AI経済には暗号資産が不可欠 規制、量子耐性、10年後の業界展望 | チャールズ・ ホスキンソン 独占インタビュー

2025/11/29 10:00 (2026/02/05 16:30 更新)
Iolite 編集部
文:Noriaki Yagi
SHARE
  • sns-x-icon
  • sns-facebook-icon
  • sns-line-icon
AI経済には暗号資産が不可欠 規制、量子耐性、10年後の業界展望 | チャールズ・ ホスキンソン 独占インタビュー

現在の米国は「追いつこうとしている」段階

チャールズ・ホスキンソン独占インタビュー | 3つの要点サマリ

1 | 米国規制は“追いつきフェーズ”へ

米国は過去4年、暗号資産業界に敵対的だったが、現在はステーブルコイン法制やMarket Structure Bill、Clarity Actなど大規模な立法プロジェクトが進行し「信頼回復のための法整備段階」に入っている。法律として明文化されなければ、政権交代のたびに方針が揺らぎ、業界が再び不信に陥るとホスキンソンは強調する。

2 | Google提携・量子耐性・AIエージェント経済──Cardanoの戦略軸

Cardanoはプライバシー特化チェーン「Midnight」を通じてGoogle Cloudと協業し、量子コンピュータに耐える次世代ブロックチェーンの共同研究を推進。AIエージェントが検索・広告・商取引を再構築する“次のインターネット”では、データ購入・マイクロペイメントに暗号資産が不可欠となり、DIDや選択的開示技術と組み合わせることで、プライバシーと規制遵守を両立できる基盤づくりを目指している。

3 | 日本市場への期待と、Cardanoの今後10年

日本は税制改革やステーブルコイン/RWA解禁など前向きな状況にあり、大企業の動き次第ではアジア最大級の市場になり得ると高評価。Cardano自身はWorkforce Leiosによる“60倍スループット”やマルチチェーン連携を進め、2035年にはブロックチェーンユーザー10億人超、ビットコイン100万ドル時代を見据え、政治・経済・社会インフラとしての役割拡大を描いている。


「攻撃の4年」から転換点へ──米国暗号資産規制のいまをホスキンソンが語る

──米国では、SEC(証券取引委員会)がCoinbaseやRippleへの訴訟を取り下げるなど、前向きな動きがみられます。また、政府の暗号資産への関与についても議論が進んでいます。こうした状況をどのようにみていますか?さらに、業界が本当の意味で成熟するためには、どのような規制上の課題が残っているとお考えですか?

チャールズ・ホスキンソン(以下、ホスキンソン):現在の米国は「追いつこうとしている」段階にあると考えています。過去4年間、バイデン政権のもとでは、政府全体が暗号資産業界を攻撃し、破壊しようとする姿勢を取ってきました。

主要な取引所は軒並み訴訟を受け、かつては「イーサリアムは証券ではない」と明確にされていた判断も取り消されました。政府は体系的に暗号資産関連企業を標的にし、銀行口座を次々と閉鎖しました。私自身も口座を失い、同様の被害を受けた企業は数十社にのぼります。

さらに、業界の著名人たちも次々と標的になりました。たとえば、Binanceの創業者であるチャンポン・ジャオ(CZ)氏は拘束され、4ヵ月間服役しました。そのほかにも、多くの人物が刑事・民事の両面で追及を受けています。こうした状況は非常に不健全であり、業界全体にとって不快かつ厳しいものでした。

そのため、今も多くの業界関係者が米国に対して強い不信感を抱いています。最大の疑問は、「現在の前向きな姿勢が一時的なものなのか、それとも本当に過去のやり方を改めたのか」という点です。米国が今後、暗号資産ビジネスに適した国となるのかどうかが問われています。

信頼と信用を回復するための唯一の方法は、法律を制定することです。法律として明文化されれば持続性が生まれ、たとえ将来、民主党政権に戻ったとしても、ゲーリー・ゲンスラー氏の時代のように暗号資産業界に逆行する政策を取ることはできません。

現在、米国では大規模な立法プロジェクトが進行しています。第一のステップは、ステーブルコインを「安全な枠組み(セーフハーバー)」のなかに位置づけることでした。なぜなら、ステーブルコインこそが暗号資産市場で最も重要な資産だからです。

次の段階は「Market Structure Bill ※1」です。これは、どの資産が「証券」に該当し、どの資産が「商品(コモディティ)」にあたるのかを明確に定義する法案です。ステーブルコインに関しては、「Genius Act(ジーニアス法案)」の成立によって大きな前進がありました。

この過程では多くの衝突や紆余曲折がありましたが、それらを乗り越えて成果を得ることができました。また、「Clarity Act(クラリティ法案)」も非常に複雑で困難な法案です。多くの要素が絡み合い、調整すべき点も多くありますが、現在の進行ペースであれば、11月までに本格的な審議を経て可決される可能性が高いとみています。

※1 デジタル資産・暗号資産を対象とする市場構造改革法案。米国において、暗号資産市場に対する監督・規制体制を明確化する狙い。特に、SECとCFTCという2つの主要な米国金融規制機関の管轄を改めて定め、重複・あいまいさを減らすことを目的としている。

「Midnight」を通じたGoogleとの協業

──最近、Cardanoのプライバシー重視型サイドチェーン「Midnight」が、Google Cloudと戦略的協業を開始しました。この提携の狙いと、Cardanoエコシステムにもたらす意義について教えてください。

ホスキンソン:とても興味深い協業です。ご存じの通り、Googleは世界最大級のテクノロジー企業の1つであり、自社のビジネスモデルをWeb3.0の世界へ拡張することに強い関心を持っています。その取り組みの一環として、私たちとのコラボレーションが始まりました。

最初のステップは、Googleが私たちの技術を深く理解することです。彼らはMidnightのバリデータ(検証者ノード)を運用し、コンセンサス(合意形成)や暗号証明の仕組みを学びながら、システムの構造を把握していきます。最終的には、こうした知見をもとにGoogle Cloudの顧客に利益をもたらすサービスへと発展させることを目指しています。

どのサービスをいつ展開するかは現在も協議中ですが、Googleが私たちの技術に精通することで、将来の実装や展開がよりスムーズに進むと考えています。これが提携の1つの側面です。

もう1つの側面として、Googleの科学者やエンジニアが、Linux Foundationを通じて進めている私たちの共同研究に参加する可能性についても議論しています。テーマは「次世代ブロックチェーン技術を量子コンピュータ時代にどう適応させるか」です。

現在のプライバシー保護技術は、量子コンピュータが存在しないことを前提に機能しています。しかし、量子コンピュータが実用化されれば、これまでの暗号技術は破られ、Zcash ※2を始めとする多くのシステムやロールアップ技術が機能しなくなります。

つまり、今語られているZK(ゼロ知識証明)とは「量子コンピュータが存在しない世界」を前提に成り立っているのです。では、量子コンピュータに対して耐性を持つシステムをどう再構築すればよいのか──それを実現するには、GoogleやIBMのような量子技術のリーダー企業との協力が不可欠です。

Googleには「Willow」という優れたプロジェクトがあり、IBMも「Qiskit(キスキット)」など複数の量子研究プロジェクトを推進しています。彼らは実際に量子コンピュータを構築しており、暗号理論と計算能力の両面で非常に深い理解を持っています。

私たちは現在、Midnightを含む複数の大企業とのオープンソース連合の形成について協議を進めています。この連合の目的は、量子耐性を持つあたらしいブロックチェーン技術を共同で開発することです。この取り組みを、私たちは「長期的な関係の始まり」と位置づけています。

どんなに大きなセコイアの木も、最初は小さな種から始まります。成長には時間がかかりますが、やがて成熟し、大きく花開くと信じています。彼らと共に働けることは非常にエキサイティングです。

Googleのチームは非常に優秀で、AIを始め業界の主要技術に深い知見を持っています。また、Googleはオープンソースの精神においても卓越しており、数百にも及ぶプロジェクトを展開しています。私たちのスマートフォンを動かすAndroidもその代表例です。つまり彼らは「オープンソースの哲学」や「良き協働者としてのあり方」をよく理解しているのです。

もちろん、私たちが話をしているのはGoogleだけではありません。いわゆる「Magnificent Seven(マグニフィセント・セブン)」、世界の巨大テック7社の内の企業とも、すでに複数の協議を進めています。このGoogleとの提携について特に公表しているのは、これが最初の正式な発表だからです。今後数週間から数ヵ月の間に、さらに複数のあたらしい提携を発表する予定です。

Charles Photo1

※2 Zcash(ジーキャッシュ)は、プライバシーを重視した暗号資産で、2016年にビットコインのコードベースからフォークして誕生した。最大の特徴は、zk-SNARKs(Zero-Knowledge Succinct Non-Interactive Argument of Knowledge)というゼロ知識証明技術を使用していることで、取引の詳細(送信者、受信者、金額など)を公開せずに、取引が有効であることを証明できる。

AIエージェントとブロックチェーンの融合

──ブロックチェーンとAIの連携について、現在どのようにお考えでしょうか。CardanoはSingularityNETなどのAIプロジェクトとも提携していますが、AIとブロックチェーンの実用的な融合に向けて進展していることや、今後期待しているユースケースがあれば教えてください。

ホスキンソン:これは、現在のテクノロジー分野における最大かつ最も興味深い市場機会の1つだと考えています。AIの登場によって、私たちがWebとかかわる方法そのものが根本的に変化しつつあります。今起きているのは、AIエージェントがブラウザのなかに組み込まれ始めているという現象です。これにより、「検索」と「広告」という2つの大きな領域が同時に再構築されつつあります。

まず「検索」についていえば、これまでの「答えが載っている場所を探す」という行為から、「直接、答えそのものを得る」という形に変わりつつあります。たとえば、「Perplexity」というサービスがその好例です。「日本で50歳以上の人のうち、暗号資産を保有しているのは何人か?」という質問をしたとしましょう。

これまではGoogleで検索し、複数のニュース記事や統計サイトを読み比べ、情報をつなぎ合わせて答えを導き出すまでに1時間はかかっていました。しかしPerplexityを使えば、ただ質問するだけで答えが返ってきます。まさに人々が求めていた「ダイレクトな情報取得体験」です。検索の仕組みが変わるだけでなく、情報の流れそのものを再定義する時代になっています。

さらに大きな変化が起きているのが、「商取引(コマース)」の領域です。私は以前、ブラジルのアマゾンに行くことになり、“完璧なジャングル帽”を探すのに9時間も費やしました。しかしAIエージェントが進化すれば、「この日程でアマゾンに行く予定です。訪問先はこちら。最適な帽子を推薦してほしい」、そう伝えるだけで、AIが最適な商品を自動的に提案してくれるのです。

この変化は、裏側で「広告のあり方」を根本から変えていきます。現在の広告は人間を対象として設計され、「この商品を買いましょう」「こちらはいかがですか」と訴求します。しかし今後は、「AIエージェントに対してどのように広告を出すか」という発想に変わっていきます。この点こそが、GoogleやMetaなどの大手テック企業を震え上がらせているのです。なぜなら、この流れに対応できなければ、彼らのビジネスモデルそのものが崩壊してしまうからです。

そのため、GoogleはすでにCoinbaseと協力し、「X402」というAIエージェント間プロトコルを開発しています。そして「Agentic Commercial Web(エージェント主導の商業ウェブ)」というあらたな概念を提唱しています。こうした変化のなかで、ブロックチェーンは2つの重要な役割をはたします。1つは支払いの基盤(ペイメントレイヤー)として、もう1つは調整の基盤(コーディネーションレイヤー)としてです。

今後は無数のAIエージェントが、ローカルからグローバルまであらゆる階層で存在し、それぞれ異なるポリシーや最適化ルールを持つようになります。その運用が公正かつ透明に行われていることを保証するためには、分散型で信頼できる仕組みが必要です。

私が望まないのは、ある企業が自分のAIエージェントを意図的に操作し、「Apple製品だけを推薦する」「Google製品しか表示しない」といった偏った提案を行うような状況です。

AIエージェントには商取引の意思決定や情報選別を委ねることになります。だからこそ、中立性と信頼性の担保が不可欠です。ブロックチェーンは、こうした不当な影響力を排除できる点で優れています。また、エージェントに経済的な主体性(Economic Agency)を与えることも可能です。

たとえば、独自にAIエージェントをチューニングし、特別なデータや学習を追加して差別化すれば、それを有料で提供できます。まるでスマートフォンアプリを販売するような感覚です。将来的には、「AIエージェント専用のマーケットプレイス」が登場するでしょう。たとえば「ブラジルのジャングルでの買い物に特化したエージェント」を3ドルで購入する、といった世界です。利用者は自分のニーズに最適化されたエージェントを手に入れ、装備や情報の最適解を即座に得られるようになります。

このようなエージェントの流通市場は、すべてブロックチェーン上で動作します。決済もブロックチェーンの決済チャネルを通じて行われるようになります。また、多くの場合、AIエージェントはタスクをこなすために「情報を購入」する必要が出てきます。

たとえば、有料ニュース記事や学術論文など、ペイウォールの裏側にある情報を参照する場合です。この時、エージェント同士がデータ利用料を支払う仕組みが求められます。それが、ブロックチェーンのレール上で行われるステーブルコインによるマイクロトランザクション(極小決済)になるのです。

この領域は、数兆ドル規模の巨大産業になるとみています。いわゆる「マグニフィセント・セブン」(GAFAM+αの世界的テック大手7社)は、この分野がもはや「選択肢ではなく、参入が必須」であることを理解しています。そのため、Facebook(現Meta)は年間で約600億ドルをAGI(汎用人工知能)の開発部門に投じています。

GoogleやMicrosoftも、それぞれ数百億ドル単位の巨額投資を行い、AI技術のすべての層(ハードウェアからモデル、サービス層に至るまで)で競争力を維持しようとしています。

また、主要企業の間ではすでに共通認識が形成されています。すなわち、「このあたらしいAIエコノミーをあらゆるスケールで機能させるためには、暗号資産(クリプト)が不可欠である」という点です。AIエージェント同士の取引、データ購入、マイクロペイメントなど、あらゆる経済活動の裏で暗号資産が決済インフラとして機能する──それが次世代インターネットの構造になると考えています。

AIとブロックチェーンの関係において、もう1つ極めて重要な側面がプライバシーです。AIエージェントは、利用者の嗜好や行動履歴など、非常に多くの個人情報を扱います。エージェントが高い精度で動作するためには、ユーザーに関する詳細なデータを理解している必要があります。しかし同時に、その情報が第三者に広く共有されるような状況は決して望ましくありません。

では、このようなシステムにおけるプライバシーはどのように保証されるべきでしょうか。ここでもブロックチェーンが重要な役割を果たします。ブロックチェーンは、プライバシーの取り扱いをルール化し、監督するための基盤として機能します。

実は、これが私たちがGoogle Cloudと提携したもう1つの理由でもあります。Googleは技術スタックのあらゆる層を網羅しており、一方で私たちは「Midnight」というプロジェクトを通じてプライバシー保護技術を持っています。この2つを組み合わせることで、GoogleのAIエージェント構想をさらに拡張し、ほかのシステムとの連携や統合を促進できると考えています。

業界に欠けているピースと未来像

──分散型ID(DID)はW3C(※1)で標準化され、現実の商取引や行政サービスへの応用が期待されています。Cardanoが取り組むDIDソリューション(たとえばAtala PRISM)は、医療、選挙、教育、金融などの分野でどのような変革をもたらすと考えていますか。ブロックチェーン上で信頼性とプライバシーを両立した身分証明や資産管理が可能になる未来像についてお聞かせください。

ホスキンソン:これは、現在の業界において「最も重要で、まだ欠けているピース」だと思います。そして、この課題は1つの視点だけで解決できるものではありません。

ご指摘の「標準化」という観点は確かに重要ですが、それだけでは不十分です。IDを計算可能なオブジェクトとして扱い、かつ経済的主体性(エコノミック・エージェンシー)を持たせるための普遍的な仕組みが必要です。さらに、各国の法制度の下でこれを承認し、KYC(本人確認)やAML(マネーロンダリング防止)との整合性を取る必要もあります。

技術や規制の枠組みを整えるだけではなく、消費者が実際に使えるようにするための「ユーザー体験」も欠かせません。たとえば、生体認証(バイオメトリクス)や資格の失効管理(リボケーション)などです。

これらがすべて統合されて初めて、真に実用的なシステムになります。そうでなければ、せいぜい半分程度しか使われず、結局はパスポートや運転免許証などの中央集権的な手段に戻ってしまうでしょう。

もう1つ重要な論点は「普遍性(ユニバーサリティ)」です。DIDは人間だけのためのものなのか、それともAIエージェント、在庫管理、サプライチェーン、さらにはIoTセンサーなど“非人間的な存在”にも適用できるものなのか。この点は非常に本質的です。

DIDの優れている点は、1つの識別子であらゆる対象を扱えることです。これが実現すれば、DIDは真に普遍的なIDとなり、極めて有望な標準になります。ただし同時に、それは実装の複雑さを増すことを意味します。より多くのシステムが連携し、より多くの関係者が対話し、調整する必要があるからです。

技術面については、すでにかなり完成に近づいています。選択的開示(Selective Disclosure)、ゼロ知識証明の統合、匿名認証(Anon Credentials)といった要素はすでに実現済みです。今後は、業界全体で「規制当局による承認」を求めていく段階に入ります。

たとえば、「日本の金融庁(JFSA)はDIDを認めるのか?」「米国のSECはどう扱うのか?」といった議論です。日本の例でいえば、現在「円建てステーブルコイン」を巡る議論が進んでいます。重要な論点の1つは、「円ステーブルコインの利用に実名のIDを必須とすべきか」という点です。規制当局の意図は理解できます。匿名性を残したままでは、不正取引の温床になる可能性があるからです。

しかし、すべての利用者の身元を完全に把握しつつ、それを“ディストピア的な監視社会”にしないよう運用するのは大きな課題です。その解決策が、DIDの選択的開示機能です。ウォレットにDIDを紐づけることで、一般には非公開のまま、必要に応じて金融庁(JFSA)などの規制機関にのみ開示することが可能になります。

こうした議論は、いわば「成熟した大人の議論」です。特に、現実資産(RWA:Real World Assets)の分野で活発に進められています。証券やコモディティ、不動産といった実世界の資産をトークン化する際には、もともと強固な所有履歴(プロヴェナンス)と本人確認が必要とされるため、DID技術との親和性が非常に高いのです。

そして、これこそが私たちがMidnightを開発したもう1つの理由でもあります。市場には、選択的開示やプライバシー管理を扱うための仕組みが不足していました。どの情報を公開し、どの情報を非公開にするのか。また、どの条件下でどの範囲まで規制当局や監査機関に開示すべきなのか。それを柔軟にコントロールできるあたらしいレイヤーが必要だったのです。

Charles Photo2

業界の重鎮からみた日本市場

──日本でも暗号資産業界に追い風となる動きが出始めています。たとえば、暗号資産の利益に対する税率を最高55%から20%へ引き下げる方向で制度見直しが進んでおり、規制緩和への期待が高まっています。こうした日本市場の環境変化を、ホスキンソンさんはどのように考えていますか。

ホスキンソン:日本は、米国が暗号資産に「賛成」か「反対」かの態度を決めるのを見極める余裕がありました。その間、日本は韓国の市場構造法(いわゆる“基本法”)の動きや、シンガポール、ドバイ、アブダビの政策、EUのMiCA、スイスのFINMAの取り組みを注視してきました。いま日本は、自国の市場をどの程度まで開放するかを決断する局面にあります。

「開放」には2つの方向性があります。1つは水平的な開放で、より多くの資産クラスを受け入れることです。現状でもADA、ビットコイン、イーサリアムは取引できますが、DeFi関連トークンの取り扱いは難しく、新規トークンの上場には高いコストがかかります。

もう1つは垂直的な開放で、既存の暗号資産の採用と成長を深めることです。こちらは規制の設計に加え、税制の議論が不可欠です。税制面で不利であれば投資は集まりません。税率が55%の資産より25%の資産が選ばれるのは当然であり、人々を市場に呼び込むには強い誘因が必要です。

私たちの見立てでは、日本はこの二方向どちらにも前向きです。水平面では、ステーブルコインや現実資産(RWA)を経済の中核に据える道筋を模索しています。垂直面では、税率引き下げによる採用促進の意欲がみられますが、その際には適合性(スーツアビリティ)に関する明確なガイドラインが求められます。

日本の金融庁(JFSA)は、数年前から取引所規制を厳格に整備し、事業者の運営や顧客対応を強く監督してきました。この統制は制度として定着しており、消費者保護の仕組みは非常に強固です。市場に不適切な資産や経済に有害な動きがあれば、迅速に上場廃止を命じることも、返金や補償などの救済措置を強制することもできます。この迅速な介入力は日本市場の大きな特徴です。

一方で、カギを握るのは日本の大企業──いわゆる財閥の意向です。日本経済は大企業群が牽引しており、政府は彼らを重要なパートナーとして位置づけています。トヨタやソニーのような企業が、水平・垂直のどの領域でブロックチェーンを活用するかを決める必要があります。

たとえばトヨタは、サプライチェーンで部品や車両を追跡するためにブロックチェーンを使うのか。ソニーはすでに独自チェーン「Sonium」でこの領域に参入していますが、現状はシンガポール拠点です。これを日本国内にどう広げていくかが問われています。

ここからは企業側の議論と意思決定が重要になります。これまでは米国の出方待ちでしたが、いまや「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる巨大テック企業群が本格参入を進めています。日本企業も立ち止まっていられません。今後は、利回り商品、流動性、資金調達などの面で、特定の金融商品の解禁を求める形で、日本政府に対して大企業からの圧力が高まるでしょう。

日本経済は成長の起点を探しており、顧客から効率的に資金を集めるあたらしい手段が必要です。総合的にみると、今後2〜4年で日本の暗号資産市場は非常に良い局面を迎えると考えています。もっとも、2015〜2016年の“ワイルド・ウェスト”期の名残や、Mt.Gox崩壊前後の影響、さらに米国の規制不確実性の余波は一部に残っています。

それでも、現在の米国がプロクリプトへ舵を切りつつあることを踏まえると、日本でも議論が前進し、一定の調整(ホース・トレーディング)を経て、ポジティブな展開になるでしょう。

日本が本格的に動けば、韓国やシンガポールを飛び越え、アジア最大級で最も厚みのある市場になり得ます。実際、日本の真の競合は中国ですが、中国はこの市場から距離を置いています。本気になれば、日本がアジアの暗号資産市場を牽引することは十分可能です。

加えて、日本は文化・生活面での魅力が高く、西洋の起業家が移住して会社を興すハードルも低い。ドバイなどは訪問先としては魅力的でも、生活拠点としては文化的にハードルがあります。その点、東京や大阪は生活の快適さ、インフラ、大学、人材のすべてで世界有数です。私は常に日本に対して強気ですが、同時に日本の現実も理解しています。

日本で成功するには、日本企業とのパートナーシップが不可欠です。企業の歴史や伝統、市場構造のレガシーを尊重しなければなりません。米国のように、スタートアップが「MicrosoftやGoogle、Amazonを打倒する」といった勢いで単独突入しても通用しません。

過去からのパートナーとともに参入して初めて、市場の扉が開き、物事が動き出します。これはインドやヨーロッパでも同様で、米国はむしろ例外です。米国人の私たちは、その点を見誤り、うまくいかないと苛立つことがあります。

私自身、日本で暮らし、働き、プロジェクトを築いてきた経験から、日本のやり方を高く評価しています。そこには驚くほどの一貫性があり、日本政府と日本の人々が「動く」と決めれば、極めて決然と、しかも1つの声で動きます。

一方の米国は、動き出しても途中で止まり、政策は分断され、次の政権が前政権の方針を覆します。これでは3年、5年、10年といった長期計画が立てづらいのです。

私はむしろ、日本のように「ワンボイス、ワンポリシー」で10年、20年の方針を定めて進む方が好きです。たとえ進度は遅くても、その前提があれば戦略を描け、パートナーシップと信頼関係を着実に積み上げられます。そこにこそ、日本の最大の強みがあるのです。

Cardanoの課題と今後1〜2年で注力するマイルストーン

──Cardanoは現在、拡張性を高める「Basho期」に入り、Solana並みの高速処理やオンチェーン・ガバナンスの強化に取り組んでいます。今後1〜2年で特に注力すべき課題やマイルストーンは何でしょうか。

ホスキンソン:高速化だけを実現するのは簡単です。高性能なプロトコルは数多く存在します。同様に、安全性だけ、分散化だけを満たすことも難しくはありません。しかし、「高速・安全・分散化」の三つを同時に満たすこと——ここが最も難しい点です。

私たちはまず第一原理に立ち返り、「安全で分散化されたシステムを先に完成させる」ことに注力しました。現在のCardanoはその成果です。ただし、速度の面ではSolanaやSuiなどに及ばない部分があります。そこで、安全性と分散性を維持したままスケールを実現するために、数年にわたる研究開発を進めてきました。その成果が「Workforce Leios(レイオス)」です。

この技術は学術界とともに5年半かけて設計し、この1年はプロトタイプとシミュレーションに集中してきました。初期版は2026年に導入予定で、現行比で約60倍のスループットを見込んでいます。さらに、毎年設計をアップグレードし、継続的に性能を高める計画です。多くの倍増を重ねなくても、市場最速クラスに到達できる見通しです。

重要なのは、これだけの性能向上を図っても、Cardanoと同等の高いセキュリティ水準を保つ設計になっていることです。Cardanoは8年間にわたりノンストップで稼働してきました。他のネットワークが停止し手動リセットを要した事例と対照的に、この安定性こそが私たちのコア価値だと考えています。

もっとも、スケーラビリティは単に速度の問題ではありません。自分のチェーンの外側で起きることを前提に設計する「メタ・ブロックチェーン」の発想が必要です。ビットコインやイーサリアムで起きる出来事は、いずれCardanoにも影響します。そこで私たちは、クロスチェーンを前提とした取り組みを強化しています。

具体的には次のようなプロジェクトを進めています。

  • Intents(意図ベース取引)、ハイブリッドアプリ、Bitcoin DeFi、各チェーンの活動をまとめて証明するProof層/Proofシステムに大規模投資を行っています。
  • 取引は将来、「証明付きトランザクション」が前提になると考えています。発信元や意図が明確になり、信頼性が高まります。この分野では、NEARの意図プロトコルとの連携や、Midnightによる最先端ZK技術の統合が貢献しています。
  • HydraとLightning Networkを統合し、両ネットワークが相互通信する「Thunder Clouds」という新技術を開発中です。今後24か月は、メタスケーラビリティと相互運用性を最優先テーマとして推進します。

私たちの差別化は、マルチチェーンの世界を前提に構築している点にあります。Cardanoだけのエコシステムを目指しているわけではありません。実際、最近では「Cardanoそのものを使いたい」というより、Cardanoを開発レイヤーとして活用し、Taproot経由でビットコイン上にアプリを展開したいという声が増えています。そのためのコンパイルチェーンもすでに整備しました。

最終的に重要なのは、トランザクション数、TVL(総預かり資産)、ユーザー数といった実績です。私たちはそのスケールに耐える技術基盤を整え、サトシ・ナカモトの分散化の理念を守り続けています。分散度を測定可能な指標として扱い、エコシステムとして分散的な意思決定を行う——この運営姿勢は今後も維持していきます。Cardanoの見通しには大いに自信を持っています。

Charles Photo3

10年後のブロックチェーン業界とCardano

──今から10年後、2035年頃のブロックチェーン業界やCardanoはどのような姿になっているとお考えでしょうか。人々の生活やグローバルな金融システムにブロックチェーン技術がどのように溶け込み、Cardanoがどんな役割を果たしていたいか、ぜひ展望をお聞かせください。

ホスキンソン:2035年には、ブロックチェーンのユーザーは世界で10億人を超えていると思います。私は常にこの産業を、経済・政治・社会という3つのレンズでみています。

まず経済の観点では、証券や通貨の大半がブロックチェーン上で決済されるようになっているでしょう。各国は自国経済の規制や資金移動を支える基盤として、ブロックチェーンに大きく依存するようになります。

次に政治の観点です。ブロックチェーンは選挙や市民の権利保護の分野で活用されます。透明性、情報公開、公正な監視、改ざん耐性が求められる領域で、ブロックチェーンは不可欠な役割を果たすようになります。象徴的なのが、アルゴリズムによる規制です。法規制は紙からコードへ移行し、スマートコントラクトとして法律が執行される時代が現実味を帯びてきます。

社会システムの観点では、ブロックチェーンが「体験」と「プラットフォーム」の分離を実現します。現在の巨大SNSは、プロトコルとサービスの両方を単一企業が握っており、情報の流れを独占的にコントロールできてしまいます。こうした構造は反競争的であり、公平性を欠いています。

将来は、暗号プロトコル上にSNSが走り、Facebook.comのようなサービスは“ウォレット的な入口”として機能するようになるべきです。商業的な理由でプロトコルを操作することは、もはや許されなくなるでしょう。

私は、2035年までにこの経済・政治・社会の三領域すべてが変革を迎えるとみています。経済領域の転換は今後5〜10年でほぼ完了し、政治領域も反汚職改革やグローバル化の流れのなかで前進するはずです。世界が「ルールに基づく国際秩序」から「大国間競争」へと回帰するなかで、国際機関の裁定だけに頼ることはできません。

そこで、国家を超えた政治的構造としてのブロックチェーンが必要になります。ビットコインに一度記録された事実は、誰にとって都合が悪くても消すことはできません。この「ローカルな統治を超越する性質」こそが重要なのです。

社会システムの観点では、AIエージェントが変化の主役になります。検索や商取引のあり方が変わるなかで、AIエージェントとブロックチェーン決済が結びつけば、SNSやメディアも自然にそちらへ移行し、全体として再編が進むでしょう。

私はこのあたらしい経済に非常に強気です。価格の面では、ビットコインは来年に25万ドル、2030年までに100万ドルを超えるとみています。これは業界全体の先導指標(ベルウェザー)として機能します。

この産業は2030年までに10兆ドル規模、2040年ごろには50兆ドル規模に達し、金市場をも上回る巨大産業になる可能性があります。何十億人が関与し、毎日何十億件ものトランザクションが国家や世界経済を動かす──その仕組みが巨大な価値を持たないはずがありません。

また心強いのは、技術が課題に応え続けていることです。私たちは日々、あたらしいプロトコルや知識・IDの扱い方を更新しています。過去5年だけでも一般消費者向け実装で大きな前進がありました。たとえばSamsungのスマートフォンはKnoxによりウォレット機能を備えています。

iPhoneも5年以内、Google製端末も数年で同様になるでしょう。スマートフォンは生体認証や信頼できるハードウェアを搭載した個人識別装置であり、ウォレットの復元や商取引の安全な体験を支えるカギになります。

市場の規制も整備されつつあり、毎日数十億〜数百億ドル規模の取引を安全に実行できる環境が整っています。さらにその上に、保険やデリバティブなどのレイヤーを重ねることで、企業から個人まで利害を適切に保護できる体制が整っていくでしょう。

総じて、米国が再び建設的な立場に戻ったことは強力なカタリストです。そしてCardanoは、分散化の理念を守りながら、測定可能な分散度を重視し、エコシステムとして分散的に意思決定する運営を続けていきます。私たちは、マルチチェーン時代の基盤として、経済・政治・社会の再構築に貢献していきたいと考えています。


Profile

Charles Photo4

◉チャールズ・ホスキンソン(Charles Hoskinson)

カルダノ(Cardano)/Input Output Global創業者兼CEO

米国コロラド州を拠点とする数学者かつテクノロジー起業家。デンバーのメトロポリタン州立大学およびコロラド大学ボルダー校において解析的数論を学んだ後、実務を通じて暗号学の分野に関与するようになる。

暗号通貨分野においてはInvictus Innovations、Ethereum、IOHK(Input Output Hong Kong)といった複数のスタートアップを設立。また、公共部門および民間部門のさまざまな組織において要職を歴任し、Bitcoin Foundationでは初代教育委員会委員長を務めた。

2013年には暗号通貨研究グループを創設し、分散型技術の研究と推進に尽力している。2017年9月に始動した第3世代暗号通貨「Cardano(カルダノ)」の研究・設計・開発を主導しており、誰もがアクセス可能な暗号ツールの実現を目指している。


関連記事

「10年後の暗号資産の技術的な側面と活用領域に関する展望を知りたい方はこちら

▶︎ 専修大学教授 小川健氏〜暗号資産は投資対象としてだけではなく技術的な可能性を秘めている

Financial Academic Journal合同会社

分散型の未来を創る数学者が描く静かなる革命——カルダノ(Cardano)創設者チャールズ・ホスキンソン インタビュー

カルダノ(Cardano)とは?暗号資産(仮想通貨)エイダ(ADA)の特徴・価格・将来性を解説

SHARE
  • sns-x-icon
  • sns-facebook-icon
  • sns-line-icon
Side Banner
Side Banner
MAGAZINE
Iolite(アイオライト)Vol.18

Iolite(アイオライト)Vol.18

2026年3月号2026年01月30日発売

Interview Iolite FACE vol.18 Binance Japan 代表 千野剛司 PHOTO & INTERVIEW 申真衣 特集「Future Money ─価値移動の現在地─」「来たる暗号資産関連法改正」「IEOの実態」 Crypto Journey 「トレジャリーではない、イーサリアムの“エバンジェリスト”へ—— 「クシム」改め「HODL1」のDAT戦略の本質と覚悟」 、株式会社クシム代表取締役 田原弘貴 Interview 連載 「揺れる暗号資産相場を読み解く識者の視点」仮想NISHI 連載 Tech and Future 佐々木俊尚…等

MAGAZINE

Iolite(アイオライト)Vol.18

2026年3月号2026年01月30日発売
Interview Iolite FACE vol.18 Binance Japan 代表 千野剛司 PHOTO & INTERVIEW 申真衣 特集「Future Money ─価値移動の現在地─」「来たる暗号資産関連法改正」「IEOの実態」 Crypto Journey 「トレジャリーではない、イーサリアムの“エバンジェリスト”へ—— 「クシム」改め「HODL1」のDAT戦略の本質と覚悟」 、株式会社クシム代表取締役 田原弘貴 Interview 連載 「揺れる暗号資産相場を読み解く識者の視点」仮想NISHI 連載 Tech and Future 佐々木俊尚…等