あたらしい靴を履いた日はモチベーションがあがり、綺麗に使おうと自分と約束をする。そんな誓いも1週間もすれば踵を潰して履いていた幼少期。今振り返ればモチベーションなどそんなものかと思わされる。
2021年の夏にこの業界に入った私は遅咲きもいいところだったが、あと5年もすれば古参といわれる日もくるのだろう。名刺代わりに業界歴を話す業界人にはならないように、と自分にいいきかせて日々襟は正しているつもりだ。当時の私は暗号資産というより、ブロックチェーンの技術に非技術者ながら心の底からワクワクして、あたらしい靴を履いた日のあの頃のようなモチベーションがあった。無知を情熱で補って、数々の有識者の方に取材を通して育ててもらった。これには感謝してもしきれない。
名前は伏せるが2021年から長らくお世話になっていた方から先日、業界を卒業するという連絡をいただいた。ポジティブな内容で安堵したのと同時に、また心にポッカリ埋められない穴が空いてしまった。「石の上にも三年」ではないが、3年もいれば多くの出会いと別れがある。恩人との距離が離れるのは悲しくて、いくつになっても慣れないものだ。これからも仕事を通じて、今までお世話になった恩人に報告できるようなモノを残していきたいと強く思う。
これを機に、2021年以降に暗号資産市場で起こった出来事を振り返ってみた。中国による暗号資産規制の強化、テラ(LUNA) ショック、FTXの破綻と創業者の有罪判決、株価まで揺るがすようなネガティブな出来事の連続だった。踵も潰して歩きたくもなる。それでも業界に残れたのは、仕事の過程をどこか楽しめていた自分があったからなのではないかと感じる。
「結果ばかりを求めていると、結果が出ない時にモチベーションを維持するのが難しくなってしまうのかなと思っています。結果よりも内容を重視して、1局ごとに改善してあたらしい発見をしていくことがモチベーションにつながると思っています」
将棋の棋士、藤井聡太竜王が18歳の時に話した内容は、結果と向き合う時の在り方を俯瞰して考えるきっかけをくれる。 確かに確率や期待値の収束は膨大な試行回数が前提として存在する。サイコロの目で1を出すのに1回目に出るか10回目に出るかはどちらも基本的には1/6で確率一律だ 。それを踏まえれば、1回振った時に出た結果に対してあてもなく考えても何も意味がないことがわかる。1の目を出したいならとにかく振り続ければよいし、勝ちたいなら6よりも大きい払い戻しがある時に振る。小さい時には振らないが鉄則だ。そこにモチベーションなど存在しない。もはや博打は、する前から勝敗が決まっている。
藤井聡太竜王が話した、“結果よりも内容を重視”というのは、「今日はサイコロを振れた、よくがんばった」ではなく、期待値がある状況に挑戦できたことを重視しよう、と私は解釈している。
今年11月初旬の大統領選を目掛けて、昨年末頃から上昇を始めた暗号資産市場は大相場といっても過言ではない上昇トレンドを継続している。これが現時点では継続する余地も残しているのが面白い。この業界に飛び込んだ2021年からの挑戦は、3年を経てようやく実を結びつつある。改めて思うのは、成長する市場に身を置くことの重要性だ。自分がどれだけ未熟であっても、よい環境にいるだけでポジティブな影響を受けることができる。サイコロを振るチャンスが舞い込んでくる。最後に必要なモノは度胸くらいではないだろうか。
今号の特集で取り上げたAIの進化も目覚ましい。ブロックチェーンの盛り上がりを追い抜く勢いで急成長を遂げ、もはやWeb3.0の本丸はAIだったのではないだろうかとみつめ直すほど、すでに私たちの日常に溶け出している。勝負できる環境に身を置き、勝機を見出せたなら、自分の意志に賭けてまたあらたな景色をみてみたいものだ。
関連記事
Leader「リーダーが持つ光と影」—— Iolite Special issue 編集後記
Entertainment「仕事人で居続けること」—— Iolite vol.9 編集後記