トランプ大統領は自身のSNSアカウントでこのプロジェクトの立ち上げを公表し、自ら積極的にプロモーションを行った。トランプコインの発行主体となるのはトランプ大統領の関連企業とされ、ロックされていた8億枚のトークンは主にCIC Digital LLCおよびFight Fight Fight LLCという2つの法人に保管されている。
トランプ氏の関与と資産構造の全貌 これらはいずれもトランプ氏の長年のビジネス・パートナーであるビル・ザンカー(Bill Zanker)氏が運営する会社であり、発行元の内情はトランプ大統領の側近筋によって掌握されているといえる。
こうした体制のもと、トランプコイン(TRUMP)はトランプ一族に巨額の経済的利益をもたらしている。暗号資産リスク分析会社Gauntletの推計によれば、トランプ大統領は2025年6月半ばまでにトランプコインの売買を通じて約1億5,000万ドル(約210億円)の利益をあげていたとされ、さらに同年7月に一部ロック解除された自身の保有分の評価額約9,300万ドル(約130億円)があらたに資産に加算される見込みである。
このロック解除に伴い、トランプ氏の公式な純資産額は約64億ドルから約93百万ドル分押し上げられると報じられている。要するに、トランプ氏は大統領在任中に自ら立ち上げた暗号資産プロジェクトによって莫大な私的収益を得ている状況といえる。
保有者向け特典と倫理的論争 さらにトランプ大統領は、トランプコイン保有者に対して前例のない優遇措置も講じている。2025年5月、ワシントン近郊の自身のゴルフクラブにトランプコイン保有量トップ220名の投資家を招待し、大統領夫妻同席の晩餐会を開催した。なかでも上位25名の“大口保有者”にはトランプ大統領との個別交流やホワイトハウス特別見学ツアーが用意され、「世界で最も排他的な招待状」と銘打たれたこのVIPイベントは事実上トランプコインの保有額に応じて大統領へのアクセス権を得るような試みであった。
実際、晩餐会の開催については倫理監視団体などから「汚職がリアルタイムで展開しているのを目撃しているようだ」と厳しく批判され、オバマ政権で倫理担当顧問を務めたノーム・アイゼン氏も「倫理の悪夢だ」と非難するなど、政治と利害が交錯するあらたな腐敗の形態として物議を醸した。
さらに、この晩餐会を通じて、外国資本による影響工作の問題も浮き彫りになっている。Bloombergの分析によれば、TRUMP保有量トップ25名のうち少なくとも19名は米国外の人物が占めており、海外の富裕層がコイン購入を通じて大統領への影響力を事実上「買っている」状況が明らかになった。
実例として、中国出身の暗号資産起業家であるジャスティン・サン(Justin Sun)氏はトランプコインの最大保有者の一人で、5月の晩餐会にも招待されトランプ氏からブランド物の腕時計を贈呈されるなど厚遇を受けた。
サン氏は自身のブロックチェーン企業にトランプトークンを上場させ「TRUMPは“MAGA”(トランプ支持層のスローガン『Make America Great Again』)の通貨だ」と称えるなど協調姿勢を示した。加えて、トランプ大統領関連の新興暗号資産関連企業「World Liberty Financial」のアドバイザーに就任するなど、トランプ陣営との結びつきを強めている。
このようにトランプコインは、国内外の富裕層が大統領本人への接近手段として利用する側面も帯びており、国家安全保障上の懸念すら指摘されているのが現状である。
なお、トランプ政権のホワイトハウスはこうした利益相反や汚職の批判に対し、「大統領の事業資産はファミリートラスト(家族信託)に預けられており、大統領自身は資産運用に直接関与していないため、いかなる利益相反も存在しない」と弁明している。一方、トランプ大統領のオーガナイゼーション側は個別の質問には答えておらず、倫理面の疑問が完全に払拭されたわけではない。