暗号資産大国“ジパング”の復権なるか カギとなるレバレッジ改正

2023/10/20 18:00 (2025/06/04 19:08 更新)
Iolite 編集部
文:Shogo Kurobe
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暗号資産大国“ジパング”の復権なるか カギとなるレバレッジ改正

ビットコインのレバレッジ取引トップであった日本

暗号資産の世界で、かつて日本が覇権を握っていたといっても今ではなかなかイメージが湧かないかもしれない。だが、確実に“黄金の国ジパング”がそこには存在していた。

ビットコイン(BTC)が誕生したのが2009年1月。その翌年の5月22には10,000BTCでピザ2枚を交換したとして、今も語り継がれる“ビットコイン・ピザデー”を迎えた。そして王国の中心地となったマウントゴックス(Mt GoX)がビットコイン取引を始めたのもこの年だ。

かの有名なマルク・カルプレス氏が手腕をふるい、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長したマウントゴックスは、世界各国の暗号資産ユーザーが取引を行ういわば“国際貿易港”に。2013年には世界におけるビットコイン取引量の7割超を占めた。

しかし、2014年に明らかになった「マウントゴックス事件」をきっかけに同社は破綻。当時のレートで470億円以上のビットコインや顧客資金が盗まれ失墜した。

マウントゴックスでは2011年にも大規模なハッキング事件が発生しており、経営も傾きつつあったことから、いずれ沈みゆく船であったことは想像に難くない。しかしハッキング事件を契機に破綻したことは暗号資産、しいてはビットコインに対する民衆の心象を悪くしたといえる。

これを重くみた金融庁は暗号資産取引所を登録制にするなど、厳しい対応を行う。いわゆる世界で類をみない厳格な暗号資産規制が誕生した瞬間だ。これを契機に、暗号資産業界への参入を取りやめるスタートアップが続出。そして締め付けはさらに強まり、ユーザーの心はいつしか国内市場から離れていった。

縮小し続けるレバレッジ市場

暗号資産の自主規制団体であるJVCEA(一般社団法人日本暗号資産取引業協会)が9月29日に公開した2022年度(2022年4月~2023年3月)の「暗号資産取引についての年間報告」によると、国内暗号資産取引所は増加傾向にあり、その数は33にのぼった。また、国内における新規取り扱い銘柄数も19と急激に増え、総じてユーザーにとっては取引環境が改善しつつあるいえる状況となった。

一方、暗号資産のレバレッジ取引については2021年を境に大幅な減少が続く。これは2020年に施行された法改正が大きな原因となっている。

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▶︎暗号資産のレバレッジ取引の推移(JVCEA「暗号資産取引についての年間報告」より引用)

そもそも、暗号資産のレバレッジ取引の最大倍率はFXと同様の25倍であった。しかし、JVCEAが定めた規則に沿って軒並み2019年から最大倍率は4倍に移行。その後、2020年の法改正によって2倍へと引き下げられた。

少額の元手で大きな金額を動かすことができるレバレッジ取引はユーザーにとって魅力的な投資手段だ。また、それらのサービスを提供する取引所にとっても多くの手数料収益を見込める極めて重要な資金源ともいえる。それがたった2年で25倍から2倍にまで引き下げられた。さらに取引量も激減したとなれば取引所とユーザー双方にとってたまったものではない。

こうした不満が募り、ついに業界団体からも本気度の高い要望が寄せられた。JCBA(一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会)は9月26日、JVCEAに対して正式にレバレッジ倍率の改正に関する要望書を提出した。要望書では具体的な倍率について、「個別銘柄の過去のボラティリティに基づいて算出すべき」とし、今後議論を加速させるよう呼びかけを行った形だ。

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▶︎レバレッジ改正の要望(JCBA「暗号資産証拠金取引に係るレバレッジ改正要望」より引用)

JCBAやJVCEAがレバレッジ倍率の改正に取り組むという動きはすでにさまざまなメディアで報じられており、見方を変えれば要望書の提出は既定路線でしかない。JVCEAの小田玄紀会長が過去にフォーブスや業界イベントなどで語ったところによれば、同団体の各会員の要望を踏まえ早急に4〜10倍に倍率を引き上げたい思惑がある。

レバレッジ改正に動き出す2つの理由

ではなぜ今レバレッジ改正に本気度をもって取り組むのか。その大きな理由としては2点あると考えている。

1つは各暗号資産取引所の運営状況だ。

ご存知の通り、今もなお暗号資産市場では取引が思いのほか活発化せず、「冬の時代」などと揶揄されている。

価格面でいえば年初より改善しているものの、その後は横ばいで推移することも珍しくなく、つい先日にはビットコインの現物取引は約6年ぶりの低水準を記録した。価格面の低迷から世間の暗号資産に対する関心が減退していくなか、それに追い討ちをかけるようにレバレッジ市場の縮小は着々と進んでいく。

このような背景があり、主要取引所を始めほとんどの国内暗号資産取引所は赤字を垂れ流している状況だ。取引所にとって貴重な収益源の1つである暗号資産の新規取り扱いが現在は緩和されたためまだマシな方だろう。もし規制が厳しいままであればさらに悲惨なことになっていたかもしれない。

そこで白羽の矢が立ったのがレバレッジ改正だ。

先述したJVCEAの資料にもあるように、2022年度の暗号資産の現物取引金額はビットコインで7兆169億円となっている。これに対して、レバレッジ取引は12兆8,802億円を記録している。つまり、ビットコインに限っていえばレバレッジ取引の方が多くの金額が動く市場となっているのだ。

過去5年でみれば、ビットコインの現物取引よりもレバレッジ取引の方が圧倒的に取引金額は高い。今後、ビットコインの現物ETFの承認可否や半減期など大型イベントを鑑みれば、ここに焦点を当て取引を活性化することが各社の事業を改善させる命運を握っているといっても過言ではない。

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▶︎国内における暗号資産取引の状況(JVCEA「暗号資産取引についての年間報告」より引用)

2つ目は、日本市場の国際的な存在価値向上だ。

JCBAの資料にもあるように、2017年におけるビットコインの取引量で日本は世界シェアの約50%を占める暗号資産大国であった。しかし、レバレッジ規制が敷かれレバレッジ倍率が2倍に制限された2023年現在ではたった1〜3%を占める程度にまで落ち込んでいる。

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▶︎レバレッジ取引の現状(JCBA「暗号資産証拠金取引に係るレバレッジ改正要望」より引用)

日本では業界団体を中心にWeb3.0を国家戦略にする動きがあり、それ自体は実現した。これからは事業者を中心に高いレベルでWeb3.0普及に向けた動きを具現化していくことが求められるが、そもそも現状人がいない市場でいくら頑張ったところで伸び悩むことは目にみえている。成長が見込めないとなれば当然いつか政府や政治家にも見限られ、それこそ業界の先行きは暗くなっていくことだろう。

やっと官民が協力し、大企業の関心も高まってWeb3.0を推進する体制が整ったことを踏まえれば、国内暗号資産市場への参加人口を増やし、国際的なイニシチアブを取り戻すために動きを強めるタイミングは今しかない。

日本は世界に先んじて暗号資産規制を整備したという優位性がある。現在世界各国で暗号資産規制を巡り動きが慌ただしくなっていることを考えると、日本は突き進むことができる限られた国の1つなのだ。

別の視点でみれば、Web3.0を国家戦略にしたにも関わらず国内暗号資産市場が今以上に活性化されなければ政府の面目が丸潰れになる。そのため、国内暗号資産市場の活性化と国際的な影響力拡大は“至上命令”に近いものであるとも考えられるだろう。

5〜8倍ほどが焦点か

レバレッジ改正の要望書が提出されたからといってすぐに倍率が変わるわけではないことは多くのユーザーがわかっているはずだ。ここから議論を深めていき、実際に改正されるまでにはまだ時間を要する。

そして議論の中心となるのは「どこまで倍率を引き上げるか」だ。これについては、「おおよそ5〜8倍程度に落ち着くと思われる」(国内暗号資産取引所関係者)との声もある。FXも最大倍率は25倍だが、実際には6〜8倍程度で取引されることが多いとされる。こうした背景も踏まえ、まずはFXで実利用されている倍率に近づけることに注力する見込みだ。

また先述の関係者によれば、レバレッジ改正の音頭をとるにあたり、ある中堅取引所が特に声を強めていたようだ。各社によって要望に幅があることも踏まえると、まずはここでの調整を進めることとなる。その後、関係省庁等との本格的な調整が行われることだろう。

かつて暗号資産市場を牽引していた日本。今やその主導権は欧米へと移り変わっていった。そんな日本を再び“黄金の国”へと変えるには、税制改正よりもハードルが少々落ちるサービスに直接紐付いた制度改革にまず着手する必要がある。その1つの例が今回のレバレッジ改正だろう。

暗号資産大国の復権に向け、スピード感を持って改革を推し進めることが重要となっていく。

画像:Shutterstock、JVCEA、JCBA


Profile

◉Shogo Kurobe
2018年より暗号資産業界に参入。学生時代に文章を学び小説執筆などを行ってきた経験から暗号資産やブロックチェーンに関する記事執筆及び企画・編集に携わる。株式会社J-CAMで2022年4月より副編集長に就任し現職。2023年3月に「Iolite(アイオライト)」創刊。


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