2日目のセッションでは、世界的に急拡大するステーブルコインの活用と、急速に台頭するAIエージェントの融合をテーマにした「『AIエージェント×ステーブルコイン』:世界のデジタル決済最前線の『衝撃』と、日本における『実装』」が行われた。
本セッションには、Circleの榊原健太氏、Stripeのダニエル・ヘフェルナン氏、JPYCの岡部典孝氏、Progmat, Incの齊藤達哉氏、そしてトレーダム株式会社の阪根信一氏といった、決済・金融インフラを牽引するキーマンが登壇した。
人間主体の金融構造から、自律的に思考し行動する「AIエージェント」主体のあたらしい経済圏へと移行するなかで、ステーブルコインがはたす決定的な役割と、日本市場における現実的な実装アプローチについて議論が交わされた。
セッション冒頭、Stripeのダニエル氏は、近年同社が注力するステーブルコイン決済の背景と、AIエージェントを巻き込んだ「エージェンティック・コマース(Agentic Commerce)」の概念について解説した。従来のeコマースでは、人間がブラウザを開き、アカウント作成や住所・クレジットカード情報の入力を行うプロセスが不可欠であった。しかし、OpenAI等と共同開発されたプロトコルなどの登場により、AIが自律的にツールやリソースへアクセスし、マイクロ決済をミリ秒単位で処理する未来が現実化している。
これに対しCircleの榊原氏は、「既存の金融システムや決済網は、人間が手動で操作することを前提に設計されている」と指摘。AIエージェント同士が超高速・超少額で相互に仕事を依頼・決済する世界においては、ミリ秒単位での即時決済性と極めて低い手数料を両立できるパブリックチェーン上のステーブルコイン以外に選択肢がないと語った。
実際、JPYCの岡部氏も「日本円連動型ステーブルコインであるJPYCは、すでにAIモデルの決済や、AI経由の購買テストで稼働し始めている」と報告。2035年に向けた世界のステーブルコイン決済額の爆発的な増加予測について、「人間同士の取引だけでは説明がつかない。大半はAIエージェント間、またはAIと人間との相互取引によるものになる」との見解を示した。
AIエージェントの未来図に加え、セッションでは足元で急増する実物経済でのステーブルコイン需要についても深掘りされた。
特に新興国との貿易決済や国際ロジスティクス領域においては、従来のSWIFT(国際銀行間通信協会)経由の銀行送金が抱える「着金スピードの遅さ」や「高い中間コスト」が大きな課題となっている。日金間のクロスボーダー取引において、数日かかる資金移動が即座に完了することは、小規模な事業者にとって事業資金の回転率を向上させる大きな強みとなる。
一方で、金融市場や機関投資家の観点からみると、単に法定通貨に都度戻す決済スタイルだけでなく、オンチェーン上でステーブルコインのまま資金を運用し、資金効率を極限まで高める「オンチェーン完結型」の口座モデルへの期待が高まっていることが共有された。

将来的なポテンシャルの一方で、日本国内でステーブルコイン及びAIエージェント決済を本格普及させる上でのハードルについても率直な議論がなされた。
1つ目の課題は、現行ライセンス制度や会計・監査上の制約である。JPYCの岡部氏は、資金決済法における発行・移動の額面制限や、大企業の監査法人によるオンチェーンアセット保有に対する慎重姿勢をあげつつも、データ監査システムの整備や段階的な実証・運用によって解決を目指していると語った。
2つ目は、既存金融機関との接続と「受取側の利便性」である。トレーダムの阪根氏やStripeのダニエル氏が指摘したように、法人や一般消費者がステーブルコインを受け取った際、最終的に即座に日本円として銀行口座に着金する仕組み(オフランプ環境)が整っていなければ、事業者の導入障壁は高いままとなる。
この点について登壇者らは、「ステーブルコインは既存の銀行金融と対立するものではなく、補完関係にある」と口を揃えた。既存金融の強力なコンプライアンスや着金インフラと、ブロックチェーンの流動性・即時性をブリッジさせることで、段階的に安全な実装を進めていくアプローチが提示された。
会場からの「最初にどの産業からエージェンティック・コマースが浸透するか」という質問に対しては、言語バリアをAIが超える「インバウンド・国際観光予約」や、クラウド環境での「超少額開発リソースの即時調達」などが有力な初期ユースケースとしてあげられた。