──ブロックチェーンとAIの連携について、現在どのようにお考えでしょうか。CardanoはSingularityNETなどのAIプロジェクトとも提携していますが、AIとブロックチェーンの実用的な融合に向けて進展していることや、今後期待しているユースケースがあれば教えてください。
ホスキンソン:これは、現在のテクノロジー分野における最大かつ最も興味深い市場機会の1つだと考えています。AIの登場によって、私たちがWebとかかわる方法そのものが根本的に変化しつつあります。今起きているのは、AIエージェントがブラウザのなかに組み込まれ始めているという現象です。これにより、「検索」と「広告」という2つの大きな領域が同時に再構築されつつあります。
まず「検索」についていえば、これまでの「答えが載っている場所を探す」という行為から、「直接、答えそのものを得る」という形に変わりつつあります。たとえば、「Perplexity」というサービスがその好例です。「日本で50歳以上の人のうち、暗号資産を保有しているのは何人か?」という質問をしたとしましょう。
これまではGoogleで検索し、複数のニュース記事や統計サイトを読み比べ、情報をつなぎ合わせて答えを導き出すまでに1時間はかかっていました。しかしPerplexityを使えば、ただ質問するだけで答えが返ってきます。まさに人々が求めていた「ダイレクトな情報取得体験」です。検索の仕組みが変わるだけでなく、情報の流れそのものを再定義する時代になっています。
さらに大きな変化が起きているのが、「商取引(コマース)」の領域です。私は以前、ブラジルのアマゾンに行くことになり、“完璧なジャングル帽”を探すのに9時間も費やしました。しかしAIエージェントが進化すれば、「この日程でアマゾンに行く予定です。訪問先はこちら。最適な帽子を推薦してほしい」、そう伝えるだけで、AIが最適な商品を自動的に提案してくれるのです。
この変化は、裏側で「広告のあり方」を根本から変えていきます。現在の広告は人間を対象として設計され、「この商品を買いましょう」「こちらはいかがですか」と訴求します。しかし今後は、「AIエージェントに対してどのように広告を出すか」という発想に変わっていきます。この点こそが、GoogleやMetaなどの大手テック企業を震え上がらせているのです。なぜなら、この流れに対応できなければ、彼らのビジネスモデルそのものが崩壊してしまうからです。
そのため、GoogleはすでにCoinbaseと協力し、「X402」というAIエージェント間プロトコルを開発しています。そして「Agentic Commercial Web(エージェント主導の商業ウェブ)」というあらたな概念を提唱しています。こうした変化のなかで、ブロックチェーンは2つの重要な役割をはたします。1つは支払いの基盤(ペイメントレイヤー)として、もう1つは調整の基盤(コーディネーションレイヤー)としてです。
今後は無数のAIエージェントが、ローカルからグローバルまであらゆる階層で存在し、それぞれ異なるポリシーや最適化ルールを持つようになります。その運用が公正かつ透明に行われていることを保証するためには、分散型で信頼できる仕組みが必要です。
私が望まないのは、ある企業が自分のAIエージェントを意図的に操作し、「Apple製品だけを推薦する」「Google製品しか表示しない」といった偏った提案を行うような状況です。
AIエージェントには商取引の意思決定や情報選別を委ねることになります。だからこそ、中立性と信頼性の担保が不可欠です。ブロックチェーンは、こうした不当な影響力を排除できる点で優れています。また、エージェントに経済的な主体性(Economic Agency)を与えることも可能です。
たとえば、独自にAIエージェントをチューニングし、特別なデータや学習を追加して差別化すれば、それを有料で提供できます。まるでスマートフォンアプリを販売するような感覚です。将来的には、「AIエージェント専用のマーケットプレイス」が登場するでしょう。たとえば「ブラジルのジャングルでの買い物に特化したエージェント」を3ドルで購入する、といった世界です。利用者は自分のニーズに最適化されたエージェントを手に入れ、装備や情報の最適解を即座に得られるようになります。
このようなエージェントの流通市場は、すべてブロックチェーン上で動作します。決済もブロックチェーンの決済チャネルを通じて行われるようになります。また、多くの場合、AIエージェントはタスクをこなすために「情報を購入」する必要が出てきます。
たとえば、有料ニュース記事や学術論文など、ペイウォールの裏側にある情報を参照する場合です。この時、エージェント同士がデータ利用料を支払う仕組みが求められます。それが、ブロックチェーンのレール上で行われるステーブルコインによるマイクロトランザクション(極小決済)になるのです。
この領域は、数兆ドル規模の巨大産業になるとみています。いわゆる「マグニフィセント・セブン」(GAFAM+αの世界的テック大手7社)は、この分野がもはや「選択肢ではなく、参入が必須」であることを理解しています。そのため、Facebook(現Meta)は年間で約600億ドルをAGI(汎用人工知能)の開発部門に投じています。
GoogleやMicrosoftも、それぞれ数百億ドル単位の巨額投資を行い、AI技術のすべての層(ハードウェアからモデル、サービス層に至るまで)で競争力を維持しようとしています。
また、主要企業の間ではすでに共通認識が形成されています。すなわち、「このあたらしいAIエコノミーをあらゆるスケールで機能させるためには、暗号資産(クリプト)が不可欠である」という点です。AIエージェント同士の取引、データ購入、マイクロペイメントなど、あらゆる経済活動の裏で暗号資産が決済インフラとして機能する──それが次世代インターネットの構造になると考えています。
AIとブロックチェーンの関係において、もう1つ極めて重要な側面がプライバシーです。AIエージェントは、利用者の嗜好や行動履歴など、非常に多くの個人情報を扱います。エージェントが高い精度で動作するためには、ユーザーに関する詳細なデータを理解している必要があります。しかし同時に、その情報が第三者に広く共有されるような状況は決して望ましくありません。
では、このようなシステムにおけるプライバシーはどのように保証されるべきでしょうか。ここでもブロックチェーンが重要な役割を果たします。ブロックチェーンは、プライバシーの取り扱いをルール化し、監督するための基盤として機能します。
実は、これが私たちがGoogle Cloudと提携したもう1つの理由でもあります。Googleは技術スタックのあらゆる層を網羅しており、一方で私たちは「Midnight」というプロジェクトを通じてプライバシー保護技術を持っています。この2つを組み合わせることで、GoogleのAIエージェント構想をさらに拡張し、ほかのシステムとの連携や統合を促進できると考えています。