第5回 貨幣史から学ぶ暗号資産——通貨覇権争いのはて

2026/07/30 10:00
Iolite 編集部
文:Shinichi Arima
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第5回 貨幣史から学ぶ暗号資産——通貨覇権争いのはて

満州国の貨幣戦争が暗号資産時代に教えること

本記事のキーポイント

1.暗号資産の乱立と満州国の歴史
現代の3,700万種を超える暗号資産の乱立は、かつて136種もの紙幣が入り乱れた満州国の通貨覇権戦争と重なる。過度な通貨の混迷は経済の混乱を招き、歴史上においても多様すぎる通貨群は市場の麻痺を引き起こす要因となった。

2.政治的思惑と通貨の全滅
満州国では日本や国民党、共産党などの複数勢力による紙幣工作や統一への攻防が繰り広げられた。しかし、物資調達の悪化や激しいインフレの末、政治的・経済的な信認を欠いた通貨群は全滅し、あらたな統一通貨へと取って代わられた。

3.淘汰のはてに残る信認の本質
現代の暗号資産も、すでに一部の銘柄へ静かな淘汰が進行している。暗号資産の競争は技術面だけでなく、どれほど社会的な信認を獲得できるかがカギだ。歴史が証明する通り、最終的に生き残るのは揺るぎない信頼を得た通貨のみである。


現在、暗号資産は3,700万種に膨らんだ。選びすぎた貨幣はどんな末路をたどるのか。銃声なき通貨覇権戦争が繰り広げられた満州国の歴史は、生き残るのは「信認」を得た者だけだと教える。

今回の貨幣:『満州中央銀行1円札(乙号券1円札)』

The History of Money image1
満州中央銀行券は開業が急を要したこともあり当初は東三省官銀号券の改造券だった。本券は1935年から発行された新様式。日本銀行券や朝鮮銀行券と様式を揃えている。サイズ:縦67mm×横128mm 発行国:満州国 発行期間1935~1945年

現在世界に暗号資産銘柄が、どのくらいあるか把握している人はほとんどいない。価格追跡サイトCoinMarketCapによると、地球上には3,700万を超える暗号資産が存在しているそうだ。取引実態があるものは17,000~18,000銘柄。活発に取引されているものでも200銘柄前後だ。選択の幅が増え過ぎることは、こと貨幣においては余計な混乱を招くことがある。今回は、貨幣の種類が巻き起こした争いの例を紹介したい。舞台となるのは、1932年の中国東北部。滅亡した日本の植民国家・満州国である。

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1932年、日本が中国東北部に建てた傀儡国家。清朝最後の皇帝・溥儀を元首に据えたが、実権は関東軍が握っていた。
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満州国皇帝『愛新覚羅溥儀』清朝最後の皇帝で、辛亥革命により幼くして退位した。1934年、日本によって満州国皇帝に擁立されるが、政治的実権は関東軍が握り、彼は終始名ばかりの元首にとどまった。

満州は元来中華文明のなかには与していなかったが、この地域の女真族が清王朝を興し中華統一を成し遂げたことから中国とみなされるようになった。1860年に北京条約が締結されると、内満州は清からロシア帝国に割譲され、外満州も同帝国の租借地※1となる。

ロシアは1891年2月にシベリア鉄道建設を正式決定し、後に満州となる東三省にも1903年に鉄道が敷設された。この鉄道の運行はロシア帝国が直接行っていた。大量の物資と兵員をモスクワから極東へ輸送する鉄道は、朝鮮半島を軍事的な緩衝地帯としたい当時の日本からすれば脅威であった。

1904年に日露戦争が開戦し、日本は勝利する。すると日本は賠償金に加え長春より南の鉄道支線の譲渡を要求。軍事圧力の緩和を狙う。これが後に、鉄道経営だけでなく駅周辺の炭鉱開発も行う一大コンツェルン南満州鉄道(満鉄)として、東三省エリアの経済を支えることとなる。

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ロシア帝国がシベリアを横断して極東を結ぶべく敷設した世界最長の鉄道。1891年着工、1916年に全線開通。後に満州となる東三省にも支線が延び、大量輸送が可能なこの鉄道は日本の警戒を強く招いた。

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