1.オンチェーン化による次世代インフラへの移行
金融のオンチェーン化は、既存事業を脅かすリスクであると同時に、銀行の信用や決済機能を次世代インフラへと乗せ替える絶好の機会である。MUFGは技術先行ではなく、顧客の課題解決を起点としてあらたな価値創出に取り組んでいる。
2.ステーブルコインとトークン化預金の両面展開
3メガバンク共同でステーブルコインの基盤構築を進めるほか、銀行機能と親和性が高いトークン化預金も並行して検討中だ。クロスボーダー決済や国債レポ取引などの実需領域を優先し、多様なプレイヤーと連携して早期の社会実装を目指している。
3.AI主体の経済活動と銀行の役割拡張
将来的にAIが経済活動の主体となる世界において、自律的な取引を支えるプログラマブルな金融インフラの提供が求められる。技術が進化しても安心・安全を担保する銀行の役割は変わらず、むしろ社会においてさらに拡張していく見通しだ。
──現在、国内外で金融のオンチェーン化に関する議論・実装が加速しています。その上で、国内におけるオンチェーン化の現状・進捗についてどのようにみていますか?
山本忠司(以下、山本):オンチェーン金融は、従来は難しかった即時性やプログラマビリティといった価値提供を実現し得る、中長期的に非常に重要なテーマです。
米国を始めとする海外が先行していますが、国内でも実際のサービス実装に向けた検討を各社が進めている状況と理解しています。
銀行にとっては、オンチェーン金融に対応できなければ、預金・決済・為替・CMSなどの既存収益領域が外部のネットワークに奪われる「脅威」になり得ます。一方で、銀行が持つ信用、規制対応力、顧客基盤、KYC、与信、決済機能などを次世代インフラに載せ替える「機会」にもなり得ると考えています。
三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)としては、技術起点ではなく顧客課題起点で取り組み、次世代の金融インフラを設計するという観点でも対応していきたいと考えています。
──3メガバンクによるステーブルコインの共同発行に対する関心が非常に高まっていますが、共同発行ステーブルコインが登場することの意義・社会的影響力について、どのように考えていますか?
山本:3メガバンクが共同発行することで、日本で最も広く利用されるステーブルコインのプラットフォームになり得ると考えています。
また、サービス設計における規制対応や利用者保護措置など、各行に共通する課題を共同で検討できる点に加え、まずは実証という形で3メガバンクが共同してステーブルコインの検討をドライブしていく推進力になることも、3メガバンクが協働する意義だと捉えています。
ユースケースとしては、迅速なクロスボーダー決済の実現や、即時性を有する証券DVPの実現などで有用性が期待できると考えています。

──MUFGではかつて「MUFGコイン」の研究・開発が行われていましたが、改めてステーブルコインなどの形式に変えて発行する構想はありますでしょうか?
山本:MUFGコインは、2016年頃から検討していた独自のデジタル通貨構想です。当時は、独自のデジタル通貨を発行しなくても同様のサービス提供が可能であったことに加え、AML/CFT(アンチマネーロンダリング・テロ資金供与対策)対応や情報セキュリティの観点で、銀行水準を確保しながら機動的に事業を遂行する態勢を構築することにも課題がありました。
現時点では、MUFGコインをステーブルコインなどの形式に変えて改めて発行する構想はありません。ステーブルコインについては、国内では3メガバンクによるステーブルコインの実証実験などの取り組みを進めていきたいと考えています。
──三菱UFJ銀行はGoldman Sachsなど大手金融機関とともにステーブルコイン発行を支援する新会社を2026年後半に設立すると発表しましたが、この取り組みに参画した背景や理由をお聞かせください。
山本:新会社では、初期段階において米ドル建てステーブルコインに注力するほか、将来的にはユーロ建てステーブルコインなど、ほかのG7通貨建てステーブルコインへの展開も視野に入れています。
当行としては、ほかの参加金融機関とともに、各国・地域の所管法令に準拠し、銀行水準のコンプライアンスや強固なガバナンス、グローバルな流通基盤、機関投資家水準のリスク管理を備えた、信頼性の高いデジタルマネーの提供を目指していきたいと考えています。
──現在「トークン化預金」に関しても実証実験などが行われています。それぞれ用途は異なるかと思いますが、日本においてステーブルコインとトークン化預金のどちらの普及が先に進むと考えていますか?
山本:ステーブルコインやトークン化預金などの決済ツールについて、現時点ではどちらの普及が先に進むかは見通せていません。
たしかに銀行として、付利が可能で信用創造に資するトークン化預金の方が、銀行機能との親和性が高いことは間違いありませんが、利用シーンやお客様のニーズに応じて両者が併存する世界も考えられます。
したがって、現時点で過度な決め打ちはせず、トークン化預金、ステーブルコインの両面で取り組んで参ります。

──MUFGはProgmat社などとともにJGB(日本国債)のレポ取引のオンチェーン化に関する実証実験を開始すると発表しましたが、本実証実験に至った背景や本格展開の目標時期などについてお聞かせください。
山本:JGBは、信用力・流動性の高さからレポ取引の担保として広く活用されており、足元ではオンチェーン化への機運や期待も高まっていると認識しています。
MUFGはこれまでもさまざまなオンチェーン金融事業に取り組んできました。また、JGBを取り扱う本邦最大の金融グループとして、これまでJGBの流動性や決済に関するサービスを提供してきました。オンチェーン上でも同様の機能やサービスを継続的に提供していくことが、市場の発展や投資家の利便性向上に不可欠だと考えており、グループ各社が協力してJGBレポ取引のオンチェーン化に係る実証を行うことを発表しました。
現在は実証実験のスキームについて検討を深めているところですが、その後の社会実装に向けては、MUFGだけでなく、国内外の金融機関を含むさまざまな市場参加者の皆様と一緒に取り組んでいきたいと考えています。
──将来的に金融のオンチェーン化やステーブルコイン・AIの普及が加速することで、銀行の業務にどのような変化が訪れると考えていますか?また、銀行のマネタイズポイント及び管理コスト等にはどのような影響があるのでしょうか?
山本:オンチェーン化が進んでも、既存の決済・送金やアセットの取引が一気に置き換わるのではなく、当面は既存のオフチェーン領域とオンチェーン領域が併存していくと考えています。
たとえば、単純な送金手数料には下押し圧力がかかる可能性もあります。一方で、グループベースで提供するアセットとの接続や、為替・カストディ機能の提供、より効率的・効果的な本人確認やAML、内部統制対応など、より付加価値の高い領域へ銀行の主戦場が変化していく可能性もあるでしょう。
さらにAIとの組み合わせにより、AIによる分析・意思決定とオンチェーン上での価値移転がつながり、「判断」と「執行」がシームレスになることで、あらたなサービスや取引が生まれる可能性があると考えています。
──エージェンティックコマースなど、AIと金融が密接な関係となった際に考えられる金融機関としての課題、企業や社会に与える影響についてどのように考えていますか?また、MUFGではAIの活用や連携について、何を目標・目的にどのような取り組みを進めていきますか?
山本:AIが情報収集、判断、交渉、契約、支払いまで行う、いわば「AIが経済活動の主体になる」世界が現実味を帯びていると考えています。特に法人領域では、AIが購買・財務・運用などを担い、資金移動や運用まで判断する可能性があります。AIは24時間365日稼働しますので、同じく24時間365日利用でき、プログラムから直接利用可能なオンチェーンマネーやプログラマブルな金融インフラへの期待は大きいです。
一方で、情報管理、著作権侵害、ハルシネーション、説明責任、モデルリスク管理などへの対応も重要です。AIを止めるためのルールではなく、安心して活用するためのルールを作っていくことが重要だと考えています。MUFGとしても、こうした将来の可能性を見据えながら、お客様にあらたな価値を提供できるよう準備を進めて参ります。

──金融のオンチェーン化に関する取り組みで、他行よりも強調できると考えるMUFGの強み、具体的な目標などを教えてください。
山本:MUFGには、決済などのグローバルネットワークに加え、デジタルアセットを提供し得る多様なグループ会社があります。こうした基盤を活用し、決済とアセットの両面でオンチェーン金融に取り組むことで、お客様へのサービス提供において競争力を発揮できると考えています。
また、MUFGを始め銀行がこれまではたしてきた、信用、規制対応力、顧客基盤、KYCといった安心・安全にかかわる機能についても、次世代の金融インフラにおいて引き続き発揮していきたいと考えています。
現時点では、クロスボーダーを始めとするトランザクションバンキング領域と、国債レポに係る証券DVPなどのマーケットビジネスを優先領域と捉えています。
一般事業法人や機関投資家のお客様のニーズをしっかりと反映しながら、可能な限り早期にサービスを提供できるよう、足元で取り組みを進めています。
──最後に、金融のオンチェーン化が進み、一般にも認知・活用されるようになった未来において、社会や経済における「銀行の存在意義・役割」はどのようなものになると考えていますか?
山本:オンチェーン金融は、銀行の役割を小さくするのではなく、むしろ拡張する可能性を持っていると考えています。
銀行業が経済活動を支える公共的なインフラとして担ってきた役割は、AIやブロックチェーンの時代になっても変わらないはずです。
むしろ、あたらしい技術を社会に広く浸透させていく上で銀行が取り組むインパクトは大きいと考えていますし、安心・安全を担保するという意味でも、これまでそうした役割をはたしてきた銀行の重要性は、さらに高まっていくと考えています。


◉山本 忠司|Tadashi Yamamoto
株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ 執行役専務 リテール・デジタル事業本部長 兼 グループCDTO
1992年入行。日本銀行出向や経済調査室でエコノミストとして経済・金融調査に従事。2018年執行役員融資企画部長、2021年執行役員経営企画部長、2022年銀行常務執行役員Chief Strategy Officerを歴任。現在はリテール領域、AI・デジタル、ステーブルコインやオンチェーン金融など、幅広い領域でグループの変革や次世代金融の取り組みを推進。
〈スタッフ〉
オンチェーン化は「金融の民主化」 AIとの掛け合わせで生まれるビジネスチャンス—— 三井住友フィナンシャルグループ 磯和啓雄インタビュー
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