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日本の銀行 3行
金融・経済
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全銀システム復旧するも、送金障害をきっかけにあらたな構図が強く迫られる

Noriaki Yagi
2023/10/13

全銀ネット原因不明のシステム障害発生

10月10日、金融機関同士の資金のやり取りを担うシステム・全銀ネット(全国銀行資金決済ネットワーク)に不具合が発生し、一部の金融機関で振り込みが遅れ、およそ500万件以上の取引に影響が及んだ。

システムの不具合が生じた日が、商取引の件数が多いとされる「ごとうび(五十日)」だったことも、多くの取引に影響が出た要因の1つとされている。12日の午前には正常に稼働していることが確認され、現在は復旧されたようだ。

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松野官房長官は記者会見で「金融庁への報告によれば、今回の障害の原因はサイバー攻撃の可能性は低く、『全銀システム』と金融機関をつなぐシステムを先週末に更改したことに伴い生じた不具合と考えられる」と述べた。

現時点でも詳細な原因が不明だが、松野官房長官は記者会見でも述べられたように、10月7日から9日の3連休であらたなソフトウェアへの更新を実施する過程で、全銀ネットの中継コンピュータ(Relay Computer)の特定のプログラムに問題があったとされている。

というのも、14行のうち自前のシステムで手数料を計算していた3行には同障害が発生せず、内国為替制度運営費を中継コンピュータ側で計算していた残りの11行で不具合が生じたとされているためだ。

全銀ネットは1,973年の発足から約50年にわたって、一般の利用者に影響があるような目立った不具合は起こしておらず、1日あたり14兆円前後の取引を処理してきた。


▶︎決済システム全体像 P5


—全銀ネットのシステム障害で実際に起こり得た問題



約50年にわたり、巨額で膨大な取引を目立った問題がなく成立させてきたことは、信頼に足る実績であると感じるが、振込送金ができない場合の問題として考えられるケースを考えたい。

  • 金銭的債務を負っている場合における、振込送金不可の場合の遅延損害金発生
  • 利益が見込める取引の不成立などの機会損失
  • 損失を限定的にできる処理の遅延による損害

などがあげられるだろう。

金銭的債務を負っている場合における、振込送金が利用できなかった場合の遅延損害金発生

振込送金の遅れは、金銭的な債務を追っている場合に非常に重大な問題を起こす可能性がある。民法では、債権者の指定した銀行宛の振込依頼をあらかじめ完了させていたとしても、期日に振込結果が反映されていなければ、それは履行されたとして評価されないようだ(民法第477条)。

正確には、免責の余地はあるが限定的だとした方が良いかもしれない。

利益が見込める取引の不成立などの機会損失

着金期限を過ぎた入金が購入、申し込み受付の対象とならない取引があった場合、将来的に享受することができるはずの利益を受け取ることができなくなる。やっとの思いで手に入れた抽選を伴う商品を手放さなければいけないケースも考えられる。

損失を限定的にできる処理の遅延による損害

証券取引、為替取引等における、証拠金不足を補填する資金追加が行えなかった場合には、追証を迫られるリスクも上がる。

実際3連休明けの10月11日(水)には、米国9月卸売物価指数(PPIコア指数)の発表と、米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨の公開があったため、頭を抱えた投資家もいた可能性は大いに考えられる。


—公正取引委員会の進める環境整備 イノベーションの促進と利用者の利便性の向上



2023年3月1日に「フィンテックを活用したサービスに関するフォローアップ調査報告書」が公正取引委員会より出された。

公正取引委員会がこの調査を行った主旨としては、従来の銀行等を中心として行われてきた金融サービスが、フィンテックを活用する事業者の参入により活性化し、あらたな金融サービスが提供され、利用者の利便性の向上が達成されつつあるとし、イノベーションの促進、利用者の利便性の向上等が図られる環境を確保することは、競争政策を担う公正取引委員会に期待されている重要な役割の1つであると明記されていた。

2020年に公表された「家計簿サービス等に関する実態調査報告書」及び「QRコード等を用いたキャッシュレス決済に関する実態調査報告書」についても、キャッシュレス分野における競争政策上の課題を把握するため、そして、銀行と電子決済等代行業者との間の契約交渉、銀行とキャッシュレス事業者の取引慣行において、競争政策上なんらかの歪みが生じていないかという問題意識からきているようだ。


—公正取引委員会 全銀システムへの指摘


2020年、公正取引委員会は、以前より全銀システムが長年固定で設定してきた銀行間の手数料が妥当であるのかを投げかけ、全銀システムを通じた取引の透明性、システム全体の閉鎖的な体制に問題があると指摘した。

具体的な問題点として、下記をあげている。

  • 実態として「銀行間手数料」は事務処理コストを上回っている点
  • 料率が40年以上変更されていないことが、情報技術の進歩、処理件数の増加を考慮すると競争原理が働いていない点


▶︎家計簿サービス等及びQRコード等を用いたキャッシュレス決済について、競争政策上の課題を把握するため実態調査公表後の社会的変化について

2021年10月以降に関しては、銀行間手数料についても一律62円に引き下げられ競争環境は徐々に改善しつつある。今後も
銀行と電子決済等代行業者及び銀行とノンバンクのコード決済事業者との間の取引を注視し、競争政策上の観点から提言を行うとしている。


—全銀も認めるウィークポイント


一般社団法人全国銀行資金決済ネットワークが、2023年3月に出した「次期全銀システム基本方針」によれば、中長期的な技術者確保の懸念として、全銀システムと各銀行を結ぶ中継コンピュータ(RC)を使用することによる重い接続負担があり、構成要素の結びつきや依存関係が強く、柔軟性・拡張性が低くなってしまっていることが課題としてあげられていた。

また、全銀システムが採用しているメインフレームは、2030年に販売を終了、2035年に保守を終了するとベンダー側から公表されているため、中長期における技術者確保の問題やコストが上がってしまう懸念点もあるという。


▶︎現行システムにおけるストロングポイント・ペインポイント P6


—全銀の今後のロードマップ


現在置かれた課題を鑑みて、今後の技術環境の変化に応じて最適な基盤・接続技術を選択していくことができる基礎の構築を目指すとし、一環として、次期システムでのオープン化を目指すこととした。

2035年までに、中継コンピュータ(RC)を廃止し、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェイス)のゲートウェイを構築するということを指しているのだろう。


▶︎次年度の検討スケジュール P26


メインフレームからオープンシステムへの移行は、一定のリスクが伴うものの、現在採用している基盤の販売終了が決定しているなかで、採用を継続することは、前提となる技術者の確保が今後一層困難になることを併せ考えると、よりリスクを高めることとなる恐れがあるとした。


—ブロックチェーン及び広義の意味のステーブルコインは全銀ネットを補うのか



先に述べておきたいのは、完全に既存の金融システムがなくなり、ブロックチェーン及びステーブルコインによって取って代わられる確率は極めて低いと考えている。

少なくとも向こう10年はまず起こらない。日本における現金へのある種の執着は、ATMの管理コストが年間2兆円近くかかっているのにも関わらず、長年の間、状況がほとんど変わることがなかったことからもみて取れる。

しかし、既存金融との共存は前述したオープン化に伴い、ブロックチェーン技術が活用されることは大いにあり得ることなので、補う存在としてここでは触れていきたい。

日本では、Progmatを代表とする信託型、JPYCが目指している資金移動型、先日発表もあったDCJPYのような預金型のデジタル通貨など、広義のステーブルコインでもさまざまな分類があり、分類の異なるいくつかのステーブルコインが存在する。

厳密には、Progmatはほかの分類でもステーブルコインを発行できるような構成にも見えるが、Ioliteの過去のインタビュー記事を参考に、ここでは信託型としてあげさせてもらう。

前述した公正取引委員会のイノベーションの促進、利用者の利便性の向上等が図られる環境の確保を目的とした取り組みの効果か、日本国内でステーブルコインを発行する動きは活発だ。

現在、全銀ネット及び既存の金融システムを補うモノとして、ステーブルコインは注目を集めており、特に決済手数料の安さ、取引速度の速さ、銀行で使われてきた身元確認等のシステム弱点などを補える可能性はありそうだ。


—現時点では課題も存在する



しかしながら、現時点では主に以下2点の課題も存在するようだ。

  • ステーブルコインの利用に必要なウォレットを持っている人が少ないこと
  • 日本特有の課税方式


ステーブルコインの利用に必要なウォレットを持っている人が少ないこと

JPYC 岡部氏のインタビュー記事でも触れられたが、現時点でウォレットを持っている日本居住者の割合は10~15%程度だと思われる。

ステーブルコインが日常的に使われるようになるためには、スマートフォンの普及と同じくらい、取引で欠かせないウォレットを持ってもらう必要があると考えている。

大手携帯キャリアがリリースするスマートフォンに標準搭載したり、ウォレットを必要とするスマートフォンゲームの爆発的にヒットしたりすることは欠かせないだろう。


日本特有の課税方式

また、徐々に改正されていくであろう課税方式についても、暗号資産同士の取引は課税の対象から外されても、対ステーブルコインとの取引が課税の対象となってしまう可能性はあるようだ。

銀行よりも利便性が高く、安全性の高いモノを提供する上での課題はまだ残されてるようだ。


—まとめ

非常に長い間、ブロックチェーンの技術を既存金融のシステムに有効活用するための実証実験は行われてきた。全銀ネットの問題が起こったこの時期に、ステーブルコインに関する法改正があったことも何かの巡り合わせではないだろうか。

前述したオープン化に伴い、既存金融でブロックチェーン技術が活用されることは大いにあり得ることなので、既存金融を補う存在としてイノベーションを担う活用とイノベーションの促進、利用者の利便性の向上等が図られる環境を確保が今後も継続して提供されていくことを期待する。

画像:Shutterstock


Profile

◉Noriaki Yagi
大学在学中に飲食業務に従事。その経験から、飲食店のコンサルティング事業及び、アミューズメント領域への人材派遣事業を立ち上げ、代表に就任。同時に自身のブランドを確立させる目的からSNS運用を始める。SNSの運用では、合計フォロワー数1万人を達成後に認知度の拡大を受け、自身のアパレルブランドを立ち上げる。2021年9月に株式会社J-CAMに入社。YouTubeやTwitter運用に従事した後、2022年4月より編集長に就任。2023年3月に「Iolite(アイオライト)」を創刊。



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