イーロン・マスクが予言する「プログラミングという税金」が消える日

2026/02/13 12:27
Noriaki Yagi
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イーロン・マスクが予言する「プログラミングという税金」が消える日

今年中に、コーディングは死ぬ

2026年2月上旬、イーロン・マスク氏は登壇中のスピーチで「Code itself will go away in favor of just making the binary directly(コード自体は、バイナリを直接作るために消える)」と語った。

ソフトウェアは本来、読めるソースコードと実行されるバイナリの二層で成り立つ。前者は意図を共有し、後者は機械が動く。

LLMは強いが、ラストワンマイルの壁が存在

OpenAIはGPT-5.2やCodex向けモデルで自律的な開発支援を狙い、Google DeepMindもGemini 3で「agentic workflows(エージェンティック・ワークフロー)」、AIが単なる「物知りなチャットボット」から「自ら判断して動く代理人(エージェント)」へ進化したということを掲げている。

しかし現状は、生成はできるが、修正・改善・責任を持って扱うことはまだ難しいといわれている。

SWE-benchというAIが「本物のプロデューサーやエンジニアのように、実際のソフトウェア開発ができるか」を測定するための、世界で最も権威のある試験でも、正答率は大幅に向上したものの、複雑なリポジトリを跨ぐ論理矛盾を解消しきれていない。

加えてOpenAI自身が示す通り、ハルシネーション(自信ありげな誤り)は“完全には解き切れない”課題として残る。

現実的に起きそうなのは、「人間の言葉から、いきなり機械語へ飛ぶ」という世界ではない。その間には中間の翻訳ステップが入る可能性が高い。

現在のコンピュータの世界では、人間が読むコードと、コンピュータが直接実行する命令のあいだに、「中間の設計図」のようなものが存在している。これは、人間の意図を機械に正確に伝えるための共通フォーマットとして機能する。

実際、Google DeepMindが開発したAI「AlphaDev」は、人間がこれまで「絶対に必要だ」と思い込んでいたステップを省略しても、正しく、かつ高速に動作する手順を発見。人間が何十年も使ってきた基本的なプログラムの一部を、より速く動く形に改良した。

そしてその成果は、実際の標準ソフトウェアに採用されている。つまり、AIが人間よりも効率的な“内部構造”を設計する時代は、すでに始まっている。

透明性という課題

しかし、ここに大きな問題がある。もし最終的な「機械語」だけが存在し、その途中の設計図がみえなくなったらどうなるか。私たちはその仕組みを検証できなくなってしまう。

本当に安全なのか、改ざんされていないのか、誰が作ったのか――それを確認するのが難しくなる。

だから今、技術業界ではこのソフトはどこで、どのように作られたのかを証明する仕組みづくりが進んでいる。簡単にいえば、“食品の産地表示”のようなものだ。

AIがコードを書かなくなる未来が来たとしても、「信頼をどう証明するか」という問題はむしろ重くなる。コードがみえなくなるほど、その裏側の透明性は、より厳しく求められるということだ。

脳とコンピュータがつながる時代──便利さの先にある課題とは

Neuralink image1

マスク氏率いるNeuralinkは現在、長期的な安全性検証と、より複雑なUI操作への拡張フェーズにある。

少人数から始まった試験は、米国だけでなく英国にも広がっているようだ。実際に、思考によってカーソルを動かしたり、機器を操作したりする例も報告されている。

一方で、装置の性能が時間とともに低下したとの報道もあり、技術的にはまだ発展途上な点もいくつかありそうだ。

それよりも大きな問題は、技術そのものよりも“倫理”だろう。もし将来、「考えただけでソフトウェアが作られる」世界が実現したらどうなるか。

「本人は本当に同意しているのか」「脳のデータは誰が管理するのか」「思考が盗まれたり、操作されたりしないのか」こうした問いに、まだ明確な答えはない。

仕事は消えるのか?──問われるのは“証明する力”

生成AIが広がるなかで、「仕事がなくなるのではないか」という不安も強い。しかしILO(International Labour Organization)の見解では、AIは仕事を完全に奪うというより、「人間の仕事を補助する存在」として広がる可能性が高いとされている。

重要なのは、変化に合わせてスキルを更新し、社会として移行を支える仕組みを整えることだ。これから価値があがるであろうスキルは、「何を作るべきかを正確に定義する力」や「記録を残し、説明できるようにする力」なのかもしれない。

コードという視点でたとえるならば、「書く技術」よりも「責任を持って保証する技術」である。

「想像力」が唯一の資源となる世界

最後にマスク氏は、より抽象度の高い視点からこう語った。

「私たちは今、人類が1万年かけて築いてきた道具を作るというプロセスの終着点に立っています。『作る』という苦労が消えたとき、最後に残るのは人間の純粋な意志です。AIという魔法の杖を手に入れた私たちは、もはや技術的な制約を言い訳にすることはできません。

あなたは、何も制限がないとしたら、何を生み出しますか?コーディングが死ぬその日は、人類の「純粋な創造性」が試される時代の幕開けとなるはずです」

ここで彼が示しているのは、単なる技術進化ではない。実装コストの消滅によって、創造の責任が人間側に完全に戻ってくるという未来像なのかもしれない。


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