実需と変化が交差した2025年のWeb3.0業界 相場の熱狂を越え、次なる成熟段階へ

2025/12/30 16:30
Iolite 編集部
文:Iolite 編集部
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実需と変化が交差した2025年のWeb3.0業界 相場の熱狂を越え、次なる成熟段階へ

大きな節目の年となった2025年

早いもので2025年も最終盤に差し掛かっている。ここ数年のWeb3.0業界は毎年のように大きな変革が訪れており、2025年においても再び大きな節目の年になったといえるだろう。

2024年が相場の熱狂と期待感に包まれた年であったとすれば、2025年はその反動と次なるステージに向けた足掛かりを見いだした年であった。しかし、それは停滞や後退といったネガティブなものではない。むしろ、Web3.0・暗号資産が制度と実需を伴い、既存金融などへ本格的に組み込まれ始めたという点で、業界にとって極めて重要な意味を持つものであった。

本稿では、2025年を象徴する出来事を中心に、この1年がWeb3.0業界にとってどのような年だったのかを振り返るとともに、2026年の展望についても触れていく。

第2次トランプ政権の発足と暗号資産政策の転換

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暗号資産に限らず2025年を象徴する出来事としては、米国における第2次トランプ政権の発足があげられる。トランプ大統領は就任直後から関税の引き上げや通商政策の見直しといった「米国第一主義」の考えを徹底し、強硬な経済政策を次々と打ち出した。特に対中関係の悪化は世界経済の見通しを一層不確実なものにし、為替や株式市場のみならず、各国の金融政策全体に緊張感をもたらした。こうした同氏の一挙一動が世界の金融市場を度々混乱に陥れ、暗号資産市場にもその影響が及んだことは誰もが覚えていることではないだろうか。

トランプ大統領といえば、昨年の選挙期間中から「Crypto President」を名乗り、暗号資産を国家戦略の一部として位置付ける姿勢を強調していたことでも知られる。その姿勢自体は政権発足後も変わることはなかった。

とりわけ注目を集めたのが、ビットコインを国家準備資産として保有する施策の本格化だ。これは、暗号資産が単なる投資対象ではなく、国家の金融・安全保障の文脈で語られる段階に入ったことを示す象徴的な出来事として捉えられ、昨年末から年初にかけての価格上昇にも期待としてあらわれていた。

しかし、現時点ではビットコインを追加購入するのではなく、あくまでも現在保有分を売却せずに備蓄にあてることにとどまっている。従来、トランプ大統領はビットコインの追加購入については消極的な姿勢をみせており、そのスタンスに変化がみられなかったことから、市場では失望感が広がった。

ビットコイン準備金の動向だけにフォーカスを当てれば市場の期待を裏切る形となったが、「米国を暗号資産の中心地にする」という公約実現に向けた動きについては積極的な姿勢がみられた。なかでも、暗号資産に関する3つの重要法案「クラリティー法案」「ジーニアス法案」「反CBDC監視国家法案」が議会に提出され、適切な規制整備に向けた動きを加速させたことは大きな意義がある。

ステーブルコインに関する規制の明確化を目的とした「ジーニアス法案」についてはすでにトランプ大統領の署名が完了した。これに伴い、米国を中心としてステーブルコインへの注目度は一層高まり、ビジネス領域における今後数年間にわたる重要トピックへと昇華している。暗号資産の包括的な規制枠組みを定める「クラリティ―法案」についても1月に上院で審議され、年初早々に決着がつく可能性が高まっており、本格的に米国が暗号資産領域での立ち位置を揺るぎないものとする可能性がある。

日本の暗号資産業界に大きなインパクトを与える税制改正と金商法移行議論

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国内に目を向けると、2025年はまさに“変革の兆し”がみえた年であると同時に、より規制の在り方について考える年になったのではないだろうか。

これまで業界が幾度となく要望してきた暗号資産税制の見直しが本格化し、先日発表された令和8年度税制改正大綱において、申告分離課税の導入に関する内容が記載された。暗号資産で得た利益は雑所得として扱われ、住民税とあわせた最大税率は55%にのぼるが、正式に導入されれば税率は一律で20%となる。これにより、これまで暗号資産に足を踏み入れてこなかった層の参入が一気に加速する可能性がある。

一方、この税制改正は現在議論が進められている暗号資産の金商法(金融商品取引法)への移行を前提としている。金商法への移行に伴い暗号資産を金融商品として位置付け、一部規制を強化することが見込まれている。具体的には、「発行者による情報開示義務の強化」「インサイダー取引・不公正取引規制」「無登録業者や海外サービスへの対応強化」などだ。このほか、投資家保護に焦点を当てた規制強化を踏まえ、日本でも暗号資産ETFが解禁される公算が高まっている。

多くのユーザーや業界人が期待していた制度改革だが、現行案では申告分離課税の対象となるのが暗号資産取引所における取引に限定されることや、暗号資産交換業者に義務付ける責任準備金の積み立てに関する基準および論点の整理など、議論すべき内容も非常に多い。良い側面もあれば、今後より議論を本格化させていく必要がある内容も盛り込まれていることから、改めて暗号資産規制の在り方と業界の未来について考えを巡らせるトピックであるといえる。

日本円ステーブルコインの初発行がもたらす意義

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世界的に注目されたトピックとして、2025年はステーブルコインの存在感が一段と増した年だった。ステーブルコインに関するトピックは、日本でも大きな話題となった。

国内では日本円ステーブルコインとして、JPYC社が手がける「JPYC」が初めて認可・発行された。JPYCは1JPYC=1円として使用することができる電子決済手段として発行され、12月16日には累計発行額が5億円を突破した。

日本では2023年に施行された改正資金決済法を受け、ステーブルコインの定義や発行に向けた準備が施された。それから約2年が経過し、ようやく1号案件が誕生したことは、日本のWeb3.0業界にとって待望の瞬間であったと同時に、ステーブルコインを軸としたあらたな金融インフラ構築に向けた出発点になったともいえる。

これまで日本のWeb3.0サービスや暗号資産ユーザーは、ドル建てステーブルコインに依存せざるを得ず、国内経済との接続において一定の限界を抱えてきた。円建てステーブルコインの登場はこうした構造的課題を解消し、国内決済や送金、さらには企業間取引やWeb3.0サービスの実装を加速させる可能性を秘めている。

また、円という信頼性の高い法定通貨を裏付けとするデジタル通貨が市場に流通することは、日本経済全体にとっても意味が大きい。キャッシュレス決済やデジタル金融の次なる展開として、ブロックチェーン技術を活用した金融サービスが現実的な選択肢となり、国内外の企業や投資家が日本市場に注目する契機になり得るだろう。

暗号資産トレジャリー企業の栄枯必衰と潮流転換

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既存金融を巻き込む一大ムーブメントとなったのが、ビットコインを始めとする暗号資産を財務資産の一部として採用する「トレジャリー戦略」だ。この戦略は「DAT(デジタル資産トレジャリー)戦略」とも呼ばれ世界的に広がり、大きなトレンドとなった。日本においても例外ではなく、昨年よりこの戦略を取り入れているメタプラネットに追随する形で、さまざまな上場企業が暗号資産を財務戦略上の重要資産として位置付け、保有に向けた動きが加速した。

この戦略は特に既存事業が頭打ちとなり、株価の低迷がみられた企業を中心に採用する傾向がみられている。一時はこれらの企業がDAT戦略の採用を発表し、株価が大幅に上昇する現象も度々見受けられた。

しかし、2025年後半の暗号資産価格の下落により、こうした企業の戦略は大きな岐路に立たされた。

多くの企業にとって、ビットコインなどの暗号資産は直接事業収益を生む資産ではなく、あくまでバランスシート上に計上される保有資産となっている。そのため、価格下落によって含み損が発生すると、会計上の評価損や財務指標の悪化は避けられない。とりわけ上場企業の場合には株主や投資家への説明責任が重くのしかかり、市場からの評価が大きく揺らぐこととなる。

また、取得単価を下回る状況が長期化した場合、「いつまで保有を続けるのか」「追加購入によって平均取得単価を下げるのか」「一部を売却してリスクを縮小するのか」といった経営判断を迫られる局面にも直面する。だが先述したように、この戦略は資本力が乏しい企業の採用も目立つことから、平均取得単価を下げるための追加購入は決して容易なことではない。そのため、結果としてトレジャリー戦略そのものが経営の不確実性を高める要因となるケースも少なくなかった。

2026年の注目トピック

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2026年もさまざまな動きが加速するであろうWeb3.0業界だが、なかでも下記のトピックについて注目する必要があると考える。

  • 日本における暗号資産の金商法移行
  • 世界的なステーブルコイン活用動向
  • 米国中間選挙

前述の通り日本においては暗号資産の金商法移行に向け議論が加速しており、2026年の通常国会に関連法案が成立、2027年に施行される見通しだ。暗号資産の税制改正についても2026年の通常国会にて議論され、金商法よりも先に関連法案の成立が見込まれている。しかし、実際に申告分離課税へと移行するのは2028年1月以降になるとの見方が強い。これは暗号資産の金商法を前提としていることに加え、政府や各事業者における準備に時間を要することが要因として考えられる。

金商法の移行に伴い大枠が決められた後、政令や内閣府令でより詳細が固められていくことになるが、ここで現在論点となっている議題をどのように解決していくかが重要となってくる。そのため、2026年も引き続き暗号資産の金商法移行に関するトピックに注目する必要があるといえる。

また、ステーブルコインについても業界の内外において利活用の動きが加速するものとみられる。複数の大手金融機関らによれば、ステーブルコイン市場は2030年までに数兆ドル規模にまで成長するとの予測があり、すでに決済企業などによる参入事例が見受けられている。

日本においては、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行のメガバンク3行が日本円建てステーブルコインを共同で発行することを計画。SBIホールディングスもスターテイルとともに日本円建てステーブルコインを発行すると発表しており、「日本円ステーブルコイン」の覇権争いに向けた競争が激化するものとみられる。円建てステーブルコインの活用が国内外においてどこまで広がるかは未知数であるが、大きな可能性を秘めるトピックとして2026年も大きな注目を集めることが予想される。

最後に、2026年は米国において中間選挙が実施される。この選挙は現政権に対する中間評価の位置付けで行われることから、今後のトランプ政権を左右する大きなトピックとなる。万が一、共和党が敗北した際には、再び暗号資産を取り巻く規制整備の動きが鈍化するおそれがあり、暗号資産市場にも大きな影響が及ぶ可能性も考えられる。

選挙の結果は、トランプ大統領の政策にも影響を与える。それは暗号資産業界に限らず、混沌を極める世界情勢、そして世界経済にも必然的に波及していくことが予想される。米中間選挙の行方に、全世界が注目することになりそうだ。

次の春に向けどのような準備を施すか試される1年

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2025年のWeb3.0業界は、前年まで続いた相場の熱狂が一段落し、制度や実需といった現実に向き合う姿勢が前面に出た「実事求是」ともいえる1年だったのではないだろうか。

相場の視点でみれば、2024年にかけて続いた強い上昇トレンドは落ち着きをみせ、過度な期待が後退した。

もし昨年までを「長く続いた夏」になぞらえるのであれば、2025年はその暑さが和らぎ、秋の入り口に差し掛かった年だったといえるだろう。その上で、2026年は次の春に向けた準備を行う年となるのではないだろうか。

また、相場にとどまらず、前述したステーブルコインやブロックチェーンを活用したビジネスが現実の経済活動にどの程度浸透していくかにも注目が集まる1年になるとみる。特にステーブルコインにとっては、これまでの金融の常識を覆し、あらたな金融インフラとして定着するかどうかを占う重要な年になるだろう。

さらに、ブロックチェーンを基盤としたビジネスにおいても、「Web3.0であること」そのものが価値になる時代は終わりつつある。2026年に求められるのは、既存の仕組みと比べて何が優れているのか、どの課題を解決できるのかを明確に示せるプロダクトであり、実需に裏打ちされたサービスのみが生き残っていくことになるはずだ。

制度面でも、各国が暗号資産を金融システムの一部としてどう組み込むかを模索する動きは続くだろう。規制が進むことで自由度が失われる側面はあるものの、その一方で市場の信頼性が高まり、長期的な資金や事業が参入しやすい環境が整う可能性もある。2026年は、Web3.0が「自由な実験場」から「社会に組み込まれる技術」へと移行する過程が、より明確になる年になると考えられる。

熱狂の只中にあった時代は、確かに多くの可能性を示してきた。しかし、熱狂が落ち着いた後にこそ、その真価が問われる。

2026年は、これまでに咲いた数多の花から何を学び、どの種を選び、どのような形で次の成長につなげていくのかを、業界全体が試される1年になるだろう。

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