世界最大のクリプトカンファレンス「Token2049」イベントレポート

2025/10/10 17:00
Iolite 編集部
文:Noriaki Yagi
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世界最大のクリプトカンファレンス「Token2049」イベントレポート

総動員数25,000名以上

2025年10月1日から2日にかけて、シンガポールのマリーナベイ・サンズ周辺を主会場に開催された「TOKEN2049 Singapore」は、過去最大規模の25,000名を動員し、暗号資産(仮想通貨)・フィンテック・AI・規制当局・グローバル企業が一堂に会した。

かつての“投機の祭典”というクリプトカンファレンスの印象は薄れ、今年は明確に「制度」「実需」「信頼設計」が前面に出た回であったといえる。 

第一線で活躍する識者らによって、ステーブルコイン、RWA(リアルワールドアセット)のトークナイゼーション、DAT(Digital Asset Treasury)といったキーワードが全日程を通じて議論され、金融の基盤を置き換える「未来の解(こたえ)」が具体化しつつあることを示した。

機関マネーの流入──CMEからBinanceまで、「制度」と「流動性」の交差点

初日、最初にメインステージで行われたセッションには、CME、Bitwise、Circle、Binanceから4名が登壇し、機関マネーがどのようにデジタル資産市場へ浸透しているかを議論した。

CMEグループのティム・マコート(Tim McCourt)氏は、ETH、SOL、XRP先物の建玉残が過去最高を更新したと述べ、SOLはビットコインが約3年かかった水準に5ヵ月で到達したと報告。デリバティブ市場がエコシステムの流動性を底支えしている実態を示した。

また、Circleのヒース・ターバート(Heath Tarbert)氏は、ステーブルコインを「銀行の敵ではなくパートナー」と定義。USDCの準備資産は何十億ドル単位で銀行システムに預けられており、支払い用ステーブルコインは利息を払わず、ほかの資産への入口になるとし、銀行がUSDCと統合しあらたなトークン化金融商品を提供すべきだと述べた。

Heath Tarbert
Circle Heath Tarbert氏

そして、会場を沸かせたのがBinanceのリチャード・テン(Richard Teng)氏である。

「規制の明確化を受け入れたことで物語が変わった」と切り出し、機関のオンボーディングが前年比2倍以上に増加していると報告した。

その背景には、取引所という立場を超えたマーケット・プレイス型インフラへの転換がある。

Binanceは今年、「Crypto as a Service」を正式ローンチした。これは銀行や証券会社が自社ブランドで暗号資産取引を提供できるホワイトラベルモデルであり、KYCなどの規制対応は各社が行う一方、現物・先物・清算・流動性供給はBinanceが支える。 

テン氏はまた、中央集権取引所(CEX)と分散型取引所(DEX)の対立構図を否定し、「CeDeFi(Centralized + DeFi)」というハイブリッド路線を明確にした。

求められるコンプライアンスが厳しい機関投資家にはCEXが向くが、非カストディ製品やWeb3.0ウォレットなどを通じ、CEXとDEXの長所を融合させていくと説明。実際、同社の「Binance Web3 Wallet」はノンカストディアルウォレットとして急成長している。 

加えて直近2025年10月9日には、キャッシュレス決済大手のPayPayがBinance Japanに40%出資し資本業務提携を締結。両社は「PayPayマネー」で暗号資産の売買・出金が可能な連携を進め、日本発のWeb3.0金融サービス拡充を目指している。

同氏の締めくくりは、「政府や金融機関が当社を“流動性の基盤”として認識し始めた。世界3億人のユーザーに向けた共通インフラとしての信頼を築く段階にある」「CEXとDEXの共創が業界を成熟させる」というメッセージであった。

Richard Teng
Binance Richard Teng氏

制度対応と分散志向を二項対立ではなく連携とみなす視点が、Binanceのグローバル戦略の中核にある。

ステーブルコインのゴールデンエイジ──新興国の生活通貨からB2B決済の基盤へ

続くセッションでは、Tetherのパオロ・アルドイノ(Paolo Ardoino)氏、Paxosのチャールズ・カスカリラ(Charles Cascarilla)氏、Dragonflyのロブ・ハディック(Rob Hadick)氏らが「ステーブルコインの現在地」を語った。 

新興国ではUSDTが実需の“生活通貨”として根付き、トルコやアルゼンチン、ナイジェリアでの購買・貯蓄・越境送金に浸透しており、B2B領域では、従来の国際送金ルート(コルレス銀行網)に満たされない中小企業の越境決済が急増し、運転資金や経費決済にまで利用が広がる。

Paolo Ardoino
Tether Paolo Ardoino氏

カスカリラ氏は“法の明確化”が追い風となり、レール(年中無休・即時・低コスト・透明性の高い決済インフラ)とアカウント(保有口座)の両機能が企業導入を加速させると指摘。ハディック氏は勝者はラストマイル(ユーザー体験・導入のしやすさ・現場)とコンプライアンスの実装力に宿ると断言し、API層の抽象的差別化よりも現地でのディストリビューションと規制適合の巧拙が勝敗をわけると述べた。

本セッションでは“コモディティ化”は、ディストリビューション・ネットワークの構築がカギとなっている点が強調された。

「文化を持つステーブルコイン」──World Liberty Financial

サプライズを含め最も会場をさらったのは、World Liberty Financial(WLFI)である。 

共同創業者のDonald Trump Jr. 氏とZach Witkoff氏は、USD-1を米国債1:1裏付け・月次監査の“ジーニアス準拠”と位置付け、政治色を排しつつも「ドル覇権を強化する民間インフラ」という語り口で聴衆を惹きつけた。

特筆すべきは、ガバナンストークンWLFIによる買戻し・バーンの意思決定など、ユーザーが継続的に関与する“文化駆動”の設計である。

従来、価格安定を旨とするステーブルコインは文化的熱量を持ちにくかったが、USD-1はコミュニティの参加感とレガシー金融の実用を接続し、プロダクトの採用を“文化”で押し上げるユニークな事例となった。

Donald Trump Jr.
Donald Trump Jr.

ロビンフッドCEOが描く「資産のインターネット」

Robinhoodのヴラド・テネフ(Vlad Tenev)氏は、欧州で稼働中の「株式・未上場株のトークン化」を軸に、24時間・グローバルにアクセス可能な資本市場の近未来像を提示した。

SpaceXやOpenAIのトークン化配布は象徴的であり、ステーブルコインが“ドルのトークン化”であるなら、株・不動産も同一の原理で再編できるという論理は極めて明快だ。

さらに、同社が急伸させた予測市場は“政治・スポーツ・AI”といった社会イベントを価格で可視化し、投資・メディア・エンタメの境界線を溶かすことになるだろう。

ロビンフッドが志向するのは、長期資産から裁量トレード、決済・カードに至る「金融スーパーアプリ」であり、そのフロントに“トークン化資産”が並ぶ世界であることが示された。

Vlad Tenev
Robinhood Vlad Tenev氏

辛口座談会「Chopping Block」が映した本音──DAT統合、ステーブル専用チェーン、そして予測市場

Fundstrat/ BitMineのトム・リー(Tom Lee)氏、Maelstromのアーサー・ヘイズ(Arthur Hayes)氏、Dragonfly陣営らの議論は、投資家の視点から市場の“健全化”をあらわにした。

Token2049 session1

ETHを押し上げるDATは「企業版トレジャリー+PR装置」として一定の役割をはたす一方、銘柄は乱立し、生き残るのはごく一部という冷静な見立てである。

テザーが出資するPlasmaなど“ステーブル専用チェーン”は、ローンチ直後の高利回り依存を超えて実需を獲得できるかが焦点で、B2B決済フローのオンチェーン移行がカギだと整理されていた。

Perp DEX(パーペチュアル分散型取引所)はCEXの代理戦争の様相を呈し、手数料無料や大規模アンロックなどノイズも多いが、UXとモバイル・ローカル戦略が差別化要因となっている。

予測市場はPolymarketとKalshiが双璧となり、単なる賭けを超えて“情報プラットフォーム”化している。価格がニュースを生み、ニュースが行動を変えるあたらしい社会回路が形成されつつあるということが語られていた。

Arthur Hayes
Maelstrom Arthur Hayes氏

F1王者フェルナンド・アロンソ氏が語った「逃げ場のない壁」

セッション間のサプライズゲストとして、F1ドライバーのフェルナンド・アロンソ(Fernando Alonso)氏が登壇。シンガポールGPで唯一達成した自身のグランドスラムを振り返り、「壁が近く、ミスの許容がない」ストリートサーキットの過酷さを語った。

Fernando Alonso
Fernando Alonso氏

これは現在の市場環境を象徴するメタファーともいえるかもしれない。規制、AI、流動性、セキュリティ──いずれも逃げ道のない条件下で、集中と準備だけが勝敗をわけている。

「革命ではなく進化」──イーサリアムの次の10年は“信頼の総合レイヤー”へ

節目の10年を迎えたイーサリアムのパネルには、Consensysのジョセフ・ルービン(Joseph Lubin)氏、Ethereum Foundationのトマシュ・スタンチャク(Tomasz Stanczak)氏、EigenLayerのスリラム・カナン(Sreeram Kannan)氏が登壇。

ガス上限の引き上げやファイナリティ強化、レイヤー1/レイヤー2の保証明確化をロードマップとして共有し、「厳格な分散化」の原則が改めて示された。

カナン氏はEigenDA(Data Availability)・EigenCompute/EigenAIを通じ、AI計算の決定的実行と再検証を可能にする“信頼の新インフラ”を提示。ルービン氏はZK-EVM互換のLinea(リネア)で、ETHと整合的なバーン設計と配分方針を示し、レイヤー2の持続可能性を訴求した。

Consensys Joseph Lubin氏

技術的な議論が多かったものの、総じて、イーサリアムは「ワールドコンピュータ」から「ワールドレジャー(世界の台帳)」へ、さらにAI・ゲーム・金融すべての“信頼”を支える基盤へと進化している様相が改めて示された。

まとめ:信頼はコードの外へ──制度・実需・文化が接続する未来

Token2049の会場は、世界中のWeb3.0・暗号資産関係者が集結し、熱気に満ちていた。展示ホールにはレイヤー1・レイヤー2チェーン、取引所、ステーブルコイン発行企業など数百社がブースを構え、実需・規制・AI・金融の交差点をテーマに活発な議論が展開。

Token2049-2

来場者は若手起業家から機関投資家まで幅広く、ホール外でも投資家のミートアップやネットワーキングが絶え間なく行われていた。都市全体がWeb3.0の未来を語る巨大なフォーラムと化していた。

今年TOKEN2049で暗に汲み取ったメッセージは、「透明性の時代に、どこまで不透明さを許容できるか」という問いである。

ステーブルコインは新興国の生活通貨から企業財務・越境B2Bへと拡大し、RWAトークナイゼーションは資本市場の24時間化を現実の軌道に乗せた。

DATは整理・統合のフェーズに入り、Perpや予測市場は“賭け”を超えて社会の情報配線を組み替えつつある。

イーサリアムはAI時代の“信頼総合レイヤー”として次の10年を見据え、Coinbaseは文化を梃に大衆への橋を架ける。

重要なのは、規制を敵視することではなく、規制を前提に安心して実装できる場を設計することである。

制度(ルール)、実需(ユースケース)、文化(参加の動機)の3つが噛み合ったとき、金融のあたらしい社会契約は初めて根づく。

シンガポールの街がみせたのは、熱狂の先にある“秩序ある革新”の姿であった。ここで交わされた議論と試行が、次の10年のインフラと常識を形づくることになる。

Token2049-3

画像:Iolite編集部

公式サイトToken2049


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