早朝の京都。柳の葉が水に濡れたような、青く澄んだ匂いが鼻先をくすぐる。仕事とはいえ、日常から一歩離れた土地を訪れることは、心に新鮮な風を通してくれる。科学的にも、旅は脳にとって有益らしい。人は「体験」を通して時間の厚みを感じ取るという。
カリフォルニア大学の神経科学研究チームが、脳の海馬や嗅内皮質において「時間」と「体験」の順序を符号化する神経細胞(タイムセル)を発見し、それが人間の記憶や時間知覚にどのように関与しているのかを明らかにした。
海馬と嗅内皮質のニューロンは、体験を時系列として記憶するために「タイムスタンプ」のような働きをしており、睡眠や安静時に、こうしたニューロン群がイベントの再生を行い、記憶を強化する。この仕組みが、時間の主観的な「長さ」や「厚み」に関係している可能性があるようだ。
若い頃の1年がやたらと長く感じられたのは、日々が新鮮な驚きに満ちていたからだろう。逆に、同じことの繰り返しは記憶のなかで薄く伸びていくということだ。
プールに行った帰り道で食べた、まだ芯の残るカップ麺の味。花火の火薬と屋台に並ぶ食べ物の混ざった夏祭りの匂い。祖父母の家の軒先で鳴っていた風鈴の音。どれも今となっては些細な記憶だが、当時の私にとってはすべてが「はじめて」であり、キラキラと目を輝かせて好奇心のままに向き合っていた。