日本からWeb3.0の現在地を発信 豪華な顔ぶれが揃った「WebX2025」をIoliteが徹底レポート!

2025/08/29 17:48 (2025/08/29 18:55 更新)
Iolite 編集部
文:Shogo Kurobe
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日本からWeb3.0の現在地を発信 豪華な顔ぶれが揃った「WebX2025」をIoliteが徹底レポート!
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目次

  1. Web3.0業界の大物から政府関係者などの注目セッションを徹底取材
  2. ステーブルコインは「100年に1度の市場機会に」- アーサー・ヘイズ氏
  3. 「AIが利用する通貨はブロックチェーン上に存在することになる」- CZ氏、Benjamin Schiller氏
  4. スタートアップが描くあらたな社会像が未来を左右 – 石破茂首相
  5. アニメやマンガなどとWeb3.0を組み合わせてあらたな市場機会を創出 – 武藤容治経済産業大臣
  6. 「円建てステーブルコインのユースケースは大きな可能性を秘めている」- 加藤勝信財務大臣
  7. Web3.0が「第2の経済民主化」をもたらす – 北尾吉孝氏
  8. ステーブルコイン決済は「日本にとって最後のチャンス」 - 北尾吉孝氏、堀江貴文氏
  9. テクノロジーは人間の価値を高めるツール - 村上信五氏、廣末紀之氏
  10. 金融商品はすべてブロックチェーンで表現されるようになる - 松本大氏、マイケル・ノボグラッツ氏、Benjamin Schiller氏
  11. 暗号資産を一定割合持つ意義がある - 加納裕三氏、田中渓氏、設楽悠介氏
  12. JPYCが見据える今後の戦略と「第1号ライセンス取得の責任」 - 岡部典孝氏、神本侑季氏
  13. ステーブルコインはあらたな価値を加える存在 - 青木誠氏、佐藤伸介氏、牧野剛氏、佐藤伸介氏、段林由樹
  14. 税制やレバレッジ規制の緩和で新規参入は増えるが暴落のリスクも高い - 岐阜暴威氏、JIN氏、仮想NISHI氏、渋谷詠太氏
  15. トップアナリストが2025年末と2026年の価格予想を展開 - 大島卓也氏、長谷川友哉氏、松嶋真倫氏、仮想NISHI氏
  16. Web3.0は「社会・経済に大きな変革をもたらす技術」 - 小池百合子東京都知事
  17. 2026年のWebXは7月13日・14日に開催予定
  18. Web3.0の現在地と課題、そして未来が語られた2日間

Web3.0業界の大物から政府関係者などの注目セッションを徹底取材

8月25日、26日にかけて、アジア最大級のWeb3.0カンファレンス「WebX2025」が開催された。

WebXは日本最大の暗号資産(仮想通貨)・Web3.0メディアであるCoinPostが企画運営するカンファレンス。3度目の開催となる今年は、昨年に引き続き「ザ・プリンスパークタワー東京」が舞台となった。

国内外から多数のWeb3.0関連企業・プロジェクトが集結したほか、政府関係者、大手企業関係者らによるセッションなども行われた。

昨年に続き豪華な面々が一堂に会したWebX2025において、注目セッションをIoliteが独自の目線からレポートとしてまとめていく。

ステーブルコインは「100年に1度の市場機会に」- アーサー・ヘイズ氏

BitLending Stageにて1日目のトップバッターとして登壇したのは、暗号資産取引所BitMEX共同創業者で、MaelstromのCIOであるアーサー・ヘイズ氏。同氏の価格予想に関する明快な発言は、度々話題を呼んでいる。

ヘイズ氏は米ドル建てステーブルコインのマクロ経済的影響と、暗号資産市場に与える影響について持論を展開した。

Arthur Hayes

まず2008年の世界金融危機であるリーマン・ショックを起点とし、米国が大量のドルを発行したことで、各国の中央銀行が金を買い増し、ドル資産から離脱する動きが強まったと指摘した。そのなかでの最大の懸念材料は、ユーロダラー市場だと述べる。これは米国外の銀行に預けられたドルであり、監視の及ばない10〜13兆ドル規模の預金が存在する。こうした資金を監視し、財政赤字の縮小につなげられるかが米国の今後を左右する。

そうしたなかでカギを握る存在であるのが、ステーブルコインだ。発行体はドルを受け取り、米国債を購入する構造を持つため、結果的にドル需要を維持しつつ財政赤字のファイナンスに直結する。そのため、ステーブルコインは米国にとって「公式なユーロダラーの吸収装置」となり得るとヘイズ氏は強調した。また、グローバルサウスへの波及や、XなどのSNSがステーブルコイン決済を導入することで、世界的なドル覇権がさらに強固になると続けた。

さらに、ステーブルコインによりDeFiでのあらたな投資機会が創出されると言及。その上で、ヘイズ氏は注目するDeFiプロジェクトとして「Ether.Fi」「Ethena」「Hyperliquid」「Codex」の4つをあげた。

ヘイズ氏はステーブルコインによるDeFiでの取引加速により、暗号資産の現在の強気相場サイクルは「2028年まで続く」と強調した。そしてステーブルコイン市場は10兆ドル規模に拡大し、「100年に1度の強気相場を生み出す」と結論づけている。

「AIが利用する通貨はブロックチェーン上に存在することになる」- CZ氏、Benjamin Schiller氏

続いて登壇したのは、大手暗号資産取引所Binanceの創設者であるCZ氏。米暗号資産メディア・CoindeskのBenjamin Schiller氏がモデレーターを務めた。

CZ氏は米国の暗号資産政策の転換とステーブルコイン政策への取り組みが業界に劇的な変化をもたらしたと言及。「ステーブルコインはCBDC(中央銀行デジタル通貨)よりも普及しやすく、自由度が高い」と述べ、今後の国際金融システムにおける中心的役割を担うと強調した。

CZ

また、CZ氏はAIと暗号資産との関係にも触れた。将来的には取引の90%以上がAIエージェント同士によるM2M(Machine to Machine)取引になると予測し、「AIが利用する通貨は必然的にブロックチェーン上に存在する」と指摘した。AIの普及により経済活動の規模は100倍から1,000倍に拡大し、ブロックチェーンの需要は飛躍的に高まるとも続けている。

取引という観点では、株式や不動産など、「すべてのものがトークン化される」とも主張する。将来的にはさまざまな労働力がブロックチェーン上に移行するとしつつ、その一方で物理資産のトークン化には検証コストや流動性不足といった課題が残っていることから、当面はステーブルコインや証券型トークンが中心になるとした。

CZ氏はBinanceのCEOを退いた後の自身の活動として、「Giggle Academy」という教育分野への取り組みに注力していることを明かしている。すでに50,000人以上が利用しているとし、教育をデジタル化することで格差を是正することを目指していくとした。

最後に、CZ氏は起業家への助言として「正しいことを行い、長期的な価値を持つ事業を作るべきだ」と強調。短期的な利益を追うのではなく、倫理と情熱を持って困難を乗り越えることが成功のカギであると語った。

スタートアップが描くあらたな社会像が未来を左右 – 石破茂首相

今年のWebXでは、開会の挨拶として、石破茂内閣総理大臣が登壇した。石破首相は先日開催された「アフリカ開発会議」に触れ、34ヵ国の首脳と会談を行い、共同宣言を採択したことについて紹介した。

その上で、石破首相は「スタートアップは経済成長と社会課題解決のカギである」と語気を強め、Web3.0やデジタル産業、AIを含む第5次スタートアップ育成計画を強化する方針を打ち出した。

Shigeru Ishiba

また、石破首相は「1760年代の産業革命に匹敵する歴史的転換点が2020年代である」との認識を示し、「歴史的転換点にある今こそ、スタートアップやWeb3.0を中心とする新技術によって、あらたな社会を築いていくことを期待する」と力強く締めくくった。

アニメやマンガなどとWeb3.0を組み合わせてあらたな市場機会を創出 – 武藤容治経済産業大臣

石破首相に続いて登壇したのは、武藤容治経済産業大臣だ。武藤経産大臣は、急速に進展する世界のWeb3.0の潮流に日本も積極的に対応し、成長の原動力として産業・地域活性化に結び付けていく姿勢を示した。なかでも、米国において成立したステーブルコインに関する「ジーニアス法」について触れ、日本も国際競争に後れを取らない決意を強調した。

Youji Muto

また、武藤経産大臣は日本が持つアニメや漫画、アート、スポーツといった強みとWeb3.0を組み合わせることで、「あらたな市場機会を創出できる」と語った。そして、Web3.0を「中小企業やクリエイターの価値を国内外市場へとつなげる効果的なツール」と位置付け、今後も世界の動向を注視しながら環境整備を進め、日本経済の成長を牽引する役割をはたしていくと表明した。

「円建てステーブルコインのユースケースは大きな可能性を秘めている」- 加藤勝信財務大臣

石破首相、武藤経産大臣に続き、加藤勝信財務大臣が登壇し基調講演を行なった。加藤財務大臣は日本の暗号資産規制の歩みについて語り、世界に先駆けて環境整備を進めてきたことを強調。こうした経緯を踏まえ、「暗号資産はボラティリティの高いリスクを持つが、適切な投資環境を整えることで分散投資の対象として成長できる」と述べ、市場発展に期待を寄せた。

Katsunobu Kato

さらに、ステーブルコインについてもリテール決済、国際貿易決済など、幅広い分野で活用が見込まれると言及。「円建てステーブルコインのユースケースは、企業間決済の効率化を始め大きな可能性を秘めている」と述べ、今後の市場拡大に期待感を示した。

また、暗号資産規制については「利用者保護とイノベーション促進のバランスを取った環境整備が必要だ」と強調。昨今の諸外国における暗号資産の環境整備に関する動向を踏まえ、日本も国際競争力を高めるためには積極的な対応が欠かせないとの姿勢をみせた。

加藤財務大臣は「安心・安全なくして利用拡大はない。利用者保護はコストではなく投資だ」と述べ、セキュリティと健全な取引環境整備の必要性を訴えた。

Web3.0が「第2の経済民主化」をもたらす – 北尾吉孝氏

現在、Web3.0業界において日に日に影響力を拡大させているSBIホールディングスから、代表取締役会長兼社長である北尾吉孝氏が登壇した。

Yoshitaka Kitao

北尾氏はインターネット革命により経済社会効率性などが高まり、「第1の経済民主化」が実現したと語る。しかし、その一方でビッグテックによるデータ独占や透明性の欠如といった副作用も発生したと指摘する。

こうした状況を変えるのがブロックチェーン、分散型台帳技術であり、Web3.0が「第2の経済民主化」をもたらすと強調した。情報が中央集権から分散所有されることで、利用者主体のあたらしい経済モデルが形成されるほか、分散化が社会の透明性を高め、利用者の権利を守るとしている。

また、現状の国内における暗号資産を取り巻く状況について、北尾氏はまず20%の申告分離課税を速やかに取り入れるべきだとした。さらに、レバレッジ規制についても個人の所感とした上で、「10倍くらいが望ましい」と述べる。なかでも、ステーブルコインにおける100万円の移転上限を巡っては、「即刻撤廃すべき」として語気を強めた。

SBIホールディングといえば、現在加速度的に攻勢を強めている状況だ。北尾氏は現在の取り組みについて紹介し、その上で、米国などで取引されている暗号資産ETFや株式などのトークン化取引の早期実現に意欲をみせた。今後、「資本市場そのもののデジタル化」を視野に入れ、さまざまなトークンを取り扱う取引所の実現を目指すとも述べている。

このほか、北尾氏は「金融とメディアは情報産業として統合できる」と述べ、AI検索や広告収益分配モデルを導入し、メディア産業に正当な対価を還元する仕組みを提唱。そして、「日本が世界競争に勝つには自由な技術活用とグローバル展開が不可欠」と強調した。

北尾氏は「Web3.0が既存産業を超えたあらたな経済民主化をもたらし、SBIはその最前線に立ち続ける」と宣言し、セッションを終えた。

ステーブルコイン決済は「日本にとって最後のチャンス」 - 北尾吉孝氏、堀江貴文氏

続いて、今年のWebXにおける目玉セッションとして注目を集めていた、北尾氏と実業家の堀江貴文氏による特別対談が行われた。この対談ではメディア産業からWeb3.0技術による決済、そして宇宙開発などについて語られた。

Yoshitaka Kitao and Takafumi Horie
左から北尾氏、堀江氏

堀江氏は、かつてのフジテレビ買収計画を振り返り、「広告依存から脱却し、有料サブスクリプションモデルを導入すべきだった」と強調。当時それが実現していれば「日本発のNetflixになっていた」と述べた。また今後、Web3.0と暗号資産を組み合わせた世界有数のメディアネットワークの実現が可能だとも続けた。

暗号資産の話題では、2013年からビットコインに触れている堀江氏は「過去10年で最もリターンを生んだのはビットコインだ」と評価。初期投資家による投資意欲がまだ冷めていないとの認識も示した。

一方の北尾氏は先日発表したSBIホールディングスとSMBCの協業による円建てステーブルコインに関する取り組みについて触れた。これを踏まえて、堀江氏は「スマートフォン1台で加盟店ができ、手数料を劇的に下げられる。日本にとって最後のチャンスだ」と述べ、ステーブルコイン決済の拡大が極めて重要であることを強調した。

このほか、DePIN(分散型物理インフラネットワーク)を組み合わせた宇宙関連事業などについても語られた。対談では、Web3.0との組み合わせによるメディアの新境地、そしてステーブルコインを活用した決済の重要性などについて議論が交わされ、これらの取り組みを早急に進めていくべきであるとの認識が示された形となった。

Yoshitaka Kitao and Takafumi Horie
左から北尾氏、堀江氏

テクノロジーは人間の価値を高めるツール - 村上信五氏、廣末紀之氏

今年のWebXにおけるシークレットゲストと暗号資産取引所ビットバンクの代表取締役社長CEOである廣末紀之氏による特別対談。今年のシークレットゲストは、男性アイドルグループ「SUPER EIGHT」として活躍する村上信五氏だ。

村上氏はビットバンクのCMにも出演。廣末氏とCM撮影の裏側を語りあった。

Shingo Murakami and Noriyuki Hirosue
左から廣末氏、村上氏

また、芸能界を始めとするさまざまな業界では依然として新技術の導入に慎重な姿勢をみせることも少なくないが、村上氏は自らNFTやAIなどの活用を試みている。実際にチケットNFTを導入し、現実的な利便性を提示。デジタルとフィジカルの共存を目指す姿勢を示した。

後半では著書「半分論」に関連して自身の思考法について語られた。さらに、自らが立ち上げた会社で取り組む「AIシンゴ」についても言及。タレントがAIを作り出すという前例のない挑戦に難しさを抱きつつも、そのやりがいを示した。最後には「テクノロジーは人間の価値を高めるツール」と語り、ブロックチェーン技術を活用してさまざまなことが実現できるとし、今後のデジタル領域での取り組みに意欲をみせた。

Shingo Murakami and Noriyuki Hirosue
左から廣末氏、村上氏

金融商品はすべてブロックチェーンで表現されるようになる - 松本大氏、マイケル・ノボグラッツ氏、Benjamin Schiller氏

2日目の最初のセッションでは、早速マネックスグループ会長の松本大氏と、暗号資産を中心とした金融サービスを展開するGalaxy DigitalのCEOであるマイケル・ノボグラッツ氏による特別対談が行われた。モデレーターはCoindeskのSchiller氏が務めた。

このセッションではまず両氏の暗号資産の出会いから語られ、松本氏は当初1980年代のデリバティブ市場に類似している点があると感じたという。当時のデリバティブ市場は危険なものとしてみられがちだったが、結果的に市場を変革するものとなった。暗号資産についても同様で、その技術的価値に可能性が秘められているとの思いから参入したと述べた。

一方のノボグラッツ氏は2013年にビットコインを購入し、「インターネット上で初めての私有財産」という概念に衝撃を受けたという。その後、2018年にGalaxy Digitalを設立し、若手起業家と伝統金融をつなぐ「橋」となることを目指したと語った。

Oki Matsumoto, Michael Novogratz, and Benjamin Schiller
左からSchiller氏、ノボグラッツ氏、松本氏

その後はステーブルコインの話題へと移り変わり、USDコイン(USDC)を発行するCircleなどのIPOにより、ステーブルコインの存在感が拡大しているとの認識が示された。ノボグラッツ氏は「AIはステーブルコインを通じて取引を行うようになる」と予測し、日常的な買い物から貿易決済までブロックチェーン上で実行される未来を描いた。

あらゆるもののトークン化という点では、松本氏は「TradFi(伝統的金融)とDeFiの区別は消え、金融商品はすべてブロックチェーンで表現される」と強調。日本特有の「ポイント経済」もトークン化され、相互運用性が飛躍的に高まると指摘した。ノボグラッツ氏もあらゆるもののトークン化が民主化を推進し、発展途上国の若者などがスマートフォン1つで世界的資産にアクセスできるようになると述べた。

最後に、松本氏とノボグラッツ氏は「未来の金融はより透明・分散的になり、実生活に溶け込む」との展望を語り、トークン化の加速がもたらす可能性に期待感を寄せた。

暗号資産を一定割合持つ意義がある - 加納裕三氏、田中渓氏、設楽悠介氏

続くセッションではbitFlyer Holdings代表取締役CEOの加納裕三氏、元ゴールドマン・サックス所属の投資家である田中渓氏が登壇。モデレーターはブロックチェーン・暗号資産専門メディア「あたらしい経済」編集長の設楽悠介氏が務めた。

Yuzo Kano, Kei Tanaka, Yusuke Shidara
左から設楽氏、加納氏、田中氏

不確実性が高まる現代での資産戦略に焦点が当てられたこのセッションでは、具体的な資産配分について早速語られた。加納氏は暗号資産のほか、不動産などにも投資を行い、ポートフォリオを形成していると述べた。また、田中氏は不動産40%、株式20%、暗号資産10%などとポートフォリオを例示。日本円を現金としてほとんど保有しないという投資戦略を披露した。

若年層の投資戦略として、加納氏は「リスク許容度が比較的高く、暗号資産を一定割合持つ意義がある」と語った一方、田中氏は「一定程度の資産を積み上げるまで、全力投資は危険」との見方を示し、意見がわれた。

また、暗号資産の成長が2000年代初頭のネット証券ブームに似ているとの意見が示された。当時、株式市場がオンライン化によって急拡大したように、暗号資産も今後大衆化と制度整備によってあたらしい段階へ移行するという考えだ。しかし、現状では暗号資産税制が不利になっているとの考えが示され、加納氏は「政府関係者に働きかけ税制改正を達成したい」と意欲をみせた。

最後に、加納氏は「投資は悪ではない。誰もが安心して挑戦できる環境づくりが必要」と語り、田中氏は「退場しない限り、資産形成の経験は必ず人生の糧になる」と力強く締めくくった。

Yuzo Kano, Kei Tanaka, Yusuke Shidara
左から設楽氏、加納氏、田中氏

JPYCが見据える今後の戦略と「第1号ライセンス取得の責任」 - 岡部典孝氏、神本侑季氏

「日本円ステーブルコイン第一号 詳細と今後の展望」と称したセッションでは、JPYC社代表の岡部典孝氏が登壇し、日本円建てステーブルコイン「JPYC」の発行と今後の展望について語った。モデレーターは暗号資産メディア・CoinDesk Japanの運営などを行う神本侑季氏が務めた。

JPYC社は8月に金融庁より資金移動業者として登録されたこともあり、非常に関心が高いトピックとして多くの参加者が集まった。

岡部氏は「金融機関以外には無理」と言われた挑戦を実現し、歴史的な一歩を踏み出したと振り返った。今後の方針としては、「日本の法律で扱えるあらゆるステーブルコイン事業を行う」とし、資金移動業者型の自由度の高いJPYCに加え、信託型でのステーブルコイン発行、さらには外貨建ての発行・仲介にも対応していく方針を示した。

Noritaka Okabe

ステーブルコインの当面の利用者はDeFiユーザー、機関投資家、ファミリーオフィスなど金融リテラシーの高い層を想定。一方で、将来的にはコンビニ決済や給与支払い、ライブ配信での投げ銭など広範なユースケースが期待される。特に会計・税務面で「現金扱い」と整理されている点が大きな利点となり、暗号資産よりも普及が進みやすいと説明した。岡部氏もほかの登壇者と同様に、AIによるステーブルコイン活用が今後加速すると予測した。

最後に、岡部氏は「第1号ライセンス取得の責任をはたす。JPYCを活用して皆さんにイノベーションを生み出してもらい、私たちだけでなく、一緒に社会のジレンマを突破しよう」と力強い言葉を残した。

ステーブルコインはあらたな価値を加える存在 - 青木誠氏、佐藤伸介氏、牧野剛氏、佐藤伸介氏、段林由樹

続くセッションではWeb3.0時代における金融サービスのあり方について5名が議論を交わした。登壇したのはWebX FounderでCoinPost CSOの青木誠氏、Slash VisionのCEOである佐藤伸介氏、Fireblocks営業部長の牧野剛氏、オリエントコーポレーション課長代理の秋山寛勝氏、Iolite及び暗号資産レンディングサービス「BitLending」を提供するJ-CAMのBusiness Strategy & Development Directorである段林由樹の5名だ。

Makoto Aoki, Shinsuke Sato, Go Makino, Shinsuke Sato, Yuki Danbayashi
左から青木氏、佐藤氏、牧野氏、秋山氏、段林

セッションはステーブルコインに関する話題からスタート。佐藤氏はステーブルコインによって24時間いつでもシームレスに価値移転が可能な点を強みとしてあげ、通信インフラが進化して安価になったように、金融も同様に進化すると強調した。

Slash Visionとともに「Slash Card」の発行を進めるオリコの秋山氏は「70年続く伝統金融企業として、ステーブルコインを扱うのは挑戦的だった」と振り返った。伝統的なカード会社がWeb3.0領域に本格参入した事例は、日本におけるステーブルコイン決済普及の重要な布石になり得るとも続けている。その上で、今後は複数のステーブルコインに対応する意欲をみせた。

ステーブルコインの普及に欠かせないのが、セキュリティ体制だ。牧野氏は「セキュリティはステーブルコイン普及における最重要要素だ」と強調。実際、Fireblocksもさまざまな国から攻撃を日々受けているものの、創業以来1度もハッキング被害にあったことがないと述べる。すでに10兆円に及ぶ資産を保護しており、そうした資産を守ることができるのは、秘密鍵を3分割し管理するなどのセキュリティ体制を敷いているからであると説明した。

ステーブルコインを活用した資産運用への注目度も日に日に高まっている。そうした状況下で、段林は「ステーブルコインを活用したレンディングは、個人でも機関投資家レベルの金融商品にアクセスできる画期的な仕組み」と言及。利用者が安心して資産を預けられることができるとともに、事業者がしっかりと利回りを還元していくことがステーブルコインを活用した資産運用における普及のカギだと語った。

登壇者からはステーブルコインについて期待する声があがる一方、事業者側の目線では事業モデルの持続性を始めさまざまな課題も指摘された。また、必ずしもステーブルコインを強制するような風潮を作るのではなく、ユースケースや状況に応じて利用できるような環境を構築すべきだとの声もあった。

このセッションでは「ステーブルコインは既存決済を置き換えるのではなく、あたらしい価値を加える存在」と総括した。その上で、登壇した各事業者同士の連携による発表について含みを持たせ、幕を閉じた。

Makoto Aoki, Shinsuke Sato, Go Makino, Shinsuke Sato, Yuki Danbayashi
左から青木氏、佐藤氏、牧野氏、秋山氏、段林

税制やレバレッジ規制の緩和で新規参入は増えるが暴落のリスクも高い - 岐阜暴威氏、JIN氏、仮想NISHI氏、渋谷詠太氏

「億り人か退場か?不安定なグローバル時代を勝ち抜く投資術」と題したセッションでは、岐阜暴威氏、JIN氏、仮想NISHI氏といったSNSなどで人気を博す投資家、アナリストが顔を揃えた。モデレーターはCoinPostのWebXエグゼクティブディレクターである渋谷詠太氏だ。

Mr. Gifu Boui, Mr. JIN, Mr. Kasou Nishi, Mr. Shibuya Eita
左から渋谷氏、岐阜暴威氏、JIN氏、仮想NISHI氏

為替・株式・暗号資産の視点から幅広い議論が繰り広げられた当セッション。岐阜暴威氏は主戦場こそFXであるものの「株や不動産、ビットコインを持っていればよかった」と振り返り、含み損のなかで現物株を手放した後悔を語った。また、暗号資産市場が24時間365日動いていることに触れ、「暗号資産はブラック企業、株はホワイト企業」と比喩し、精神的な面も考慮して安定した株式投資を志向する姿勢を示した。一方でビットコインについては「安定しすぎて億り人は難しいのではないか。草コインやイーサリアムの方が跳ねる」と持論を展開した。また、税制・レバレッジ規制緩和については「新規参入が増える時は暴落のリスクが高い」とし、警鐘を鳴らした。

JIN氏は現在、「円安が止まらない」と嘆き、損切りを行っていると明かした。一方、中長期的には株・為替・暗号資産のすべてが価格を伸ばすとみているようだ。もし1,000万円の資金があるのであれば、「テスラ株を買ってSNSでのバズりを狙い、収益化につなげる」とユニークな投資スタイルを提示した。そんなJIN氏は日本の暗号資産規制緩和は「遅すぎる」と批判し、国力低下や円安につながっていると主張した。

仮想NISHI氏は足元のビットコイン下落について、「トランプ政権の暗号資産政策弱体化」が背景にあると指摘。また日本市場についても、税制やレバレッジ規制が緩和されれば新規参入は増えるが、同時に利確売りによる大暴落の可能性があると懸念。岐阜暴威氏と意見が合致した格好となった。

3名に共通していたのは「インフレ下では資産価格は総じて上昇する」という見方だ。また投資リスクとチャンスの双方を映し出し、この不安定な時代を勝ち抜くための多様かつユニークな戦略が示されたセッションとなった。

トップアナリストが2025年末と2026年の価格予想を展開 - 大島卓也氏、長谷川友哉氏、松嶋真倫氏、仮想NISHI氏

WebXも終盤に入り、暗号資産のトップアナリストが集結したセッションが行われた。登壇したのはマネックス証券の暗号資産アナリストである松嶋真倫氏、ビットバンクのマーケット・アナリストである長谷川友哉氏、X-Bank専務取締役で暗号資産アナリストの仮想NISHI氏だ。モデレーターは暗号資産取引所Zaifの代表取締役社長である大島卓也氏が務めた。

このセッションではこれまでの業界動向の分析から始まった。3者ともにトランプ政権の暗号資産政策による影響の大きさに加え、利下げ動向や暗号資産ETF及び企業によるトレジャリー戦略についても語られた。特に米政権交代時の規制リスク、そしてビットコインなどの価格下落局面ではトレジャリー戦略を採用している企業の投げ売りに注意が必要であるとの意見もあがった。

後半の価格予想を巡る議論では、意見がわれる場面もみられた。

まず2025年末までの価格予想では、全員が上昇と予測。長谷川氏と松嶋氏は20万ドル(約2,940万円)、仮想NISHI氏は18万ドル(約2,650万円)以上と予想した。

その一方で、2026年3月末までの価格予想を巡り、松嶋氏と仮想NISHI氏は下落すると予測。主な要因として納税による売り圧力の上昇やインフレの再燃による利上げ懸念をあげている。長谷川氏は引き続き上昇するだろうとの見立てを示した。

また半減期サイクルの継続可否についても意見がわれた。松嶋氏と仮想NISHI氏は、半減期サイクルの影響は弱まっているものの、米大統領選やマクロ要因と重なるため引き続き注目されるとの見方を示した。その反面、長谷川氏は機関投資家の参入などによりサイクルに変化がみられるとし、半減期サイクルというものは終了する可能性が考えられると述べた。

最後に日本における注目イベントとして、長谷川氏は暗号資産税制改正、松嶋氏は機関投資家動向、仮想NISHI氏はライトニング決済をあげセッションは終了した。

Takuya Oshima, Tomoya Hasegawa, Masamichi Matsushima, and Kasou Nishi
左から大島氏、長谷川氏、仮想NISHI氏、松嶋氏

Web3.0は「社会・経済に大きな変革をもたらす技術」 - 小池百合子東京都知事

いよいよWebXも閉会を迎えようとしている。挨拶を行ったのは、小池百合子東京都知事だ。

ビデオ登壇した小池都知事は、世界情勢の不安定化、気候危機、食糧・エネルギーの安定供給といった課題に直面するなかで、「世界の知恵と先端技術を結集し、持続可能な未来を築く必要がある」と強調した。

また、5月に開催した「SusHi Tech Tokyo」を紹介し、100ヵ国以上から57,000人が参加するなど、多様な出会いと交流を生んだとして成果を示した。

小池都知事はWeb3.0を「社会・経済に大きな変革をもたらす技術」と評価。その成長を見据え、東京を「世界有数の国際金融都市」とするために、ブロックチェーンなどを活用した金融デジタル化を積極的に推進すると表明した。

最後に小池都知事は「皆様がイノベーションの最前線で活躍されることを期待する」と述べ、Web3.0が東京と世界をつなぐあたらしい基盤となることを強調し、挨拶を締めくくった。

Yuriko Koike

2026年のWebXは7月13日・14日に開催予定

クロージングとして挨拶したCoinPostのHead of Business Developmentである酒井良氏は、「WebXは単なるカンファレンスではなく、日本発の情報発信拠点だ」と強調。Web3.0・ブロックチェーンのイノベーションを日本から世界に届ける役割をはたすことができたと成果を振り返った。

また同時に、2026年のWebX開催についても発表された。次回は2026年7月13日、14日に同じく「ザ・プリンスパークタワー東京」で開催される予定だ。

酒井氏は「WebXを世界に届けるカンファレンスにしていく」と述べ、挨拶を締めた。

Sakai and Aoki
左から酒井氏、青木氏

Web3.0の現在地と課題、そして未来が語られた2日間

本年もWebXは熱気に包まれ幕を閉じた。

WebX image
WebX image2
WebX image3

今年は特にステーブルコインに関する話題が非常に多く、国内外問わず最重要トピックとして捉えられていることがうかがえた。また、イベント登壇者の顔ぶれからもわかるように、既存金融や大手企業による参加も特徴的であった。

同時に、マスアダプションを進めていく上での課題もあらわになった印象だ。日々脅威に晒されているセキュリティへの対策、日本のWeb3.0が世界でさらに存在感を示していくために必要な法整備など、まさに一刻の猶予も許されない課題にどのように取り組んでいくかが今後国内のプレイヤーたちに求められる。

“日本発の情報発信拠点”であるWebXを通じて蒔かれた種が、今後どのように芽吹き花を咲かしていくのか、注視していきたいところだ。

画像:Iolite(Shogo Kurobe 、Kohei Yamamura)


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Iolite(アイオライト)Vol.16

2025年11月号2025年09月30日発売

Interview Iolite FACE vol.16 concon株式会社 CEO 髙橋史好 PHOTO & INTERVIEW 片石貴展 特集「2026 採用戦線異常アリ!!」「ビットコイン“黄金の1ヵ月”に備えよ」「米国3法案 イノベーション促進か、監視阻止か— 米国の暗号資産政策が大再編 3大法案が描く未来図とは」 Crypto Journey 「暗号資産業界の“影の守護者”が見据える世界のセキュリティ変革」 Hacken CEO ディマ・ブドリン Interview 連載 「揺れる暗号資産相場を読み解く識者の視点」仮想NISHI 連載 Tech and Future 佐々木俊尚…等

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Iolite(アイオライト)Vol.16

2025年11月号2025年09月30日発売
Interview Iolite FACE vol.16 concon株式会社 CEO 髙橋史好 PHOTO & INTERVIEW 片石貴展 特集「2026 採用戦線異常アリ!!」「ビットコイン“黄金の1ヵ月”に備えよ」「米国3法案 イノベーション促進か、監視阻止か— 米国の暗号資産政策が大再編 3大法案が描く未来図とは」 Crypto Journey 「暗号資産業界の“影の守護者”が見据える世界のセキュリティ変革」 Hacken CEO ディマ・ブドリン Interview 連載 「揺れる暗号資産相場を読み解く識者の視点」仮想NISHI 連載 Tech and Future 佐々木俊尚…等