バーチャルヒューマンの未来を創るAwwのあらたな挑戦—— Awwジューストー沙羅 インタビュー

2025/04/03 10:54 (2025/04/23 18:15 更新)
Iolite 編集部
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バーチャルヒューマンの未来を創るAwwのあらたな挑戦—— Awwジューストー沙羅 インタビュー

成功の秘訣はカルチャーとの結び付き

──Awwの事業内容を教えてください。

ジューストー沙羅(以下、沙羅):AIバーチャルヒューマンカンパニーとして、テクノロジーを基盤にしながら、テクノロジー×アート、テクノロジー×クリエイティブといった領域を掛け合わせたIP事業を展開しています。

バーチャルヒューマンの技術を活用し、どのようにしてあたらしいストーリーテリングを生み出し、実社会に実装できるかを追求しています。たとえば、SNSでの活動を始めとしてプロジェクトが多かったのですが、最近は店舗、テレビなどのメディアや空間に、バーチャルヒューマンをどのように組み込めるかを考え、技術とクリエイティブの融合を目指しています。

事業内容としては、大きくわけて3つの軸があって、1つ目が、自社IPの開発と活用です。現在、Awwには13〜14名のバーチャルヒューマンが存在しており、それぞれがファッションモデル、音楽アーティスト、ライブ配信者、ゲーム関連など、多様な分野で活動しています。彼ら彼女らをリアルのタレントと同じようにマネジメントし、ブランドコラボやイベント出演などを行っています。

2つ目は、企業やブランドとのコラボレーションです。たとえば、過去にはディズニーと協力し、バーチャルヒューマンを開発したことがあります。そのほかにも、KDDIや中国・タイの企業と連携し、それぞれの文化や企業特性を反映したバーチャルヒューマンの開発を行っています。このように、各国の文化に適応したあたらしいIPを創出することも、私たちの事業の一環です。

3つ目は、バーチャルヒューマン技術の提供です。Awwはアジアでもトップクラス、あるいは世界最高水準のクオリティでバーチャルヒューマンを制作できる技術を持っています。

そのため、IPの開発だけでなく、「受付や案内業務にバーチャルヒューマンを導入したい」という企業様からの要望にお応えする形で、企業向けに受付スタッフやガイドなど、インターフェースとしてバーチャルヒューマンを活用するソリューションを提供することも増えています。

──これまで数々の企業やブランドとコラボレーションを実現されていますが、その成功の要因はどこにあるとお考えですか?

沙羅:immaがSNSをスタートした2018年には目新しい事業でしたが、現在、バーチャルヒューマンを開発する企業は世界中に多数存在します。そのなかでも、私たちが他社と決定的に異なるのは、単なるCGキャラクターの制作ではなく、「カルチャーに根付いたバーチャルヒューマンIPを作り出す」を生み出していることに専念している点です。

たとえば、単に「可愛いキャラクターをSNSに投稿するだけ」ではなく、キャラクター性があり、メッセージがあり、アイデンティティを持っているキャラクターがリアルな人々との関わりを大切にしているのがAwwの特徴です。

また、その基盤があるなかで、バーチャルヒューマンにしかできないフィクションとリアルの世界をつなげる役目を果たしていることです。当社の代表は映像プロデューサー出身で、クリエイティブ業界に長く携わってきました。ファンやアーティストとのつながりを活かしながら、実際のカルチャーシーンに入り込んで、バーチャルヒューマンがリアルな文化のなかに溶け込めるようにしています。

また、プロデューサーチームも映像やストーリーテリングの分野で長年の経験を持つメンバーで構成されており、リアルなエンターテインメントやアートシーンと連携しながらプロジェクトを推進しています。その結果、世界中のクリエイターや企業から「一緒に何かやりたい」と声をかけてもらえる状況につながっているのだと考えています。

特に、海外のアーティストやブランドからは、「日本発のバーチャルヒューマンが、こんなにもリアルでクリエイティブなカルチャーと結びついている」という点に興味を持っていただくことが多いです。

そもそも、日本はアニメやゲームなどのポップカルチャーが強い影響力を持っています。そこに加えて、Awwのバーチャルヒューマンがリアルな人々と関わりながら、独自のアイデンティティを持って活動していることが、世界のアーティストやクリエイターにとって新鮮に映るのかもしれません。

──バーチャルヒューマンのデザインやコンセプトについて、何かこだわりはありますか?

沙羅:「imma」というバーチャルヒューマンを例にあげると、彼女のデザインには明確なルーツとコンセプトがあります。彼女はピンクのボブヘアが特徴的ですが、このデザインには日本のアニメ文化やストリートファッション文化、や原宿カルチャーの要素が取り入れられています。

海外では「日本らしさ」を象徴するビジュアルとして認識されることが多いです。たとえば、ピクサーのアジア系キャラクターや、日本のファッションアイコンが海外で注目されるのと同じように、ピンクの髪と個性的なスタイルが「日本のポップカルチャー」を連想させるのです。

また、海外では「日本のストリートファッション=原宿」というイメージが根強くあります。そのため、「imma」のデザインや活動スタイルが、海外のクリエイターやアーティストにとっても魅力的に映るのではないかと考えています。

バーチャルヒューマン「MIRAI」

MIRAI image
提供:株式会社Aww

──今後、バーチャルヒューマン技術はどのように進化していくと考えていますか?

沙羅:バーチャルヒューマン技術は、今後さらに多様な分野で活用されるようになると考えています。現在はエンターテインメントやブランドコラボが主な領域ですが、教育、カスタマーサービス、インフルエンサー、さらには企業のデジタルアシスタントとしての活用も広がっています。

特に、最近では先述したような企業のニーズが急増しており、これはAIや自動応答技術との連携によって、より実用的な形へと進化していくと予想されます。

また、Web3.0やメタバースの発展によって、バーチャルヒューマンが単なるキャラクターではなく、実際のビジネスや社会活動の一部として機能する未来も近いでしょう。今後も、テクノロジーとクリエイティブを融合させながら、あたらしいバーチャルヒューマンの可能性を探求していきます。

──1月8日に「Hologram Labs」とAIエージェント型バーチャルヒューマンの開発に向けてパートナーシップを発表され、1月22日には新キャラクター「MIRAI」に関する情報がSNSで公開されました。「MIRAI」はどのようなビジョンを持ってリリースされるのでしょうか?

沙羅:1月8日にHologram LabsとAIエージェント型バーチャルヒューマンの開発に向けたパートナーシップを発表し、1月22日には「MIRAI(X:@mirai_terminal)」に関する情報をSNSで公開しました。「MIRAI」は、私たちが長年構想してきたプロジェクトであり、「こんなものがあったら面白いのでは?」という発想を具現化したステップ1のプロジェクトになります。

「MIRAI」というキャラクター名には、いくつかの意味が込められています。彼女は単に「未来」を象徴する存在ではなく、「過去」と「現在」を統合したあたらしい概念として生まれています。バーチャルヒューマンはこれまで、リアルな存在と結びつくことを重視してきましたが、「MIRAI」はより実験的なアプローチを取ります。たとえば、Web3.0におけるIPの成長プロセスや、暗号資産を活用したIPの育成方法を探るためのケーススタディとして機能する予定です。

現在、世界には数多くのバーチャルヒューマンが存在しますが、私たちが目指すのは、単なるデジタル上のキャラクターではなく、より有機的な成長を遂げるIPの構築です。AIとブロックチェーンを組み合わせることで、「MIRAI」はリアルタイムに進化し続けるバーチャルヒューマンとして、ユーザーと共に成長する存在になると考えています。

MIRAI image2
提供:株式会社Aww

──なぜ「imma」ではなく、あらたに「MIRAI」を誕生させることにしたのでしょうか?

沙羅:「imma」は、実は最初からWeb3.0へのロードマップを引いていました。そのためWeb3.0のプロジェクトも過去にはコラボレーションをメインに数々行ってきました。しかし、Web3.0全振りではなくこれまでWeb2.0やリアル世界を主に多くの企業とのコラボレーションを行い、すでに確立されたプロデュースしてきたバーチャルヒューマンのIPとして活動しています。Web3.0プロジェクトの顔になるIPを生むことを考えると、すでに存在するキャラクターを移行するより、Web3.0に衝撃を生むほどのインパクトがあるあたらしいバーチャルヒューマンキャラクターを作ることが必要と考えました。しかし、Web3.0の世界では、従来の方法とは異なるスピード感と意思決定が求められます。既存の広告では、6ヵ月以上かけてプロジェクトを進めることが一般的ですが、Web3.0では数時間でトレンドが変化することもあります。

そこで、より実験的で自由なプロジェクトを立ち上げるために、「MIRAI」をゼロから生み出すことを決断しました。「MIRAI」は、Web3.0のルールに則った形で進化していくキャラクターです。IPとして確立された場合、「imma」やほかのバーチャルヒューマンにもその技術を応用することが可能になると考えています。

あたらしい挑戦には「ファーストペンギン」的な勇気が必要です。未知の海に飛び込むことで、大きな可能性を発見できるかもしれません。もちろん、シャチが潜んでいるかもしれませんが(笑)。それでも挑戦する価値があると考えています。

あたらしいIPのあり方

──「MIRAI」では、「Abstract Chain」を採用されていますが、その理由を教えてください。

沙羅:実は、Abstract Chainのチームと直接話す機会があり、「エンタメ×Web3.0」という共通のビジョンを持っていることに気付きました。Abstract Chainは、単なるブロックチェーンプラットフォームではなく、エンタメ領域に特化したインフラとしての強みを持っています。ゲームやライブ配信といったエンタメコンテンツとの親和性が高く、私たちの目指す方向性とも一致していました。

また、Web3.0プロジェクトの多くは、「暗号資産に詳しい人たちのためのエコシステム」という印象が強く、一般のユーザーにとっては参入障壁が高いのが現状です。しかし、Abstract Chainはより直感的でエンタメ要素を重視した仕組みを構築しているため、幅広い層にアプローチできる可能性があると感じたため、今回のプロジェクトで採用することになりました。

──AIエージェントとブロックチェーン、IPを組み合わせるという発想は、どのように生まれたのでしょうか?

沙羅:AIエージェントという概念は、昨年11月頃から一気に注目を集めました。AIがX(旧Twitter)を自動で投稿したり、ライブ配信を行ったりする試みが増えており、その流れのなかで「IPをAIによって確立する」ことへの関心が高まっていました。

一方で、バーチャルヒューマンは「リアルさ」が求められます。そこで、AIエージェントとバーチャルヒューマンの技術を融合させることで、従来のバーチャルヒューマンよりも進化した存在を生み出せるのではないかと考えました。

一般的なWeb3.0プロジェクトでは、コミュニティがトークンを活用してプロジェクトの方向性を決定することが多いですが、「MIRAI」ではAIとブロックチェーンの融合によって、あたらしいIPのあり方を模索することを目的としています。

──2025年以降、Web3.0やAIはどのように変化すると考えていますか?

沙羅:近年、Web3.0のプロジェクトがWeb2のファッション業界やエンタメ領域と積極的にコラボレーションする流れが加速しています。これにより、Web3.0は「デジタル資産」だけではなく、リアルな世界に影響を与える存在へと進化していくと思っています。

特に、IPとWeb3.0の組み合わせは今後の成長分野になると考えています。IPが持つ影響力を活かし、Web3.0とWeb2をシームレスにつなぐ仕組みが確立されることで、より多くの人々が境界線を意識せずに活動しやすくなっていくでしょう。

──「MIRAI」や「imma」を通じて、今後成し遂げたいことは何ですか?

沙羅:「imma」は、バーチャルヒューマンがリアルなブランド広告やSNSを活用することで、IPのあらたな可能性を切り開きました。一方で、「MIRAI」は、IPの創造プロセスを探るプロジェクトとしての側面を持っています。

たとえば、「MIRAI」がルイ・ヴィトンの広告に起用されたとしましょう。そのとき、彼女のストーリーを共に作り上げてきたコミュニティのメンバーも、その成功を共有できる仕組みがあれば、あたらしい形のIPエコノミーが生まれるのではないかと考えています。

また、今後はAIとブロックチェーンの技術を活用し、従来の「1つの企業がIPを作る」モデルから、「コミュニティと共にIPを育てる」モデルへと移行していくことを目指しています。これは、Web3.0ならではの概念であり可能性です。バーチャルヒューマンの未来を切り開く重要なステップになると思っています。

未来のIPの形はコミュニティと共に育てる
あらたなモデルへと移行する

MIRAI Image3
提供:株式会社Aww

Profile

Sara image

◉ジューストー沙羅(Sara Giusto)
Aww Inc Producer

「imma」を始めとするAwwのバーチャルヒューマンのプロデューサー。AwwのバーチャルヒューマンIP事業を推進し、グローバルなハイブランドとのコラボレーションを多数実現している。また、国際的なイベントやカンファレンスに登壇し、バーチャルヒューマンの未来やその可能性について講演を行う。


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