OpenAIの最高技術責任者(CTO)のミラ・ムラティ(Mira Murati)氏が25日、突然の辞職を発表した。同氏はChatGPTを開発するなど、OpenAIのCTOとして技術チームを6年半にわたり牽引してきた。
Xに投稿したコメントのなかで、熟考の末にOpenAIを辞めるという難しい決断をしたと綴った。CEOのサム・アルトマン(Sam Altman)氏はムラティ氏の退社に関して、Xに
「ムラティが私たちの築き上げ、達成に尽力してくれたことに私は多大な感謝の念を抱いていますが、なによりも、困難な時期に受けたサポートと愛情に個人的に感謝しています。彼女の今後の活躍に期待しています」と投稿した。
退社は以前から噂されていたが、急なものではないと思われていた。ムラティ氏はOpenAIの顔としての役割を担い、ここ数週間にわたりソフトウェア開発者向けのイベントで新製品のデモンストレーションを行ったり、同社の活動についてインタビューに応じたりして、同社の宣伝活動を行っていたためだ。
6月、ムラティ氏はダートマス大学での会談のなかで、芸術家や作家に対する誤解を招く可能性のある発言をした。OpenAIは作家や新聞の著作権を侵害しているとして提訴されている。ムラティ氏は
「クリエイティブな仕事の中にはなくなるものがあるかもしれないが、そもそもそういった仕事自体は存在すべきではなかったのかもしれない」と述べていた。
ムラティ氏はOpenAIの最高責任者の1人であり、彼女の退社により上層部の層はさらに希薄になる懸念がある。
昨年11月、取締役会がアルトマン氏を解任した後、ムラティ氏は暫定CEOに就いたが、5月時点ではOpenAIの主任科学者のイリヤ・スツケヴァー(Ilya Sutskever)氏が辞任していた。その理由は同社のAIの悪用に対する安全対策に対する懸念だ。その後同氏は安全なAI開発を行うSafe Superintelligenceを設立している。
同時期には元安全責任者のヤン・ライケ(Jan Leike)氏は、安全性が輝かしい製品の開発より後回しになっていると警報を鳴らし退社した。AI危険対策チームが「限界に達し」辞めることにしたという。そして共同創業者のジョン・シュルマン(John Schulman)氏も8月、アマゾン傘下のAI企業アンスロピック(Anthropic)に移った。
アルトマン氏、OpenAIの初の株主になる可能性
OpenAIは現在、1,000億ドルを超えるあらたな投資を計画している。マイクロソフトはすでに、新興企業の将来の利益の49%と引き換えにOpenAIに100億ドルを投資している。同社はさらなる資金をOpenAIに投入する予定のようだ。エクセルやワードにはすでにOpenAI開発のAIが導入されており、革新を起こしている。また、米国のベンチャーキャピタル(VC)ファンドで、特にテクノロジーおよびソフトウェア分野のスタートアップに対する投資を専門とするThrive CapitalはOpenAIに10億ドルを投資すると発表しており、NvidiaとAppleも資金調達ラウンドに参加する予定だ。
OpenAIはアルトマン氏に7%の株式付与と営利目的企業への転換を検討している。株式付与が決まればアルトマン氏は初のOpenAIの株主となる。AI開発には膨大な開発費が掛かる。資金付与企業、特にマイクロソフトはOpenAiが利益をあげることを望んでいる。アルトマン氏としても営利を優先せざるを得ない。しかしOpenAIは元々非営利団体であり、人類のためにAIを開発することを目的としてきた。
アルトマン氏の安全性より利益を優先する姿勢への懸念、さらに株式を持つことで権力を持ち、同氏の姿勢が優先されることを懸念、ムラティ氏が辞任には、この懸念が影響している可能性がある。
Mira Murati
参考:ミラ・ムラティ氏
画像:Shutterstock
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