イベント中盤では、海外展開をテーマとしたスタートアップパネルが実施された。登壇したのは、GOLFINの小松賢氏、MEC Laboの吉目木淳司氏、Laplaceの廣田裕介氏、ANDLAWのGOKI KATO氏の4名。実際にシンガポールやUAEで事業展開を進めてきたスタートアップの代表者たちである。
議論では、シンガポールが依然として情報と人材が集積するハブである一方、Web3.0・暗号資産領域では規制面での慎重姿勢が強まっている点が共有された。
一方、UAEについては、規制当局と対話しながら新たな金融ルールを共創できる余地があり、RWA(リアルワールドアセット)やDeFi分野において実証を進めやすい環境が整いつつあるという声が目立った。
各登壇者の発言にも印象深いものがあった。GOLFINの小松氏は、シンガポールにおけるTOKEN2049に関連した取り組みとして、ゴルフトーナメントを現地で開催した経験を紹介した。会員権が1億円規模ともいわれるゴルフ場を1日貸し切り、参加費を無料にするという大胆な施策は、短期的には大きなコスト負担となった。
しかし結果として、シンガポールを起点に英国や中東へとネットワークが連鎖的に広がり、日本帰国後には「なぜそんな場所を貸し切れたのか」というストーリー自体がフックとなり、逆に出資や事業提携のきっかけにつながったという。
小松氏は「海外ではプロダクトの説明以前に、相手の記憶に残る体験を設計できるかが重要だ」と述べ、イベント=コストではなく、ブランディング投資として捉える視点の重要性を強調した。
さらに、MEC Laboの吉目木氏は、今回のシンガポール渡航の目的を「資金調達ではなく、ブランディングと検証」と位置付けていたようだ。
TOKEN2049を含む大型イベントには、Web3.0関係者に限らず、エンタメ、投資、ファミリーオフィスなど多様な層が集まる。そうした環境のなかで、自社のデザイン力や制作力を直接みせ、率直なフィードバックを得られたことが最大の収穫だったと振り返る。帰国後にはLinkedInを徹底的に整備し、英語での発信を強化した結果、TOKEN2049での取り組みをきっかけとしたミーティングを週1回程度の頻度で行うに至ったという。
また、吉目木氏は「海外に行く前と後では、同じ自己紹介でも相手の反応がまったく違う」と述べ、露出実績が信頼の初期値を引き上げる効果を指摘した。
RWAを手がけるLaplaceの廣田氏は、UAEでの資金調達とマーケットディスカバリーの難易度について言及した。UAEのVCは、日本以上にグローバル水準のリターンを厳しく求める傾向があり、「100社に投資して1社が数百倍になる」ことを前提に選別している。
そのため、ピッチでは技術的な優位性以上に、「なぜこのプロジェクトが将来スケールするのか」「なぜその舞台がUAEである必要があるのか」を、数分で説明する必要があるという。
一方で、UAE特有の特徴として、「ドバイへの還元」を明確に語れるプロジェクトは評価されやすい点もあげられた。Laplaceでは、現地の規制当局にも積極的にロビーイングを実施しており、当局にスタートアップのリクエストや規制整備に働きかけをしている。世界中の不動産をソーシングし、UAEの成長戦略に貢献できる点をユニークなポイントとして提示した。
最後に、ANDLAWのGOKI氏は、シンガポールとUAEを比較する視点として、「人・金・物・情報・規制」という5要素で市場を分解する考え方を紹介した。採用は東南アジア、資金はUAEやシンガポール、情報はグローバルイベントで取得するなど、1ヵ国にすべてを求めない戦略が重要だという。
特に強調されたのが、UAEにおける規制当局との距離感である。DeFiや金融領域において、既存ルールに従うだけでなく、規制当局と対話しながらあたらしい枠組みを共創できる余地がある点は、日本との大きな違いだと語られた。
「海外で成功するには、英語力や表層的なグローバル感覚よりも、その土地の文化や宗教、法制度をどこまで理解できるかが問われる」
特にこの言葉は、会場の多くの参加者にとって印象深いメッセージとなった。
このセッションでは、資金調達の難易度や、投資家が求めるリターン水準の違いなど、グローバル市場ならではの現実も率直に語られた形だ。「なぜその国なのか」「その国にどのような価値を還元できるのか」という問いに明確に答えられなければ、資金もパートナーも得られない。海外展開の華やかな側面だけでなく、地に足の着いた戦略設計の重要性が浮き彫りになった。