ではなぜ今レバレッジ改正に本気度をもって取り組むのか。その大きな理由としては2点あると考えている。
1つは各暗号資産取引所の運営状況だ。
ご存知の通り、今もなお暗号資産市場では取引が思いのほか活発化せず、「冬の時代」などと揶揄されている。
価格面でいえば年初より改善しているものの、その後は横ばいで推移することも珍しくなく、つい先日にはビットコインの現物取引は約6年ぶりの低水準を記録した。価格面の低迷から世間の暗号資産に対する関心が減退していくなか、それに追い討ちをかけるようにレバレッジ市場の縮小は着々と進んでいく。
このような背景があり、主要取引所を始めほとんどの国内暗号資産取引所は赤字を垂れ流している状況だ。取引所にとって貴重な収益源の1つである暗号資産の新規取り扱いが現在は緩和されたためまだマシな方だろう。もし規制が厳しいままであればさらに悲惨なことになっていたかもしれない。
そこで白羽の矢が立ったのがレバレッジ改正だ。
先述したJVCEAの資料にもあるように、2022年度の暗号資産の現物取引金額はビットコインで7兆169億円となっている。これに対して、レバレッジ取引は12兆8,802億円を記録している。つまり、ビットコインに限っていえばレバレッジ取引の方が多くの金額が動く市場となっているのだ。
過去5年でみれば、ビットコインの現物取引よりもレバレッジ取引の方が圧倒的に取引金額は高い。今後、ビットコインの現物ETFの承認可否や半減期など大型イベントを鑑みれば、ここに焦点を当て取引を活性化することが各社の事業を改善させる命運を握っているといっても過言ではない。
▶︎国内における暗号資産取引の状況(JVCEA「暗号資産取引についての年間報告」より引用)2つ目は、日本市場の国際的な存在価値向上だ。
JCBAの資料にもあるように、2017年におけるビットコインの取引量で日本は世界シェアの約50%を占める暗号資産大国であった。しかし、レバレッジ規制が敷かれレバレッジ倍率が2倍に制限された2023年現在ではたった1〜3%を占める程度にまで落ち込んでいる。
▶︎レバレッジ取引の現状(JCBA「暗号資産証拠金取引に係るレバレッジ改正要望」より引用)日本では業界団体を中心にWeb3.0を国家戦略にする動きがあり、それ自体は実現した。これからは事業者を中心に高いレベルでWeb3.0普及に向けた動きを具現化していくことが求められるが、そもそも現状人がいない市場でいくら頑張ったところで伸び悩むことは目にみえている。成長が見込めないとなれば当然いつか政府や政治家にも見限られ、それこそ業界の先行きは暗くなっていくことだろう。
やっと官民が協力し、大企業の関心も高まってWeb3.0を推進する体制が整ったことを踏まえれば、国内暗号資産市場への参加人口を増やし、国際的なイニシチアブを取り戻すために動きを強めるタイミングは今しかない。
日本は世界に先んじて暗号資産規制を整備したという優位性がある。現在世界各国で暗号資産規制を巡り動きが慌ただしくなっていることを考えると、日本は突き進むことができる限られた国の1つなのだ。
別の視点でみれば、Web3.0を国家戦略にしたにも関わらず国内暗号資産市場が今以上に活性化されなければ政府の面目が丸潰れになる。そのため、国内暗号資産市場の活性化と国際的な影響力拡大は“至上命令”に近いものであるとも考えられるだろう。