10月7日、爽やかな熱気に包まれた渋谷・ヒカリエホールであらたなアイドルが誕生した。
彼女たちの名は「WHITE SCORPION(ホワイトスコーピオン)」。「純真さ」「誠実さ」を持ち、なおかつ力強さを兼ね揃えたグループになることを願い付けられた名だ。
IDOL3.0 PROJECTを企画・運営するオーバース社が、独自トークンNIDT(Nippon Idol Token)を通じてIEOを行った取引所の1つ、coinbookのCOO・藤野周作氏に私がインタビューを行ったのが今年の3月。まだIEOが行われる前だ。
WHITE SCORPIONのメンバーが決定した時、ふと当時話していた内容とその時の様子が脳裏を駆け巡った。当時のcoinbookは取引サービスの開始と同時にIEOに取り組むという状況であっただけに、とにかく苦労していたからだ。
本題に入る前に、そもそもIDOL3.0 PROJECTとはどのようなプロジェクトで、NIDTとは何なのかということを説明していこう。
IDOL3.0 PROJECTとは?
IDOL3.0 PROJECTはオーバース社が企画・運営するプロジェクトで、これまでにない新規アイドルグループの創造を目指すとともに、「時代の変化やニーズにあわせてアップデートされるアイドルグループ」をビジョンとして掲げている。
総合プロデューサーにはこれまでにAKB48や乃木坂46などを手がけてきた秋元康氏が就任しており、これが大きな話題となった。
グループを支えるスタッフには前述した2グループに加え、日向坂46、櫻坂46、IZ*ONEなどの人気アイドルグループの育成に携わったスタッフが参加。デビュー曲となる「眼差しSniper」のダンスもこれまでに乃木坂46の「隙間」、欅坂46の「サイレントマジョリティー」等の振付を担当したTAKAHIRO氏が手がけるなど、本格稼働前から本気度がうかがえる。
グループは11名で構成される。メンバーは下記の通りだ。
- チョコ
- アリー
- ナコ
- サマー
- ナビ
- ココア
- ニコ
- ピース
- モモテレ
- アオ
- ハンナ
※敬称略
2023年12月7日にデビューを控え、これから活動を本格化していく。
プロジェクトのカギを握る「NIDT」
IDOL3.0 PROJECTを語る上で必ず説明が必要となるのがNIDTというトークンの存在だ。
導入でも説明した通り、NIDTはオーバース社が発行するイーサリアムブロックチェーン上で発行された独自トークンで、coinbook及びDMM Bitcoinにて国内4例目となるIEOが行われた。このIEOでは目標の15億円にこそ届かなかったものの、10億円を調達することに成功している。過去に行われた国内IEOと比べても非常に大規模な資金調達となった。
上場直後はIEO公募価格の5円から1円まで暴落。
その後、プロジェクトの進捗が明らかになるにつれ急騰し、一時は125円ほどまで上昇した。記事執筆時点では60円台を推移しており、今後もプロジェクトの進捗次第では価格が乱高下する可能性がある。
価格面に注目が集まりがちなNIDTだが、本来の用途を忘れてはいけない。
NIDTは保有することで限定イベントの参加やNFTの取得などが可能となるユーティリティ・トークンとして機能する。実際、最終審査となるファイナルステージでは2度にわたり「ホワイトナイトシステム」と題した投票が行われ、NIDTが利用された。
このシステムはNIDTを保有するユーザーが保有量に応じて投票券を取得し、ファイナルステージの各ステージを通過できなかった候補者に投票することで救済するといったものだ。正式にメンバーとなったピース、サマーの両名は2度目の投票となる「ホワイトナイトシステム2nd」で復活し最終候補に残っている。
今後も楽曲のセンターを決める際やグッズ販売等の投票でNIDTが必要となることが想定され、その都度、価格面になんらかの影響を与える可能性がある。
想定外、想像以上の熱狂
「今回のオーディション、ポテンシャルの高い子が多いですよ」。8月、ファイナルステージ進出者114名をお披露目するイベントの記者席でこんな言葉が聞こえてきた。
秋元氏とキングレコードがタッグを組んでいるだけに、たしかに有望な人材は集まるだろう。しかし、暗号資産やNFTといったWeb3.0の要素が絡んだプロジェクトとなるとそれだけで敬遠する人は少なくないはず。そのため、実際にはそこまで応募もないのではないかと当初の私は考えていた。
だが、蓋を開けてみれば1万人以上の応募があった。Web3.0がどうとかではなく、純粋に皆アイドルになりたくて応募していたのだ。ここにはWeb3.0の普及に向けたヒントが隠されていると思う。
また、会場に詰めかけたファンの多さにも驚いた。
ファイナルステージ進出者の発表時にはIEOでNIDTを購入したユーザーのみが抽選で会場に入ることができた。IEOには投機目的で参加したユーザーも数多くいると推察される。しかし、なかには「自分の推しをみつける」「新アイドルの誕生を見届けたい」といった想いから購入したユーザーも多数いるのだと気付かされた。
その後、ファイナルステージが進みホワイトナイトシステムが実装されるなどした結果、NIDTの価格も大幅に上昇。トークンとともにプロジェクトそのものが業界内外で大きな注目を集めることとなった。
これらのことから何がいいたいかというと、私にとってWeb3.0発のプロジェクトが一般人をこれほどまでに巻き込み、熱気を生み出したことは想像以上であり、想定外のことだったのだ。
IEOが行われ上場後には目も当てられないほど価格が下落したプロジェクトが蘇った。Web3.0という複雑な領域にさまざまな障壁を乗り越えて参入してきた。ほかにもいくつか想うことがあるが、私自身も正直いうと、「これほどまでに盛り上がるプロジェクトだとは思わなかった」。この言葉に尽きる。
Web3.0であることは「どうでもいい」がカギ
なぜこれほどまで盛り上がりをみせたのか。その要因を紐解いていく上で重要なのは、このプロジェクトやメンバーたちを応援する上で、ほとんどの人たちはWeb3.0か否かなど意識していないということ。もっといってしまえば、Web3.0かどうかなど「どうでもいい」のだ。
これまでのWeb3.0発プロジェクトは、これまでにない先進性を推す形が多かったと思う。たとえば「ゲームをすることで稼げる」というGameFiであれば、「稼ぐ」という部分を強調するものが多かったと思う。
しかし、Web3.0領域に触れたことのないユーザーが稼げるからという理由だけでブロックチェーンゲームを始めるだろうか? 私はほとんどが始めないと思う。仮に始めたとしても、暗号資産を購入したりウォレットを準備したりなど、工数を考えれば次第に離脱率が高まっていくことは想像に難くない。
そのため、結局はある程度知識がある既存のWeb3.0ユーザーにしか広がりが見込めず、トークン価格が下落すれば次第にエコシステムも回らなくなりプロジェクトが瓦解する。ブロックチェーンゲームに限った話ではないが、これまでにそういったプロジェクトを幾多とみてきた。
その点、IDOL3.0 PROJECTは非常にシンプルだ。ただNIDTを保有していれば、イベントや投票など基本的にはあらゆるものに参加が可能となる。NIDTを保有するためにはcoinbookかDMM Bitcoinで口座開設を行い、日本円を入金して取引を行うだけ。アイドルを密に応援するために必要なものが、従来の握手券やチェキ券などから、電子データに置き換わっただけなのだ。
「Web3.0かどうかはどうでもいい」。これは応援するファンに限った話ではない。主役の1人であるアイドルたちにもいえることだろう。
先述した通り、私はこのプロジェクトを通じてアイドルを目指す候補者が1万人も集まったことにWeb3.0普及の光明をみた。なぜならば、彼女たちがアイドルを目指す上で、Web3.0は直接的な動機にはならないからだ。逆にアイドルになるための環境が、たまたまWeb3.0と関係のあるものであったともいえるだろう。どこまでいっても、「アイドルになりたい」という動機が先行した結果、1万人もの応募がきたわけだ。
これは一般層の取り込み、しいてはWeb3.0領域で活動する参加人口を増やすために極めて必要なことだ。現在のフェーズ、あるいは今後もWeb3.0を全面に押し出すのではなく、あくまでも“裏側”にWeb3.0があるべきだと私は思う。
「行政サービスの裏側には実はWeb3.0の技術が使われていた」「あの著名人のイベントに参加するための電子チケットは実はNFTだった」など、Web3.0は表面的には脇役でいい。ただし、Web3.0が中核で重要な役割を担い続け、それがいつしか当たり前のものとなった時、必要不可欠なインフラとして地位が確立されると思う。Web3.0という概念、“仮想世界”の哲学ともいえる考え方が目指す未来はそこではないだろうか。
IDOL3.0 PROJECTは日本のWeb3.0発展に寄与するのか?
忖度もなく、なおかつ公平な視点で、私は現在までに日本で行われたIEO事例のなかでもIDOL3.0 PROJECTが最も成功事例に近い存在だと個人的に思っている。
何を持って成功かというと人によって意見がわかれるだろうが、私は現状のフェーズを踏まえると「Web3.0の参加人口を増やせたかどうか」だと考えている。一般層を巻き込み、大衆が触れているものに実はWeb3.0が関連していた、という形で輪を広げていくことこそが次なるモデルケースの誕生につながり、それが相乗効果を生んで業界全体を発展させると思うからだ。
すでにこれだけの話題を呼びユーザーをWeb3.0領域にさり気なく参加させているという点でWeb3.0領域の発展に少なからず寄与していると思う。
もちろんプロジェクトの今後の動向次第ではこれらの考えを訂正しなければならない可能性はある。
事実、メンバーが正式に決まる数日前、ある芸能関係者は「まだ決まっていないことが想像以上に多いと聞くし、プロジェクトが予定通り進むかは不透明な部分もある」とこぼした。またメンバー決定後、プロジェクトに近しい関係者も同様に「メンバーは決まりましたが、ここから調整しないといけないことは山積み。これからデビューまでに一層慌ただしくなるでしょう」と語った。
とはいえ、これはどのようなプロジェクトにもいえることだ。複雑な事情が絡みあう芸能関係であればなおさらのこと。現時点では際立って深刻な遅れなどもないため、引き続き注視していきたいところだ。
メンバー決定後に行われた報道関係者向けのレセプションパーティ。そこでオーバースの代表取締役である佐藤義仁氏に心境をうかがった際、安堵した表情を浮かべていたことがとにかく印象的だった。同時に、「しっかりデビューさせるまでは気が抜けません」と、すでに視線は先を見据えていた。
IDOL3.0 PROJECTはファン活動や運営システムなど、あらゆるものの“アップデート”を掲げる。これらのなかには“Web3.0の概念のアップデート”も含まれていると個人的には考えている。
Web3.0領域発のアイドルプロジェクト。これまでにない仕掛けと発想であらたな時代にふさわしいアイドル像をみせてもらいたい。
画像:Iolite、オーバース公式素材及び発表より引用
Profile
◉Shogo Kurobe2018年より暗号資産業界に参入。学生時代に文章を学び小説執筆などを行ってきた経験から暗号資産やブロックチェーンに関する記事執筆及び企画・編集に携わる。株式会社J-CAMで2022年4月より副編集長に就任し現職。2023年3月に「Iolite(アイオライト)」創刊。
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