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メルコイン中村奎太
Web3.0
暗号資産

メルコインの若きCEOが見据える次のステップと、Web3.0の未来とは。│ 中村奎太 インタビュー

伊藤 将史
2023/07/27

なぜメルカリは暗号資産・ブロックチェーン事業への参入を決めたのか

メルカリグループで暗号資産・ブロックチェーン事業を手がける30歳のメルコイン社CEOに、同社のこれまでとこれからを語ってもらった。

——フリマアプリや決済サービスを手がけてきたメルカリが、なぜ暗号資産事業に取り組むことになったのでしょうか?

中村奎太氏(以下、中村):暗号資産やブロックチェーンといったテクノロジーに大きな可能性を感じていたからです。同時に、メルカリが作り上げてきたビジネスを破壊するような技術でもあるかもしれないという危機感があったからですね。

——どのような点に可能性を感じたのですか?

中村:1つは、ビットコイン(BTC)に代表される暗号資産というものが、今後インターネットのネイティブな通貨として取り扱われるようになり、金融の世界が大きく変わるだろうという予想がありました。そうなれば、メルペイを中心に決済事業・金融事業を手がけるメルカリグループとしても、この変化と無関係ではいられません。

もう1つは、ブロックチェーンが持つディセントラライズド(非中央集権的)な世界観によって、あらたなエコシステムやビジネスモデルが生まれてくるであろうという点です。

ご存知の通りメルカリはお客様がものを売買するためのマーケットプレイスなので、セントラライズド(中央集権的)なビジネスモデルのど真ん中にいるといえます。だからこそ、今後ディセントラライズドな世界観が広がっていくというパラダイムシフトを追いかけなければ、我々のビジネスがいつか根幹から揺らぐのではないかという危機感を持っていました。

なので、2017年に「mercari R4D」という研究開発組織を社内で立ち上げたタイミングで、メルカリグループとして暗号資産やブロックチェーンといったテクノロジーをどのように扱うのか、活用できるのか、ということを大きなテーマとして扱うようになったのです。

▶︎ディセントラライズド
Decentralized。非中央集権型・分権的・ 分散的という意味で、ブロックチェーンが備える特性の1つ。中央集権的という意味を持つ「セントラライズド(centralized)」の反対語


暗号資産 ・ ブロックチェーンに大きな可能性を感じた

——日本で”暗号資産ブーム”が巻き起こるよりも少し前の時点で注目していたのですね。

中村:私もその頃からインターン生として社内でブロックチェーンの研究に携わっていて、ブロックチェーン上にメルカリのような取引プロトコルを載せた「mercari」というプロダクトを社内で実験的にリリースするなどしました。

これまでメルカリグループはモノの価値を循環させるためのサービスを提供してきましたが、ブロックチェーンによって「価値の交換」という概念が大きく変わると考えています。

メルカリは、2023年2月にあたらしいグループミッション「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」を発表しました。このグループミッションを実現するためには、暗号資産やブロックチェーンは当然取り組むべき領域であるといえるでしょう。

そして、その第一歩として2023年3月に「メルカリ」アプリ内でビットコインを売買できるサービスをリリースしたのです。

——国内の暗号資産事業といえば、多くの暗号資産を取り揃える取引所事業が一般的ですが、メルカリのビットコイン売買サービスは非常にシンプルにみえます。ビットコインの売買のみに絞ったサービスにしたの はどのような狙いからでしょうか?

中村:暗号資産といえば価格変動や投機的な側面に注目されることが多いですが、我々としては暗号資産やブロックチェーンがもたらすあらたな価値のやり取りという概念に注目していて、まずはそれを多くの方に体感していただきたいという思いがあります。

しかし一般的な取引所サービスの場合、取引所への登録や多数の通貨から購入するものを選択するといった過程が必要ですよね。これは初心者の方にとって、非常に高いハードルになっています。

実際、アンケートを取ってみると、暗号資産についての印象は「わからない」「難しい」「損しそう」といったネガティブなものが大半でした。なので、そういった不安を1つ1つ取り除けるようなサービスを目指して設計しています。


暗号資産に触れるためのハードルを下げて多くの方に暗号資産を体験していただきたいという思いをすべてプロダクトに詰め込んだ

——ビットコインだけなら「買うのも売るのも1つしかない」状態なので、初心者でもわかりやすいですね。

中村メルカリの売上金を使ってビットコインを購入できるようになっているので、自分のお金を入金してビットコインを買うよりも、さらにハードルが低いと感じていただけているのではないかと思います。

また、すでにメルカリやメルペイで本人確認手続きを完了していれば、すぐにビットコインを購入できるようになっているので、面倒な手続きも省けます。暗号資産に触れるためのハードルを下げて、多くの方に暗号資産を体験していただきたい、という思いをプロダクトに詰めこみました。

——その結果、「メルカリ」のビットコイン取引サービス開始から3ヵ月ほどで利用者数が50万人を突破しました。しかもそのうち79%の利用者が初めての暗号資産取引です。2022年のデータでは、国内の暗号資産口座新規開設数は月間で6万口座ほどなので、これは驚異的な数字ではないでしょうか。

中村:まずはポジティブに受け入れていただいたということで、とても嬉しいですね。

サービス提供開始時から引き続き、口座開設いただいたお客様の約8割が当社で初めてのビットコイン取引を体験いただいており、多くの方々が我々のサービスを通して暗号資産の世界に参加いただいていることは嬉しいことだと思います。

また、提供を開始して3ヵ月強ですが、少しずつ、国内の暗号資産利用の裾野拡大に貢献できていると感じます。

ただ、現在日本国内の取引所で開設されている口座は合計で700万ほどで、割合としては全人口の5.5%でしかありません。多いように思えるかもしれませんが、実はこの割合は世界全体のランキングでみると30位ほどなので、日本は先進国のなかでは暗号資産が広まっていない国ということになります。

なので今後もサービスを通じて、暗号資産やブロックチェーンを体験し、知っていただけるような提案を積み重ねていくことが重要であると考えています。

▶︎メルカリの売上金
メルカリで商品を販売して得た販売利益のこと。メルカリ・メルペイ決済・銀行口座への出金が可能。


「ビットコインを買う」体験の次は「ビットコインを使う」 体験を
メルカリは、Web3.0に対する不安を1つずつ取り除いていく

——世界ではすでにDeFiやNFT、GameFiなど、ブロックチェーンを活用したさまざまなサービスが誕生しています。今後、どのようなサービスを提供していく予定ですか?

中村:ブロックチェーンを活用したサービスは数多くありますが、それらを利用するために自身でウォレットを作って暗号資産を送って、といったことをするのは決して簡単ではありません。

そういった、いわゆるWeb3.0の世界を多くの方に体感していただきたいというのが我々の思いですし、将来的には我々のマーケットプレイスでビットコイン以外の暗号資産やNFTなども流通するようにしていきたいですね。

しかし、そこに至るまでにはまだ多くのステップが必要になります。まずは「ビットコインを買う・持つ」という機能は提供できたので、次は「ビットコインを使って支払う」というステップを用意したいと考えています。そうすれば、メルカリで初めてビットコインを買ってみたという方に、「暗号資産は通貨のような使い方ができる」というユーティリティ(有用性)を体験していただけることになります。

▶Web3.0
ブロックチェーンや暗号資産をベースにした分散型のシステム・サービス全般を指す言葉。Web3.0と対比して、特定の企業が運営するシステム・サービスはWeb2.0と呼ばれる。

——まずビットコインを持っていただき、次は「ビットコインを使う」体験をしていただくということですね。

中村:ビットコインなどの暗号資産には「通貨として使う」という明確なユーティリティがあるのですが、これまでは投機的な面ばかりが注目されてしまっています。実際のところ、日本ではビットコイン決済はまったく普及していないので、「通貨として使える」ことを実感する場所もほぼ存在しません。

一方で、米国などではすでに暗号資産決済は日本よりもはるかに広まっていて、スターバックスなどの大手チェーン店でビットコイン決済ができるようになっていますし、「PayPal」という決済アプリでビットコインが利用できるようになっています。

世界的に、決済手段としてビットコインが使われるようになるという時代の流れがあるなかで、日本は取り残されてしまっているのです。


Web3.0ならではの体験、 価値がある

——日本では、今も「暗号資産はただの投機」というイメージを持っている方が大半であると感じます。

中村:実際にビットコイン決済を体験していただければ、暗号資産がどういう風に役立つものなのかを実感していただけるはずです。

暗号資産だけではなく、NFTやdApps、DeFi、GameFiといったWeb3.0のプロダクトは、 投機的な面が注目されがちですが、 それを取り除いても多くの魅力を持っていますし、Web3.0だからこそ得られる体験や価値があります。

しかし、それを実際に経験できなければほとんどの方に伝わりませんよね。我々はそういったWeb3.0の魅力的な面を、実際に体験していただける形で提供していきたいと考えています。

——NFTについては、まさに「ユーティリティの有無」が重要視され始めています。最近ではジェネラティブアートを始めとした多くのNFTの価格が下落し、「NFTブームは終わった」といった意見もあります。

中村:ユーティリティがないNFTは投機的な思惑による取引がメインになるので、必然的に価格もバブルのように高騰・暴落してしまうことを、多くの方が認識するようになっています。

本来、NFTは「唯一性の証明」や「存在の証明」といったことができる技術で、それによってデジタルデータの価値を交換できるようになるなどの魅力があります。

今後、そういった部分を活用してユーティリティがあるNFTが登場してこないと、この技術を使う意味がありませんし、事業としても成立しないでしょう。現在は過渡期であって、どのような方法がNFTの活用方法として正解なのかはまだみえていません。

業界全体として突破口を探っている段階なので、我々としてもその動きを注視しつつ、時期を見計らってあらたなNFT事業を展開できれば、と考えています。

▶ジェネラティブアートNFT
プログラムなどにより自動生成された画像のNFT。代表例は「CryptoPunks」、「Bored Ape Yacht Club」。


メルカリがWeb2.0とWeb3.0をつなぐゲートウェイになっていく

——最後に今後の展望についてお聞かせください。Web3.0サービスの裾野を広げた先の未来で、メルカリグループはどのような存在になるのでしょうか? Web3.0はWeb2.0の敵であるといった意見もあるなかで、どのようにWeb3.0事業に取り組む予定ですか?

中村:Web3.0とWeb2.0は必ずしも敵対関係にあるわけではなく、将来的には両方が同時に存在する世界がやってくるであろうと考えています。たとえば高級品を売買する時に、Web3.0的なシステムを使って個人間取引をするのは不安であると感じる方は多いでしょう。

そういう時は、信頼できるプラットフォームとしてメルカリのようなWeb2.0サービスを使って仲介してもらった方が便利で安心できるはずです。一方で、古着などの安価なものを売買する時などは、仲介サービスを使わずに直接やり取りしても良いと考える方もいるでしょう。

このようにWeb2.0とWeb3.0が共存する未来が訪れた時に最も重要になるのは、Web2.0とWeb3.0の行き 来を、簡単でシームレスなものにすることです。そのために、今はWeb2.0を主戦場にするメルカリが、お客様をWeb3.0へとつないでいく、というチャレンジをしている段階といえるでしょう。

そうやって、我々がWeb2.0とWeb3.0をつなぐゲートウェイになっていくのが大きな目標です。メルカリを通じてビットコインを買い、次にビットコインを使うようになり、というように少しずつWeb3.0の世界がみえてきて、気づけば誰もが簡単にWeb3.0のサービスを利用している、という未来を私は思い描いています。



Profile


中村奎太│Keita Nakamura
大学在学中にインターン生としてサイバーエージェントでプログラミング教育サービスの立ち上げや、DeNAで動画サービスでの感情分析基盤導入などを行う。その後、メルカリの研究機関「R4D」 にインターン生として参加。2018年に新卒入社後はブロックチェーンエンジニアとして、R4D内で進められていた「mercariX」プロ ジェクトに携わる。その後、グループ会社であるメルペイへ異動し、分散台帳開発やAML SYSTEMチーム、金融新規事業(Credit Design)にてPMを担当。2021年4月よりメルコインに所属し、Product部門のDirector、CPOを経て、2023年4月より現職。現在30歳。

◉メルコイン
2021年4月設立(株式会社メルカリ100%子会社)。メルカリグループの暗号資産やブロックチェーンに関するサービスの企画・開発を担っている。



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