JPYC、日本初の円建ステーブルコイン「JPYC」発行開始 資金移動業登録を経て正式ローンチ

2025/10/27 13:46 (2025/10/27 14:42 更新)
Noriaki Yagi
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JPYC、日本初の円建ステーブルコイン「JPYC」発行開始 資金移動業登録を経て正式ローンチ

「JPYC(ジェーピーワイシー)」正式発行

JPYC株式会社は2025年10月27日、日本初となる日本円建ステーブルコイン「JPYC(ジェーピーワイシー)」(※1)の正式発行を開始した。

2025年8月に資金決済法第37条にもとづく「資金移動業者」(登録番号:関東財務局長第00099号)として登録を完了しており、これまで提供してきたプリペイド型トークン「JPYC Prepaid」から、円建ステーブルコインはあらたな段階に移行した。

※1 JPYCは「暗号資産」ではなく、資金決済法上の「電子決済手段」として定義される

法制度の整備と「オープンな円経済圏」の構想

JPYC Image 1

JPYCは2021年から前払式支払手段として円建トークンを展開してきたが、2023年の資金決済法改正により電子決済手段型ステーブルコインの発行が制度的に可能となった。

これを受けて同社は資金移動業者登録を取得し、正式な枠組みのもとで日本円建ステーブルコインの発行を実現した。

国内ではドル建ステーブルコインが依然として主流である一方、円建てトークンは国際送金・企業間精算・小売決済などへの応用余地が日本国内においては大きいと予想される。

同社代表の岡部典孝(以下、岡部)氏は「日本の通貨史に残る大きな分岐点だと考えている」「JPYCを誰もが利用可能なオープンな金融インフラとして広げることが、円のデジタル経済圏を築く第一歩である」と語っている。

JPYC EX:ノンカストディ構造の発行・償還プラットフォーム

発行と償還を担う公式プラットフォーム「JPYC EX(ジェーピーワイシーエクス)」は、ユーザーが自身のウォレットを管理するノンカストディ型で設計されている。

銀行振込で日本円を送金し、指定ウォレットへイーサリアム(Ethereum)、ポリゴン(Polygon)、アバランチ(Avalanche)など複数チェーン上でJPYCを即時受け取る仕組みだ。

名称の「EX」は“Exchange(交換)”を意味し、将来的には他通貨とのスワップや国際送金機能の拡張も視野に入れる。

JPYCは円と1:1で交換可能で、発行残高は預貯金及び日本国債により100%以上を保全。信託・供託による資産分別管理を行い、透明性と安全性を確保する。

不正検知機能を備えたトランザクション監視システムを導入し、AML / CFT(マネロン・テロ資金対策)にも対応。本人確認はマイナンバーICチップを用いた公的個人認証(JPKI)を採用する。

サービス開始とエコシステム拡大

JPYC EXは2025年10月27日13時にローンチ。当初はWeb3.0リテラシー層を対象にした限定的リリースを行い、段階的に一般層へ拡大する方針である。

開発者向けにはJPYC SDKがGitHubで無償公開され、残高照会やウォレット連携、オンチェーン送受信を実装しやすいように手配されている。

現行制度下では発行・償還の上限を1人1日100万円に設定しているが、第一種資金移動業取得も視野に入れており、大口対応を進める計画だ。POS連携の実証実験も進行中で、将来的にはリアル店舗での利用も想定される。

記者会見で語られた「円の新インフラ」構想

同日開催された記者会見で、代表の岡部典孝氏は「JPYCは日本の金融インフラを再定義するプロジェクトである」と強調した。ステーブルコイン市場は現在世界で約48〜49兆円規模に達し、そのうち99%が米ドル建てである。JPYCはこの偏重構造に挑む存在として、「円をデジタル経済圏の中核通貨に位置付ける」ことを目標に掲げる。

設計思想と事業構造

JPYCの最大の特徴は、ノンカストディ型であるという点だ。同社は顧客資産を預からず、発行されたJPYCはユーザー自身のウォレットに直接送付される。発行・償還・送金手数料は当面無料とし、裏付け資産の利息収入を主な運営原資とする。

裏付け資産は短期国債と預貯金の組み合わせで、将来的には国債8割・預金2割の構成を想定。金利が1%前後であれば3年後の目標とされる発行残高10兆円時に年間約1,000億円規模の収益が見込まれるとし、「手数料ゼロのデジタル円」を支える基盤となる見通しを示した。

一方、制度上は第二種資金移動業に位置付けられており、1回あたり100万円/1日までの発行・償還制限が存在する。

ただし、ウォレット間の送金・保有に制約はなく、100万円を超える高額送金も可能だ。今後は第一種登録による制限緩和も視野に入れているようだ。

国内外でのユースケース展開

JPYCはすでに複数の企業と連携を進めている。電算システムは全国65,000店超の決済ネットワークでのJPYC活用を検討し、アステリアは「ASTERIA Warp」への連携機能を開発中。HashPortは「HashPort Wallet」での対応を予定し、ナッジの「nudgeカード」ではクレジット代金をJPYCで支払う仕組みを導入する。

会見ではさらに、POS連携や開発者向けSDKの利用促進、会計・税務SaaSとの接続、決済代行(PSP)事業者による加盟店展開なども進行中であると明かされた。

国際展開とリスク管理

海外展開については、各国規制当局と連携しながら現地通貨との交換を可能にする方針を示した。また、将来的には外国通貨建てステーブルコインの日本発行にも意欲を見せ、「円をハブとした多通貨接続型の経済ネットワークを構築したい」と意欲を示した。

さらに、銀行型デジタルマネーとの共存にも言及。「銀行の信託型は制約が多いが安心感がある。当社は自由度の高さを武器に、AIエージェントや国際決済など新領域を担う」と語り、両者の補完関係を強調した。

リスク管理と制度面の展望

質疑応答のなかで問われたデペッグ(1JPYC≠1円)リスクについては、「預金先の分散」「短期国債中心の運用」「信託・供託によるユーザー保護」で対応するとし、発行体破綻時にも資産保全を確保する仕組みを整える。

また、不正利用アドレスのブロック機能やAML / CFT情報の業界横断共有など、セキュリティ強化策を説明した。

制度面では「電子決済手段の会計上の位置付けが金銭同等物として整理されれば、給与支払いなどあらたなユースケースが広がる」と述べ、法制度の進化とともに実利用領域を拡大していく意向を示した。

JPYCは、円の信頼とブロックチェーン技術を融合させる「日本発のデジタルマネー・インフラ」としてあらたな一歩を踏み出したといえる。

国内外のステーブルコイン市場が拡大するなか、JPYC社が“デジタル円”の社会実装を発行体というレイヤーで支えるか、今後の展開に注目が集まる。

参考:JPYC公式サイトJPYC株式会社JPYC SDK(GitHub)
画像:プレスリリースより引用

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