれモード”や“無神経モード”に入るが、時折、“悪魔モード”に入ることがある。何かに憑かれたかのような漆黒のペルソナが発する冷たい怒りにさらされる。
「Twitterはいいものだ。存在そのものが倫理的に正しいんだ。彼らは倫理にもとる行為をしている」とし、広告を引き上げるべしと広告主に圧力をかけるのは恐喝であると考え、そんなことをツイートするアカウントを凍結しろと命じたのだという。